衆合地獄その1
「大体考えてることはわかるけど、ここの責め苦を甘く見ない方が良いよ。颯太は間違いなく酷い目に遭う」
また心を読まれた!? そういえば叫喚地獄でもそんなことを言っていたな……一体どんな責め苦があるっていうんだ。
「なあ、一体どんな責め苦があるんだよ?」
「……あまり言いたくないのだけど、どうせ行けば分かるから教えるよ。美人が誘惑してくるんだ。それにつられて剣の葉を持つ木を上り下りし、自ら体を斬り刻むことになる」
なんだそれ、恐ろしい……一体どんな美人がどんな誘惑をしてくるんだ、もう既に気になって仕方がない。
「もう興奮してるぞぉ」
「そうなるから言いたくなかったんだ。言っとくけど源三郎も、もちろん私も簡単には誘惑に抗えないからね。気を強く持って行こう」
呆れた様子で言う源三郎に警告する雄峰。そんなに魅力的な誘惑なのか!? ヤバい、一刻も早く体験したくなってきた。くそう、なんて巧みに人の弱点を突いてくるんだ!
「そ、そんななのか? 俺も気になって来たぞぉ」
源三郎もソワソワしだした。
「何にせよこんなところでウダウダしててもしょうがないんだし、とっとと衆合地獄に入ろうぜ!」
溜息をつく雄峰を促し、俺達は衆合地獄に足を踏み入れたのだった。
地獄の両側には鉄の山があり、地面は熱い鉄板だった。非常に見覚えがある。もはや懐かしいほどに。
「あれ? ここ前に来なかったっけ?」
「黒縄地獄と似てるなぁ」
とキョロキョロ周りを見回していると、
「崩れるぞおおおお!」
亡者達の叫び声が聞こえてきた。崩れる? と、上を見ると鉄の山から鉄の雪崩が!
「おわあああ!」
三人は一目散にダッシュしてその場を離れた。
「誘惑とか以前にすげー危険な場所じゃない?」
何とか鉄の雪崩に巻き込まれずに済んで、山から離れた所に座り込む俺達。
「そりゃあ地獄だからね。叫喚地獄では助けてもらったから酷い目に遭わずに済んだけど」
そうだった。ヨミちゃんのおかげで楽が出来たけど、まだ黒縄地獄よりも下の地獄にいるんだ。危険に決まってるよな。はあ……
「ウフフ、どうしたの? 溜息なんかついて」
急に、妖艶な女性の声が聞こえてきた。これは、まさか……噂の?
「可愛いボウヤね。お姉さんとイイコトしない?」
振り向くと、あられもない姿をした豊満な美女が俺を誘っていた。
ですよね! そうだと思ったぁぁぁあああ抗えないいいいい!
◇◆◇
「颯太!」
突然、誰もいない方向へ走り出す颯太。誘惑されたことは分かるが、誘惑した美女の姿は見えない。
「まさか、”誘惑役”がいるんじゃなくて幻覚を見せるのか?」
これはまずい、と雄峰は思った。幻覚なら、あらゆるニーズに応えられる。その亡者が最も魅力を感じる理想の異性が剣の大樹へと誘うのだ。
「まずいな、幻を見せてくるみたいだ。どんな誘惑をされても無視するんだ!」
隣にいる源三郎に注意を呼び掛ける。「わかった」と頷く相手を確認し、誘惑された颯太を追いかけることにした。
「……お兄ちゃん?」
突然、聞き覚えのある声が聞こえた。それは、ずっと聞きたかった声。
声のした方に顔を向けると、夢にまで見た妹の姿。
(まさか、これも幻覚なのか?)
こういう誘惑かと思いつつも、もしこれが幻覚では無かったらという可能性から目を背けることは出来なかった。
「楓?」
「良かった、本当にお兄ちゃんだ!」
楓が駆け寄ってきて雄峰に抱きつく。
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