求められる理由

 俺達を助けてくれたのは、叫喚地獄で別れたはずの女の子だった。


「ヨミちゃん? いいえ、私は剣士のクララって言います。よろしくね」


 えっ、違うの? 似てるってレベルじゃないぐらい瓜二つなんだけど、冷静に考えたらあの子がここにいるわけないよな。


「あ、ごめん。知ってる人にそっくりだったから。俺は大道芸人のソウタって言います。助けてくれてありがとう!」


「俺はコソ泥のゲンザブロウだぁ」


「私は白魔術師のユウホウです。助かりました」


 それぞれにこの世界の人間として自己紹介をする。だが雄峰はクララちゃんの顔をじっと見つめていた。おい、セクハラだぞ。


「……失礼ですが、クララさんはどちらの生まれで?」


 ああ、雄峰はあくまでも彼女がヨミちゃんだと疑ってるんだな。本当にそっくりだもんな。


「私はずっと北にある、レーヴィオという国で生まれました」


 嫌な顔一つせずに笑顔で教えてくれるクララちゃん。この態度もヨミちゃんを彷彿とさせるなー。


「おいおい、ナンパかぁ? このスケベエルフがぁ」


 中年オヤジが茶化す。だが、この場面ではGJだ。


「いや、そんなつもりじゃ……」


「あはは、こんな可愛い子じゃあしょうがないよな」


 俺もからかう振りをして雄峰をなだめ、場を誤魔化した。


「えっ、可愛いなんて、そんな……」


 頬を赤らめるクララちゃん。……あれ?


「俺達はプリン退治のクエストで来たんだぁ」


 こんなところでどうしたのかと聞かれて答えると、軽く驚いた顔をするクララちゃん。


「えっ? さっきの奴はプリン・ア・ラ・モードというユニークモンスターですよ。プリンはあっちに沢山います」


 彼女の指差す方向を見ると、確かに俺の膝ぐらいの高さのプリンがうようよしていた。だから何でそんな形なんだ……食べられるの?


「なんだ、やっぱり違ってたのか。あれを十匹狩るなんてどうかしてると思ったんだよ」


 クエストの内容は、プリンを十匹狩ってくることだった。


「戦闘で得られる経験値はモンスターを攻撃した人だけなので、私は横で見ていますね」


 あのデカいのを一刀両断にするような強者に手伝って貰ったら何の経験にもならないもんな。パワーレベリングは不可ってことか。


 本物のプリンは思った以上に弱かった。楽々退治を終えた俺達は、町へと戻るところだ。


「本当にピエロなのね。どうやってそのジョブを取得したの?」


 少し話をして仲良くなったクララちゃんが聞いて来た。口調もすっかり友達モードだ。やったぜ。


 この世界では冒険者ギルドの他に、各ジョブに対応した職業ギルドがある。そのジョブのギルドに登録して認定を受けることでクラスが設定されるのだ。


 そういえばピエロは百年以上確認されてないってことは職業ギルドも……あれ? 俺どうやってクラスアップすればいいんだ?


「う~ん、自分でもわからないんだけど、気が付いたらピエロだったんだよ」


 彼女の質問には記憶喪失的な設定で乗り切ることにしよう。それよりも今後の俺の人生設計がヤバい。


「えっ、もしかして記憶が無いの? じゃあクラスアップとか困るんじゃ」


 だよねー。


「まあ、記憶のことは置いといて、ピエロのクラスアップについては心配いらないよ」


 雄峰が話に割り込んで来た。ピエロがいないことも知らなかったのに何を知っているんだ?


「そもそも、私達のジョブとはこの世界の神が最初に人間に与えた特殊な力なのさ。これはエルフがジョブに着く時にはよく使われている手なんだが、世界の各地にクラス認定の祭壇があって資格があれば誰でもそこで好きなクラスになれるんだ」


 便利じゃん!


「なら、職業ギルドいらなくねぇ?」


 確かに。クララちゃんも源三郎に同意して頷く。


「それはね、人間の世界ではコネというものが大事だからだよ。あとは町にあった方がモンスターだらけの祭壇に行くより楽だし安全だろう?」


 後半は納得だが、前半については何か嫌な予感がするな。この世界、結構人間関係がドロドロしてたりして?


「そうなんだ、良かった。クラスアップ出来ないとピエロの意味がないもんね」


 手を合わせ、笑顔になる。確かにピエロはクラスアップすることで格段に成長するジョブだから出来ないとただの役立たずだ。


「……ピエロの意味がないとはどういうことかな?」


 だが、雄峰は不思議そうな顔をして聞き返した。


「ああ、あまり知られていないものね。国王がピエロを求めているのは、ピエロの上位クラスの宮廷道化師ジェスターが覚えるスキルが必要だからなの」


 えっ? 珍しいから見てみたいとかじゃないのか。ツチノコ的な扱いかと思ってた。


「宮廷道化師……今ソウタは大道芸人だから、旅芸人、道化師、宮廷道化師とクラスアップする必要があるね。ちなみにその上はジョーカー、トリックスターとなるよ」


 大道芸人と旅芸人の違いがよく分からないが、クラス名に大した意味はないんだろうな。


「へー、それでレベルを上げないと王様があってくれないんだ。やっと状況がわかった」


 余談だがプリン・ア・ラ・モードを一撃で仕留めたクララちゃんのクラス、剣士は闘士ウォリアーというジョブの三次クラスだ。四次クラスの宮廷道化師って相当厳しいんじゃ……?


「それじゃあ、頑張ってね! 何かあったらいつでも呼んでねー」


 クララちゃんと仲良くなったし出来れば一緒に行きたいけど、レベル差があり過ぎるので断念。まあ、同じギルドでクエストを受けてるみたいだし、いつでも会えるさ。


「うん、またね!」


 手を振り、別れた。また会えると分かっているから、笑顔で別れられる……地獄で別れるのとは違うんだ。


「今日は休もうか。明日からまたレベル上げをしないとね、三次クラスぐらいまでは一気に上げよう」


 わざわざ三次クラスと言うあたり、言いたいことは分かる。そうだな、やる気出てきた!


「男だけじゃむさ苦しいもんなぁ」


 むさ苦しさの元凶が何を言うか。


◇◆◇


現在の三人


ソウタ 大道芸人レベル4


ゲンザブロウ コソ泥レベル4


ユウホウ 白魔術師レベル4

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