第93話:偶然にも保土ヶ谷


<まえがき>


 えと、今回のお話は、なるるの他作品とのコラボ回となっており、まったく同じサブタイトルを付けています。


 内容的にはここではスキップしても問題ありません。


 興味のある方だけご覧いただければと。



 では、本文をどうぞ。

―――――――――――――――――――――――――



 プチ夏休み。


 社会人になると、夏休みは学生時代の超長期とは、行かず。


 お盆の前後に、少し。


 土日の前後に有給休暇を取って、プチ夏休みも追加。


 入社してまだ少し。


 有給休暇なんて、と、思ったりもするけど。


 どうやら、最近は、有給休暇もちゃんと消化しないといけないらしく。


 有給休暇の取得の心得? みたいなものもあって、そういった指導も、されたり。


 当然、体調不良とか、身内の云々な理由で、急に休むのは仕方ない部分もあるけど。


 計画的に、休暇を取得して、趣味や家族サービスやら、余暇を満喫して、仕事の疲れを癒し、仕事の効率を上げる、とか、なんとか。


 会社に入って。


 社会に出て。


 学生の頃とは、まったく違う世界に。


 戸惑いも、あれど。


 学ぶ事が大杉謙信。


 それは、さておき。


 そのプチ夏休みに、まさに、趣味! とも、言える、鳥撮りへ。


 カワサキさんたちとバイクツーリング(これも趣味!)を兼ねて、海岸のある町へとやって来た、わたしたち。


 そのバイクをホテルに置いて。


 カワサキさんの妹で、蘭先輩のお祖母さんの涼子りょうこさんの車で海岸近くまで送ってもらって。


 三脚にカメラを乗せて。


 海岸に向けて、徒歩で、てくてく。


 歩いていたらば。


 道路沿いに、豪華な家? 別荘? みたいな建物がある近く。


「あ? なんか変わった鳴き声が聞こえてくる……」


 カワサキさんが、その鳴き声に気付く。


 言われると、確かに、何やら、聞きなれない鳥さんの声が。


 はて、いずこ??


 鳥さんの鳴き声……音の方角、は、なかなか解り辛い。


 わたしの場合、生まれつき右の聴力が弱く、左右がアンバランスなので、なおさら。


 補聴器を着けていても、正確な方角は、イマイチよくわからない。


 このあたりの感覚は、慣れろと言われてもなかなか、ね。


 そうそう。


 学生の頃は、聴力に難のある右側だけに補聴器を着けてたんだけど。


 そうすると、左右で『音質』が変わってしまって違和感があって。


 大学に入ってからアルバイトして、左側にも補聴器を着けるようになった。


 まぁ、日常生活では不便は無いので、ほとんど両方着ける事はないけど。


 講義とかは右だけで十分だったし。


 でも、鳥撮りの時は、左右のバランスが、結構大事。


 なので。


 でも。


 どこだーっ!?


「アレちゃうか? あの窓ン張り出し」


 方菜かたなちゃんが指差す方向を見ると。


 道路の脇に立つ、豪華なお家の、その窓のひとつ、そのヒサシに。


 薄暗くてはっきりと見えないから。


 三脚を降ろして、照準器でその鳥さんを捕捉エイム


 わたしが確認するよりも早く、カワサキさんが。


「イソヒヨ、だな」


 とのこと。


 追っかけ、わたしも捕捉エイムしてカメラのファインダーを確認。


 ファインダーを明るくして確認すると、水色と赤と白の小鳥さん。


「オスのイソヒヨドリ、ですね」


 普段、通っているいつもの公園フィールドでは、見る事が無い、鳥さん。


 海岸とかにはよくいらっしゃる、らしい。


 まれに海岸から遠い町の中でも見る事はある、けど。


 ファインダーを適切な明るさ、つまりは適正露出に戻して、何枚か撮影しつつ。


「さすが海岸近くって感じですわね、鳴き声も初めて聞きましたわ」


 蘭先輩のおっしゃる通り。


 こういう鳴き方なんだぁ、と、わたしも、初めて。


「そうだよねぇ、町で見かけることあるけど、鳴いてるのは初めて聞いたかも」


 ぱしゃぱしゃ、と、に向けてシャッターを切っていると。


「あ」

「あっ」

「やばっ」


 窓に、人影!?


