衆合地獄その3
「さあ、気を取り直してここの出口を探そうか」
雄峰が明るい声で場を仕切る。何かあったのかな?
「UFOは知らないのかぁ?」
地獄のことに詳しい雄峰なら出口の位置も知っているのではないかと源三郎が言うが、さすがに何でも知ってる訳じゃないだろう。雄峰も首を振った。だけど、俺にはちょっと思いついたことがある。
「たぶん、あそこの山の下じゃないかな?」
俺が指差すと、二人は驚いた顔をして俺の顔を見た。
「どうしてそう思うんだい?」
「ああ、叫喚地獄は大叫喚地獄とよく似た構造をしていて、出口も同じ場所にあった。で、ここは黒縄地獄と同じような形の地獄だから、あそこと同じところに出口があるんじゃないかなって」
そう、ヨミちゃんに案内されて叫喚地獄を脱出した時、俺は下の大叫喚地獄と同じ位置に出口があることに気付いていた。そしてこの衆合地獄に来た時、黒縄地獄に来たような感覚になった。だいたいさ、地獄を作った奴が亡者に地獄めぐりをさせるつもりでもないならわざわざ構造を変える必要はないだろ?
「すげーな颯太、よくそんなことに気付くなぁ。大学に受からなかったのになぁ」
うるせー、余計なお世話だ。
「ふふ、勉強ができるのと頭が回るのは違うからね。颯太は発想が豊かだし行動力もある。勉強はできないけどね」
なぜ繰り返した? どうせ俺は勉強できないよ!
「まったく褒められてる気がしないんだけど? まあいいや、とりあえず行ってみようぜ」
「「おー!」」
そんなわけで、山の麓にやって来たのだ。
なんかすごく違和感があると思ったら、そういえばここに来てから獄卒の姿を見ていない。
「なあ、地獄の鬼はどこに行ったんだ?」
「……さあ? 正直、嫌な予感しかしないね」
三人で気味悪がりながら進むと、すぐに地獄の出口と思しき進入口を見つけた。
「本当に順調すぎて不気味だな。絶対罠だろこれ」
「でも進むしかないんだろぉ?」
ビクビクしながらも、意を決して入る俺達。そこで待っていたものは……炎に身を包んだ恐ろしい巨人だった。
「ですよねえええ!」
踵を返し、ダッシュで逃げ……られない! 足の裏が地面にくっついたように、足が上がらない。
「待ちなさい、我が名は
「秦広王?」
なにそれ? といった表情で雄峰を見る。源三郎も同じように視線を向けている。そしてその雄峰は、心なしか青ざめている様子。
あっ、これダメなやつだ。
「……不動明王の別名だよ。圧倒的な力で法の敵をねじ伏せる仏だ。ヒンドゥー教ではシヴァとも呼ばれる」
バカな俺でも聞いたことがあるぞ。閻魔様よりもずっと怖いイメージだ。俺達の旅はここで終わってしまった!
「ふむ、恐れることは無い。お前達は本来よりも深い場所からただ天道を目指すのみ。我はお前達が正しき道を歩んでいるか、生前の罪と現在の在り方を検分し、行くべき道を示すために来たのである」
なんかよく分からないこと言ってるけど、とりあえず問答無用でやられるわけではなさそうだ。
「では、まずは市山源三郎。お前からだ」
秦広王が、右手を優しく源三郎へと向けた。おそらく彼の記憶を読み取っているんだろう。
「大丈夫かな? そいつ本当にただのクズだったと思うんだけど」
確かコソ泥だかスリだかを繰り返して地獄に落とされた筋金入りのダメ男だったはずだ。やっぱり俺達の旅はここで終わりか。
「生前にどのような悪事を働いているかは
秦広王はなんか難しいことを言いながら源三郎の過去を調べ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます