等活地獄その1
等活地獄は、亡者達が手に持った武器で殺し合いをする地獄だ。
俺も地獄の入り口で案内してきた牛頭の大男に好きな武器を選ぶよう言われた。
「あのー、俺喧嘩とか苦手なんですけど」
「お前に得意なものなどないだろう。何でもいいから選べ」
本当のこととは言えムカつくなこの牛。でもこのマッスルボディに逆らう勇気もないし、大人しく何か選ぼう。
「うーん、重いのは無理だし技が必要なのも使えないから……これだ!」
刃渡り20センチほどのサバイバルナイフを手に取った。持ち運びに便利そうだし、色々と使えるだろう。
「短剣か、悪くない選択だ。思う存分、戦うがいい」
いやだから戦うとかそんな野蛮なことしないって。俺は何処にでもいる平凡な受験生だよ? 格闘技とかやったこと無いし。柔道の授業とか適当に足引っかけて遊んでただけだし。
そんな抗議も怖くて口には出せないので心の中で思いつつ、牛男に促されて大きな門の前に立った。
ゴゴゴと大きな音を立てて門が開くと、そこに立っていたのは馬の頭を持つ大男だった。牛の次は馬か……門の先には短い廊下があり、反対側にも大きな門があった。あの門の先が地獄なんだろう。
「
「待っていたぞ
なんか笑ってるんですけど!? 大丈夫かここ、一番楽な地獄なんだよね? それにしてもこの馬がメズキで牛がゴズキって言うのか。名前までゴツイなぁ。
不安になりつつ、馬頭鬼について等活地獄に入るといきなりとんでもない騒ぎ声が聞こえてくる。
「なんかヒャッハーとか聞こえてくるんですけど、お祭りでもしてるんスか?」
分かってはいるが、認めたくない。実は戦いという名の盆踊りとかであって欲しいという無茶な願いを込めて聞いてみた。ヒャッハー、踊り狂うぜぇ!
「ああ、ここはいつもお祭り騒ぎだ。楽しいぞ!」
楽しそうに言う馬。しかし声の他にキーンとかザシュッとかいう、不穏な音が聞こえてくる。聞いたことが無くてもすぐに分かる戦いの音だ。ああ、分かっているさ。分かってはいるんだ。
門を抜けると、そこは思った通りの戦場だった。
「聞け、亡者ども! 新入りが来たぞ!」
よく響く大声で新入り(俺)の到着を告げる馬頭鬼。戦っていた亡者達はピタリと動きを止め、一斉にこちらを見た。
……あっ。
「うおおおお、新入りだぁー!」
「囲め囲めー!」
笑顔で集まって来る亡者達。
その手に持った、凶悪な武器を振りかざして。
「だと思ったよチクショー!」
叫び、走り出す俺。
大振りな金棒の振り下ろしを避けて、横薙ぎに襲ってくる斧の一撃をしゃがんで避ける。そのまま亡者と亡者の間をすり抜けまっすぐ走った。なんだ、結構いけるじゃん、俺!
「……ん?」
いや、おかしい。そんなはずはない。自慢じゃないが俺は運動音痴でもある。こんなに簡単に逃げられるわけが無いし追って来られたら捕まるに決まってる。不思議に思って走りながら後ろを振り向くと、亡者達はニヤニヤしながら俺を見送っていた。
「逃げたな?」
声は、前から聞こえてきた。振り返っていた頭を前に戻すと馬面の大男が待ち構えている。え、ちょっとまって速すぎない?
「ここでは、戦わずに逃げた亡者は獄卒がお仕置きすることになってるんだ」
馬頭鬼が手にした、金棒の先っぽにトゲトゲのついた見るからに凶悪な武器で突き刺してきた。とても避けられるスピードではなく、あえなく串刺しになってしまう。
「うげっ」
鈍い衝撃を感じた。少し遅れて激痛が襲ってくる。いってえええええ!
ジタバタと手足を動かすが、馬頭鬼はそのまま乱暴に俺の身体を引き裂き、バラバラになった体を金棒で執拗に叩き潰し、骨という骨を粉々にした。俺のミンチ、完成!
――気が付くと、入口の傍に倒れていた。
自分の身体を両手で触っていく……傷一つない。
なるほど、もう死んでるからこれ以上死なないんだ。こうしてバラバラになってもすぐに元通り。それで死なない連中同士ずっと殺し合ってるのか。
「…………やってられるか!」
なんつーところだ。死なないって言ってもメッチャ痛いし苦しいし、地獄だから当たり前だけどこんなところにこれ以上居たくないぞ!
「こうなったら、脱走だ! こんなところとっとと抜け出して天国に行ってやる!」
不毛な殺し合いを続ける亡者達を見ながら、俺は強く心に誓ったのだった。
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