ピエロが来た!

 これは罰ゲームではない。あくまでも褒美である。


 だから、俺達にはこの世界の常識レベルの知識が全て備わっていた。知識能力の高い雄峰はさらに詳しくこの世界のことを知っている。つまり、俺達三人の立ち位置は変わらないということだ。


 俺が知ってる範囲で簡単にこの世界のことを説明すると、この世界の名前はイストリア。幾つもの国家があり、様々な種族が暮らし、モンスターなんかも闊歩する世界。


 この手の世界にお約束の魔王なる存在は数百年前に倒され、今のところ復活の予定もない。


「……で、ここはどこの国だ?」


 おそらく知っているであろう雄峰に尋ねた。


「うーん、あの山の形からするとカルボネアの西部かな?」


 カルボネアはイストリアの中でも比較的南部に位置する国だ。あまり大きな国ではないが、冒険者が集まることで有名なので俺でも知っている。


「いきなり危険地帯に放り出されたりはしないか。とりあえず町を探してギルドに行こう」


 旅をするにも先立つものが必要だ。仕事を探そう。


「颯太はこういうの詳しそうだなぁ。まずはどうすればいいんだぁ?」


「そりゃあ、まずはギルドに行って簡単なクエストをこなしてお金と経験値を貯めるしかないだろ」


 ファンタジーRPG序盤の王道的展開を説明した。


「よし、異世界上級者の颯太に従ってギルドを目指そう」


 なんだ異世界上級者って!? こんなの常識だろ?


 少し歩いて、重大な事実に気付いた。


「なあ、何で俺こんな格好してるんだ?」


 俺の質問に二人は顔を見合わせて首を傾げる。


「こんな格好? ……あっ、そうか!」


 やっと気づいたか。俺は緑と赤の派手な縞々の服を着ていた。頭には白いポンポンのついた帽子をかぶり、靴は先が長く尖って反り返ってる。


「その恰好で顔がすっぴんなのはおかしいよね! 気付かなかったよ、ちゃんとメイクしないと」


「ちっげーーーーーよ!! なんでこんなピエロみたいな服着なきゃいけないんだよ!?」


「そりゃピエロだし?」


 いや、そりゃピエロだけどあくまで能力タイプ的な意味じゃないのかジョブって?


 まさか、ずっとこの格好で過ごさないといけないのか?


「でも化粧すると肌が荒れるんじゃねぇかぁ? ピエロの仮面みたいなの無いのかぁ?」


「荷物を見てみたら?」


 いや、だからそれ以前に服装が……もういいや。こいつらが俺の話を聞くわけが無かった。


「でも荷物って、そんなのあるわけ……」


 あった。


 荷物の中に明らかにピエロの顔を模したマスクが入っている。手紙付きだ。


――化粧すると肌が荒れるからこれをつかってね! キャラメイク


 わー、やさしー(棒)


「いいじゃないか。新しい自分に目覚めるかもよ?」


 そんな新しさはいらない。


「ところであそこにいるのスライムじゃねぇかぁ?」


 本当だ! あのぷるぷるしたのは、かの有名なスライムじゃないか!


「レベル上げに狩ってみるかぁ?」


 いや、それはダメだ。


「やめとこう。我々はスライムと死闘を繰り広げるレベルだって言われたからね」


 そうそう、弱いモンスターだと思ってうかつに挑むのはRPG序盤の失敗パターンだ。


「ああ、モンスターには近寄らないでまず町に行こう」


 何にせよ生存が最優先だ。俺達は近くの町へ向かった。


 そして、到着したのはストラグルという町だった。


 ここはカルボネアでも首都に次いで大きい町で、他国から集まった冒険者の拠点になっている。


「ここまでくれば道は分かる。ギルドはあっちだよ」


 雄峰が道案内してくれる。知識ってそこまで分かるの? 便利過ぎない?


――あれ、もしかして?


――まさか、あの格好……?


 町の人達が明らかに俺を見ながらヒソヒソ話している。中には露骨に指をさしてくる奴まで。


 だよな? この格好おかしいよな?


 ちなみにマスクも付けている。こんな服装で顔晒せるか!


「やっぱりピエロだからってこんな格好するのはおかしいみたいだぞ?」


「ピエロなんて注目されてナンボだよ」


 この野郎、自分はエルフの魔術師なんてまともな姿してるくせに。


 ギルドに入ると、ヒゲ面でごつい、いかにもギルドマスターですと言わんばかりのおっさんが駆け寄ってきた。え、なんで駆け寄って……?


「ま、ま、まさかお前……ピ エ ロ !?」


 何その珍獣でも見つけたような反応!?


「そうだよ、ピエロだよ!」


 そう言って冒険者カードを差し出した。


 冒険者カードとは、その名の通り冒険者が身分を証明するために持っているカードで、魔法の力で持ち主のレベルやクラス、ステータスに習得スキル等が正確に表示される。


 今更だけど、この世界幾らなんでもやたらとゲームっぽ過ぎない? 次のレベルに必要な経験値まで書いてあるんだけど。


「確かにピエロだな。まだレベル1か……よし、駆け出しにぴったりなクエストを見積もってやるぜ! さあさあ、ここに登録を!!」


 グイグイ来るなぁ。最初からそのつもりで来たからいいけど、一体なんだって言うんだ?


「……どうやら、ピエロには特別な需要があるみたいだね。ククク」


 あ、詐欺師が悪い顔してる。

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