ピエロのいない世界
「俺はこの冒険者ギルドのマスターをしている、ドノヴァンだ。よろしくな、ソウタ!」
ああ、いかにもドノヴァンって感じだわ。
しかし、この世界では俺達の名前もカタカナなんだな。なんで日本語なのかとか日本語だったら名前カタカナの意味ないじゃんとか言いたいことは山ほどあるが置いておこう。
さっきからこのおっさんどころか、ギルドの冒険者らしき人々がやたらと期待に満ちた目で俺を見てくるのは一体何なんだ!?
「ドノヴァンさん、レベル1の我々に最適なクエストを見繕って貰えますか?」
「おう、これなんかどうだ? 迷子の子猫探し」
無難だな。町の地図も覚えられるし。
「えぇー? そんな地味なの嫌だぜぇ」
黙れコソ泥レベル1。
「おいおい、冒険は地味な仕事からコツコツとが基本だぜ? そんなんだからその年でレベル1なんだよ……」
そうだそうだ、言ってやれドノヴァン!
「まったく、変わった奴等だな。一体何が目的で冒険者やってるんだ?」
そう言いながら俺達三人の冒険者カードを見るマスター。目的……?
「うーん、旅行?」
「そうだね、ただ世界を見て回りたいだけ、かな?」
「大怪盗になりたい」
それはもういいから。
しかし、ドノヴァンは俺のカードを見ながら胡散臭げに言う。
「旅行……ねえ? こんな、生まれた時からトリックスター目指してますと言わんばかりの技能構成で?」
むむむ、そうなのか。俺は周りの声に振り回されてただけなんだけど。
「まあいいさ、とにかく最初は地味な仕事を数こなすのが大怪盗への最短ルートだぞコソ泥!」
「ぐぬぬ、仕方ねぇ」
そんなわけで、子猫を探しに公園へやって来たのだ。
「見つけたぞぉ」
「はやっ!? ちゃんと特徴も合ってる!」
「源三郎はこういうの得意そうだと思ってたけど、想像以上だね」
こいつもうずっと子猫を探させてればいいんじゃないかな?
――あっ、ピエロ!
――おお、まさか本物なのか?
――ついに……ついにこの時が!
なんか伝説の勇者登場みたいな反応されてるんですけど……?
「雄峰、なんかピエロが特別扱いされるような情報とか知らないの?」
「さあ? 少なくともマイナス感情ではないことは確かだね。これは使えるよ」
またニヤリと笑う詐欺師。どうせ俺を利用して稼ごうとか考えてるんだろうけど、お尋ね者になるのはごめんだぞ?
「持ってきたぞー!」
子猫をギルドに届けた。
「早いなおい! 確かに依頼の子猫だ、よくやった。ちょっと待ってろ……」
何やらゴソゴソとカウンターの裏を漁ると、カードリーダーみたいな機械を取り出した。周りが思いっきりファンタジー世界なのにめっちゃ違和感あるんですけど。
「これは古から伝わる魔法具だ。神から授かったと言われるが、とにかくギルドを結成するために必要なものでな。冒険者カードをこの隙間に通すと依頼の報酬が支払われる仕組みだ」
へー。
何となく、この世界の神って意図的にゲームを再現しているような?
「どれどれぇ?」
源三郎が最初にカードをスリットに通す。まあこいつの手柄だし、一番乗りでいいだろ。
パパラパッパパー!
突然鳴り響くファンファーレ(?)。最初のクエストをクリアすると大体こうなるよなー。
「おめでとう、レベルアップだ」
コソ泥がレベル2になった!
「おおぅ、特に何も感じねぇ」
うん、だと思った。
「何もしてないけど私も貰えるのかな?」
続いて雄峰がカードを通すと、
パパラパッパパー!
レベルが上がったようだ。カードが光を放つ。
「それは新しいスキルを手に入れた合図だ。白魔術師は治癒の魔術を強化するパッシブスキルを覚えることが多い」
言われるままに雄峰のカードを見ると、『治癒強化1』という分かり易いスキルが追加されていた。
「何か変わったのかな? 試そうにもまだ治癒の魔術なんか使ったことないからわからないな」
実験台にならないかと目で語り掛けてくるエルフに気付かない振りをして自分のカードを通す。
パ(省略
「お、『ジャグリング』とかいうスキル覚えた」
ジャグリングってあの色んな物でお手玉するやつか。……何の役に立つんだ?
