第一章
謎のゲートとスライム Episode.1
私立一翼中学高等学校。偏差値50、駅から徒歩5分、なんの変哲もない共学の中高一貫校である。その学校の高等科、2年B組の教室で、男子は後ろでプロレスを行い、女子は真ん中で最近流行りのコスメやら、韓国アイドルグループについて話し、ヲタクは片隅で好きなアニメや声優イベントの情報を共有し合っている。そんな騒がしい教室で、1人、どこのグループにも入らず、本を読んでいる生徒がいた。ヲタクグループと仲が良く、他の男子や女子とも最低限の会話はするものの、基本的には1人でいるのが好きな生徒。その生徒の名前は、雪原華衣。エコー検査の際、医者に性別を男と間違えられ、両親が既に決めていた「快」という名前を呼び方そのままで漢字だけを変更した、という何とも雑な命名。漢字の意味は勿論ないが、本人は全く気にしていなかった。一翼高校ではスラックスが導入されており、学校の女子の6分の1程がそのスラッグスを使用している。華衣もその一人だった。加えて、ボーイッシュなショートヘア、そして、中性的な顔、165cm程の身長は、彼女を男性と間違えさせるには充分だった。最早「快」のままで良かったのではないかという外見をしている彼女だが、決して、大人しい性格をしている訳ではない。
.
.
.
帰宅部最速を誇る彼女は、「さようなら」という言葉を言いながら教室を出て行き、担任の怒鳴り声を後ろに響かせながら、早歩きで学校を後にする。電車を乗り継ぎ、40分かけて帰宅する。勿論、家には誰もいなかった。水で濡らした手をタオルで拭いた後、2階にある自室へ向かうと、バッグを放り投げ、制服のままベッドへダイブしようとした。しかし、ダイブする直前で、部屋の奥に、不思議なものが目に留まった。
「…?」
目を凝らしながら、”それ”にゆっくり近づいて行く。
「なんこれ」
“それ”は、ブラックホールの様なものだった。ブラックホールと言っても、吸引
力は無く、黒と青が混ざった渦巻きだった。
150cm程の渦巻きは、時計回りに中心へと渦巻いている。
「こんなのあったっけ?…いや、なかったよな。え、こわ」
華衣はまじまじとその渦巻きを見ながら、恐る恐る手を伸ばす。すると、渦巻きに触れた瞬間、手が渦巻きの中へ入っていった。
「いっ!?」
華衣は慌てて手を引っ込めると、渦巻きから慌てて離れ、渦巻きに入っていった手を半ば放心状態で見つめる。
「え…まじで何」
口をひくつかせながら、頭の中で色々思考を巡らせる。
(何あれ何あれ何あれ!!なんで手が入ったの??え、ゲート的な?あれ?なんで私の部屋にあるん??おかしくね?いつ出来た?朝無かったよな…じゃあ私が学校に行ってる間だな。よし。てかお菓子食べたい。いや、今はそんなことどうでも良いんだ。手が入ったってことはゲートなんだよな。漫画でもあんなの見たことあるな。ゲートならどっかに繋がってるよな。そーいや手が入った時少し冷えたんだよな…よし、とりま入ろう)
心の中でそう決心すると、少し暖かめの服に着替え、渦巻き…ゲートの前に立った。
少し屈みながら、ゆっくりとゲートの中に入っていく。身体に不思議な感覚を覚えつつ、目を瞑りながら前へと進んで行く。少し経つと、身体の不思議な感覚が消え、頬にひんやりとした空気が当たった。目を開けると、そこは薄暗い空間だった。
「ここは…洞窟?」
壁も地面も天井もゴツゴツなその空間では、ひゅおっと音を立てて、風が吹き抜けており、少し先では壁に付けられた松明の炎がゆらめいている。
(…誰かここに来たことあるのかな)
後ろを見ると、家にあったものと全く同じ色、形をしたゲートが渦巻いており、華衣は少しほっとした。
「…てか、こんな足場じゃ靴下だけじゃ行けないな。靴履いてこよう」
その空間は、壁や天井程ではないが、地面もそれなりにゴツゴツしており、靴下だけでは到底進めなかった。実際、今も少し痛みを感じている。靴を取りに行こうと後ろのゲートへと戻る。ゲートへ入る時に洞窟を振り返った瞬間、奥で何かが動いた気がし、こういう洞窟にありがちなモンスターの可能性も考えたが、風に炎が吹かれて影が動いただけだろうと考え、あまり気に留めなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます