地獄を脱出しろ! その4
彰人は他の亡者のかげに隠れながらこっそりと進む。器用にも亡者達の視界に入らないように進んでいく姿はまるで忍者だった。ああやって動いてたから見つからなかったんだな。
「もう少し……」
珍しく牛頭鬼と馬頭鬼が立ち止まって何やら話しているところに近づいていく彰人。
あっ、馬頭鬼が振り返った。
ヤバい! と思ったがすぐに向き直った。絶対彰人に気付いたかと思ったんだけど、何か他のことに気を取られているんだろうか?
「喰らえっ!」
牛頭鬼と馬頭鬼、二人の足を素早くナイフで斬り付ける。そういえばこいつやたらナイフ捌きが速かったな。
「ぐわーいてー」
「やられたー」
なんだその棒読みセリフは。
「このクソガキ、ただじゃすまんぞー」
ポコッ
「???」
死なないように手加減して殴るのは分かるが、手加減しすぎじゃ?
「まだまだー」
ポクッ
「……」
こいつら……?
困惑して見ていると、牛頭鬼が目配せをしてきた。俺達に「行け」と言っているのがはっきりと解る。なるほど、そういうことか。
「行くぞっ!」
出口に向かって走り出す三人。
ありがとう、彰人。
「恐ろしく演技の下手な鬼達だったな」
「詐欺のプロが演技指導してやったらどうだぁ?」
「あいつら、あれで閻魔様の部下だからこっちのやってること全部お見通しなんだよ。彰人の協力を得るのがこの試練の解答だったってことだな」
ついに、ここに戻って来た。地獄の出口だ。
「でも、また平等王がいたらどうしようもないのか」
光の輪でなす術もなく捕まったからな。どうしたもんか?
「え? いま平等王って言ったかい?」
雄峰が驚いた顔を見せる。知っているのか、雄峰?
「ああ、平等王。天使のような女性だけど、問答無用で捕まってつれていかれたよ」
雄峰が知ってるなら、何か対処法が思いつくかも知れない。
「平等王とは
そんなこと言っても黒縄地獄に落とされたんだが。厳密には落としたのは閻魔様だけど。
「私に限らず、十王の裁きで罪が重くなることはありません」
いつの間に現れたのか、平等王が話に加わった。
「おわっ、美人! でも、大叫喚地獄に落とされたぞぉ?」
その驚き方はどうなんだ?
「そうそう、俺は黒縄地獄に行って、大叫喚地獄まで落とされたんだけど」
ここは納得いかないのでしっかり抗議の声を上げておかなくては。
「それは、閻魔王の判断により試練を与えたためです。地獄脱出の意思がある三人の亡者を引き合わせるという目的もありました」
あっそうか、雄峰と合流させるためだったら確かに大叫喚地獄に落ちないとダメだな。
「その試練は、何故与えられたのですか?」
「それは――」
◇◆◇
「大山彰人。お前は再び十王の裁きを受ける権利を得た」
三人が出口に到達したのを見た牛頭鬼と馬頭鬼が手を止め、彰人に話しかけた。
「権利? 裁かれるのが権利なのか?」
「そうだ。それも閻魔王のはからいにより、十王全ての審理を受ける。フルコースだぞ!」
「簡単に言えば、裁きを受ける度に罪が軽くなる。お前は地獄から救われ、十王の判断によっては天道に至る可能性もある」
思いがけない話に困惑する彰人。
「でも、あいつは捕まって下の地獄に落とされたじゃないか!」
「颯太か、あやつは特別だ。あやつの願いを叶えるためには試練を乗り越え、複数の亡者を救済する功徳を積む必要があった」
「願いって天国に行くってやつ?」
「いや、そんな簡単なことではない。あやつはもっと大掛かりな願いをして、自らの命を絶った。その気持ちに応えた閻魔王が救済の道を開いたのだ」
「天国どころじゃないって、欲張りな奴だな。どんな願いか聞かせてよ」
「それは、その時が来たら教えてやろう。まずはお前が裁きを受けるのだ」
大山彰人は、二人の鬼に連れられて裁きの間へと向かったのだった。
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