玉乗り仕込んでいいですか?

 懸賞金は、実際に首都の王城に行くと支払われるらしい。国王直々に、百万リゲル(通貨単位)ものお金を手渡されるという。ただ、レベルの低い冒険者では会って貰えないようだ。


 懸賞金まで出して求めてるのにレベル低い奴は来るなってどういうこと? いったいピエロに何を求めてるんだ?


「さあ、修行だ!」


 目を輝かせた雄峰の勢いに押され、次のクエストを受ける。俺はもう宿で休みたいんだけどなー。


 こいつ実は金の亡者だな?


「じゃあ、レベルも上がったことだしモンスターでも退治してみるか?」


 ドノヴァンが新しいクエストを用意する。ちなみにギルドにもピエロ情報の提供依頼が来ていて、登録した情報は既に売り渡したと一切悪びれる様子もなく言い放った。ファンタジー世界には人権侵害という言葉は無いようだ。


「おおっ、ついにモンスター退治か!」


 興奮するコソ泥(レベル2)。怪盗にはあんまり関係なくない?


 退治を依頼されたのは、プリン。プリンと言うと多くの日本人は黄色いプルプルに茶色いカラメルがかかった甘いデザートを思い浮かべるだろう。元々プリン(プディング)はゼラチン等で固めた料理の総称で、日本で一般化されているアレはカスタードプディングというプリンカテゴリの中のほんの一部の料理に過ぎない。日本人には馴染みの無い料理としてライスプディング(米をミルクで煮込んだもの)というものがあることも有名な話である。


 そして、相手はモンスターだ。名前から想像するに、スライムの親戚みたいなやつだろう。


「あれだなぁ!?」


 源三郎は索敵が得意らしい。指差す方向に目を向けた。


――そこにいたのは、『プリン』だった。


 黄色いプルプルした円柱。上部は茶色い。体高は三メートルぐらいだろうか?


 いやいやいや、それはおかしいだろ!? それどう見ても食べ物のプリンじゃん? それも日本での一般的な形じゃん?


 ていうかデカッ!!


「これ本当にレベル2で退治するようなモンスターか?」


「でも、どう見てもプリンだろぉ?」


 確かに。


「プリーーン!」


 えっそれ鳴き声? 『それ』はプルプルしながら音を発した。俺達を敵と認識したようだ。


 そして、ジャンプ!


「うおおおお!」


 あの巨体で押し潰してくる気だ! 瞬時に察した俺達はダッシュでその場を離れる。


 ズドオオオン!


 死ぬ! 巻き込まれたら間違いなく即死する!


「ふざけんなドノヴァン! なーにが『退治してみるか?』だ!」


「文句を言っても事態は好転しないよ。さあ、焼きプリンにしてやる!」


 雄峰の掌に火の玉が生まれた。白魔術師といっても攻撃魔法が使えないわけじゃなく、一通りの魔法は使えるらしい。この世界では魔法はレベル管理で、「レベル1の魔法」みたいな枠組みで使えるようになる。得手・不得手を決めるのはパッシブスキルだ。


 そして、ピエロである俺もレベル1の魔法は使える。魔力の差で雄峰ほどの強さは無いが。


『ファイアーボール!』


 二つの火の玉が巨大なプリンにぶつかり、炸裂した。


 プルルルルンッ!


 震えるカスタード。効いてるのかよく分からん。


「こうなったら斬り刻むぜぇ!」


 シーフが素早く近づき、手にした短剣で切り裂いていく。斬られた部分がはがれ落ち、地面に溶けた。これは効いてる!


「よし、俺も!」


 俺はレイピアを構え、源三郎に比べると遅い動きで突き、切り裂く。


 パパラパッパパー!


「!?」


 俺の冒険者カードが光を放った。ダメージを与えた時点で経験値が貰えるタイプか。


 何にせよまたスキルを覚えたぞ! この状況を打開する戦闘スキル来い!


 俺はカードを取り出し、見た。


 『玉乗り』


「どないせえっちゅうねん!」


 いかんいかん、思わずエセ関西弁になってしまった。


「もっと攻撃してレベルを上げるんだ!」


 そう言いながら、今度は風の刃でプリンを切る雄峰。源三郎も更に攻撃する。


「……」


 すると、それまで落下地点から動かなかったプリンが、縦に縮み始めた。


「ヤバい、またジャンプするぞ!」


「プリーーーーンン!!」


 一際大きく咆哮し、ジャンプ……を小刻みに連続して行うプリン。着地するたび、地面が震動する。予想外の素早い動きに離れるのが間に合わず、地面の振動に耐えきれずその場に尻もちをつく三人。


「しまった!」


 この状態からのしかかるような攻撃をして来たら……一巻の終わりだ。分かってはいるけど、振動が激しくてうまく立ち上がれない。


「くっそおお!」


――スパッ!


 突然、目の前で真っ二つに両断されるプリン。


「……え?」


「プ……リ……ン」


 力無く吠え、溶け消えていった。


「大丈夫ですか?」


 地面にへたり込む俺達に掛けられる、可愛らしい声。間違いなく女の子だ!


 期待と共に目を向けた先には……


 長い黒髪、輝く大きな目。とんでもなく可愛い、見覚えのある・・・・・・女性が立っていた。


 「ヨミちゃん!?」

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