シャングラ異変
帝国フェラルト。シャングラの人間族の中で、最も栄え、最も力を持つ国。初代皇帝アルカー・ローグ・フェラルトによって建国されて以来、第15代現皇帝ヴィストシスタ・ローグ・フェラルトに至るまで、その力は衰えることを知らなかった。冒険者ギルド本部や、巨大宗教ルオミネン教総本部、大手商会本部が置かれ、巨大ダンジョンがあることで、街は人々が盛んに出入りしていた。
しかし、そんな日々に、突如異変が起きた。
ある日、ヴィストシスタの下に、一通の便りが届いた。送り主は、ルオミネン教教祖ウルスからだった。従者から受け取った便りには、こう書いてあった。
『フェラルト15世皇帝陛下殿
突然の便り、大変申し訳ございません。たった今、我らが偉大なる神ルオミネン様から、近い内、フェラルト内に”扉”を出現させる、とのお告げが下りました。扉は”地球”という別世界と繋がっている。そこの者達と協力し、邪神ゲルドガを討伐せよ、とのことでございます。邪神ゲルドガとは何者なのか、我々も現在調査中でございます。陛下も至急御対応願いしたく申し上げます。』
「陛下!どういたしましょうか」
フェラルトのもとに手紙を届けた従者が尋ねる。
「今すぐ宰相とヴィクトとリドラを呼んでこい!」
「は、はい!」
従者が慌てて出て行ってから5分程経った後、ヴィストシスタのもとに、宰相シェイル・オクセンレイド、ヴィストシスタの長男ヴィクト・ローグ・フェラルト、次男リドラ・ローグ・フェラルトの3名が集まった。
「従者から話は聞いているな?」
「はい、聞いております。確か、扉が出現すると…」
シェイルが答えた。
「ああ、その通りだ。あと、邪神ゲルドガなる存在についてもな」
「邪神?邪神ってあれだろ。悪い神だろ?そいつと戦うのか?」
ヴィクトが目を輝かせながら言った。
「相変わらず野蛮だな、この
「ふむ、リドラの言う通りだな。早速会議を開くべきか…」
「陛下、お待ち下さい。まだ問題が残っておりますよ」
「問題だと?」
「国民です。まだこのお告げは、我々にしか届いていないのですよね?となれば、当然国民はこの事を知らない。このままでは、実際に扉が出現した際、国民は混乱の渦に落ちるでしょう。それに、例の扉は、全ての国に出現するのですよね?それについても、至急情報を共有すべきです。それに…」
「ええい、まだあるのか!」
苛立った様子で怒鳴るヴィストシスタに、冷静な態度でシェイルは言う。
「…言語です」
「言語だと?」
「はい。地球というのは、ここシャングラとは全く別の世界なのでしょう?ならば、言語での交流は難しいと考えるのが妥当ではないでしょうか」
「ふむ…」
シェイルの意見を聞き、ヴィストシスタは難しい顔をした。
「その点は大丈夫ではないでしょうか」
ヴィストシスタが悩む中、リドラが口を開いた。
「どういうことだ、リドラ」
「扉をつくり、2つの世界を繋ぐのは神々なのですよね?なら、2つの世界の言語が違うことぐらい把握できる筈です。神々ならば、2つの世界の言語を理解させ合うことぐらい、簡単なのでは?」
「確かにそれも一理あるな…」
異世界と繋がる扉。それだけでもまるで訳が分からないのに、肝心なその異世界に関する情報が全くない為、3人はひどく頭を悩ませた。
「とりあえず邪神っての倒しゃいんだろ?俺がやって来てやるから、そのゲロトカってやつの場所教えろ!」
「何度言ったら分かるんだこの脳筋!邪神へと続く道はまだ開かれていないし、そもそもゲロトカじゃなくてゲルドガだ!それに、なぜルオミネン様が地球とやらと共闘しろとおっしゃっているのか分かってるのか!それだけ邪神ゲルドカという存在が強だ…」
リドラは自分が言っていることに気付き、さっと顔を青ざめた。
ヴィストシスタの顔も青ざめている。
「まさか…我々の力をもってしても、その邪神には叶わないのか?」
シェイルはそう呟き、真剣な顔をして考え込んだ。
「でも、だから地球と組ませるんだろ?地球にも俺みたいな強い剣士とか、馬鹿でけぇ魔法ぶっ放す魔法使いとか、そういうのがいるんだろ?だったら何とかなるんじゃねぇの?」
間接的に、お前1人じゃ勝てないとリドラに言われたことを察し、ふてくされたヴィクトが、ぶっきらぼうに言った。
「そうだな。そうに違いない。この話は一旦やめだ。直ちに他の大臣を呼べ!騎士団長もだ!貴族どもには手紙を出しておけ!会議が終わり次第、早急に国民にこの事を公表しろ!そして、全ての国に使者を送り出せ!」
「はい」
「かしこまりました!」
「おうよ」
神の存在を知っていたシャングラは、早速、扉への対策を始めた。。この件はすぐに国民中に公表され、皇宮内では、地球へ送る使者の選別も開始されたのだった。
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