「おおおおお! 本当だ! 本当にジャグリングだ!!」
ドノヴァンがうるさい。
途端にギルドの冒険者たちがざわつく。これ、披露させられるやつだよね?
「おい! 号外だ!」
なんか眼鏡をかけた奴が叫びながら出て行った。たぶん新聞記者だろう。
俺はもうこの状況を受け入れつつあった。
「凄い反響だね。これはひたすら使って世界一のジャグラーになるしかないな!」
はいはい、見世物ですねわかります。ちなみにスキルは繰り返し使うことでスキルレベルが上がる。熟練度システムだな。
「よし、広場に案内しよう」
もう見せる前提かよ。せめて俺に確認しろよ。
広場は人で埋め尽くされていた。あっちを向いてもこっちを向いても、人、人、人――
「帰っていい?」
「駄目」
いつの間にかシルクハットを手にした雄峰が笑顔で却下する。
「お~、すげぇなぁ。ピエロって人気なんだなぁ」
そうだなぁ。
「レディース、エンドジェントルメン! これよりピエロのジャグリングショーが始まるよー!!」
シルクハットをクルクル回しながら司会を始める雄峰。この人波を前に活き活きとしている。
詐欺師ってすごい。
「さあ、颯太」
促され、前に出るが緊張して上手く歩けない。ギクシャクした動きで進み出ると、割れんばかりの拍手で迎えられた。
――うおおおおー! ピエロだー!
やめて、プレッシャーやめて。
ついさっき覚えたばかりのスキルだが、覚えた瞬間からどうすればいいのかが頭に入っていた。
まずはボールを三つ。
念じると手に現れるカラフルなボール。
――おおお~~~っ!
歓声に気圧され、ぎこちなくボールでジャグリングを始める。
「ほっ、ほっ、ほっ……あっ!」
ボールを落としてしまった。失敗だ。
――アハハハハ!
ああ、いっそ笑え! この無様なピエロを笑うがいい! もうこれ以上恥ずかしいことなんかないわ!
次はクラブだ。三つのクラブを念じて生み出し、高く投げ上げて回転させる。
――すげえ!
ふふふ、いい調子だ。このまま……あれ? 一本どこに行った?
三本のうち一本が見当たらない。どこかに飛んで行ったか? キョロキョロと左右を見回す。
ゴスッ。
完全に真上から、クラブが俺の脳天をジャストミートした! その場に倒れる俺。
――ドッ!!
大 爆 笑 !
「はいはーい、お代はこちらね」
一応俺に治癒の魔術をかけた後、シルクハットを逆さに持って観客の前を練り歩く雄峰。あっと言う間にシルクハットはチップで一杯になってしまった。
なるほど、そのためのシルクハットか。
「いやー、いいものを見せて貰ったよ」
満面の笑みを見せるドノヴァン。俺はいい恥をかいたよ。
「おもしろーい! ぴえろさんあくしゅして!」
小さい女の子が握手を求めてきたので手を握ってやる。
まあ、子供に楽しんでもらったならいいのかな? 金も稼げたし。
「本当に間違いなくピエロだったんですね! 感動しました!」
さっきの眼鏡が話しかけてきた。なんでそんなに疑われなきゃならないんだ。この格好見てピエロ以外に見えるのかよ?
「そんなにピエロって珍しいのかぁ?」
源三郎の疑問に、顔を見合わせるドノヴァンと眼鏡。
「そりゃ、なあ?」
「だって、ピエロなんて百年以上確認されてませんし」
えっ?
「各国の王は懸賞金まで出してピエロを求めてるんだ。お前らもそれ目当てにカルボネアに来たのかと思ったんだがな」
な、なんだってーー!?
「その話、詳しく聞かせて貰えませんか?」
真っ先に食いついたのは雄峰だった。こいつ商魂逞しいな!?
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