天国に到達、そして

 俺達は、天国にいる。平等王が連れてきてくれたのだ。


「おお~……って、思ったより普通の場所だな」


 天国は、何というか、東京と茨城を足して二で割った感じ?


 近代的な建物が並び多くの人が歩いているが、色々な密度は低い街だった。


「ここは、住人の望むことが全て叶う場所。人々の望む住空間の集合体が時代に合わせ変化しているのです」


「へ~……って、望みが全て叶う!?」


「ええ。思うままに過ごすと良いでしょう」


 そう言って、平等王は姿を消した。急に好きにしろと言われても、何からやればいいのか。


「お兄ちゃん?」


 急に、女の子が話しかけてきた。十代前半といったところか、可愛らしい少女だ。


 お兄ちゃんって、まさか?


「楓!!」


 雄峰が叫び、駆け寄る。


「邪魔者は消えようぜぇ」


 涙を流して抱き合う兄妹をそこに残し、俺達は思い思いの場所へ向かった。


――それからしばらくの間、とにかくやってみたかったことを片っ端からやった。


 美味しいものは食べ放題だし、どんな遊びも出来た。俺のことをちやほやしてくれる美女たちまで、願えば現れた。


 そして、飽きた。


「……つまらないな」


 今の俺は完全に満たされている。どんな願いも叶った。だけど、何をやっても一度で満足してしまう。一ヶ月もしないうちに、やりたいことが無くなってしまった。


 これが天国か。なるほど、道理で天国が善人の魂でパンクすることがないわけだ。


 俺は、ここに来る時に平等王から教わった場所へと足を運んだ。


「そろそろ来る頃だと思ったぞ、颯太」


 そこにいたのは神々しい光を放つ男性だった。


「あなたが初江王しょこうおう?」


「如何にも。またの名を釈迦如来しゃかにょらいという。お前の願いを叶える者だ」


 お釈迦様か。


「颯太よ。お前は何を願い、自らの命を絶ったか覚えているか?」


「異世界に行ってチート能力で楽してモテモテ」


 そうだ、俺はそう願ってトラックに突撃した。


「では問おう。なぜ異世界に行ってチート能力で楽してモテモテになりたかった?」


……なぜ? あの時のことを思い出してみる。そう、あの時滑り止めの三流大学に落ちて。


「俺には何の取り柄もないし、努力とかしたくないけど急に何でも出来るようになって楽にいい思いがしたかったから」


「ならば、地獄道に落ちてから天道に至るまでの間に経験したことを思い出してみろ。お前には本当に何の取り柄も無かったか?」


 俺は……雄峰の言葉を思い出した。「君の取り柄はその行動力と決断力だね」


「それだけか? もっとよく思い出してみろ」


 そういえば、源三郎の言葉を思い出した。「すげーな颯太。よくそんなことに気付くなぁ」


「お前はその取り柄で、二人の亡者を地獄から救ったのだ。その旅路は苦難に満ちていて、とても楽なものではなかっただろう。では、二人との旅はお前にとってつまらないものだったか?」


 いや、色んな苦労はあったけど、生きていた頃とは比べ物にならないぐらい楽しかった。


「そしてお前は天道に至り、何でも出来るようになった。楽して女性から愛されるようにもなった。では、今のお前は楽しんでいるか?」


 お釈迦様が何を言いたいのかははっきりと解る。というより最初からわかっていたからここに来たんだ。


「いえ、全然楽しくないです」


「お前の今の願いを、お前の口から言いなさい」


 たぶん、閻魔様は最初から全てがわかっていたんだ。


 俺の本当の願いも。


「俺は、また旅がしたい。チート能力なんか無くてもいい、そんな物より俺のことを認めてくれて一緒に笑ったり喧嘩したりしながら助け合える仲間が欲しい

……出来れば、源三郎と雄峰と一緒に色んな所を見て回りたい」


「や~っと来たかぁ、待ちくたびれたぜぇ」


「随分とお楽しみだったようだね。私は退屈で仕方なかったよ」


 急に後ろから掛けられた声に、たまらない懐かしさが込み上げてきた。


「源三郎! 雄峰!」


「さあ、お前の願いを叶えよう」


 お釈迦様の両の手から放たれた光が、俺達三人を包み込んだ。


◇◆◇


 その様子を、何処からか見ている者がいた。


「あの宇宙へ移動させたか……ククク、楽しめそうだねぇ」


 地獄脱出編 完

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