 全員、あわててレンズを明後日の方へ向けて。


 素知らぬ顔で、明後日の方を向いて。


 さすがに。


 民家の窓にでっかいレンズを向けてるのは、ヤバい。


 盗撮と誤解されかねない。


 早朝だし、ひと気がなかったんで、油断してた……。


 このまま三脚を担いでダッシュで逃げるのも、うしろめたさがあるし。


 どうしよう?


 どうしましょう?


 どないすンねン……。


 とりあえず、いつでも逃げられるようにカメラは担いでおきませんと。


 目と目で合図。


 とりあえず、蘭先輩に習って、雲台を固定して、三脚を肩へ。


 また目で合図しあって、ゆっくりと、歩き出そう、としたらば。


「え? 本多さん?」


 後方から、聞き覚えの無い、女性の、声。


 ホンダさんって……あぁ、カワサキさんの事か。


 はて?


 そのカワサキさんでありホンダさんが振り返ると。


 驚いたような表情で。


「え? 園ちゃん?」


 カワサキさんにつられるように、カワサキさんの視線、つまり、声のあった方を見てみると。


「母さん、知り合い?」

「お母さんの会社の同僚、と、言うか先輩よ」


 可愛らしい少女と、大人の女性、その後ろにはもうひとり大人の女性も。


 と、言うか、同僚? 先輩?


 カワサキさんは、女性たちの方へ少し歩み寄りつつ。


「ここ、園ちゃんの家だったの?」

「いえいえ、娘の学校の関係で、合宿に付き添いで来てるんです」


 一番背の高い女性と、親しげに、会話。


 そりゃ、会社の知り合いだったら、親しくもある、わよね……。


 に、しても、すごい偶然?


「え? 園ちゃん、娘さんなんて居たっけ? 息子さんじゃ??」

「あ」

「その子……え? え? えぇええ?」


 カワサキさんが目を白黒させてる。


 背景がわからないから、何とも。


「えっと、話すと長くなりそうなので、また後日……それより、本多さんこそ、こんなところで何をされてたんです?」


 娘? 息子? の件は、置いておいて、って感じかな。


「ここら辺の海岸に撮りたい野鳥が居てね。それを探してたら、別の鳥がこの家の屋根にとまってたから、撮ってたの」


 カワサキさんが、今のわたしたちの状況を説明してくれる。


「そちらのお嬢さんたちは?」


 相手の女性からも、逆質問。


「あぁ、ウチの姪っ娘と、その友達。結構前から一緒にあちこち写真撮りに行ってるんよ」


 相変わらず『姪』で通してるのね。まぁ、『大姪』って説明も面倒くさいし、語呂も悪いけどね。


 カワサキさんの妹の孫、だから、姪じゃなくて、大姪、なのよね、正しくは。


「それにしても、園ちゃんの娘さん……息子さん? 娘さん? 園ちゃん似で、すごくカワイイねー」

「でしょ、でしょ?」


 あ。


 娘息子の話に戻った。


 そっちのお話にも興味はあるけど。


 蘭先輩が。


「おじさま、イソヒヨ、抜けてしまいましたわ」


 見ると、窓のヒサシに止まっていたイソヒヨドリが居なくなってる……。


 ちなみに、とは、鳥さんが居なくなる事を言います。


 別に、カワサキさんの髪の毛が抜けてるって意味じゃぁ、ないです。


「早ぅ、アオバト探しに行こぅな」


 方菜かたなちゃんも、気まずいらしい。


 察したのか、カワサキさんも。


「あー、そうだな。朝の内に撮りたいしな」


 と、答えてくれて。


 女性たちに向き直って。


「園ちゃん、悪い、ゆっくりも出来んので、また今度」

「はい、お気を付けて」

「じゃ、また」


 改めての、ご挨拶、からの、離脱。


 ちょっとした、ハプニング?


 別荘? から離れるように歩きつつ、カワサキさんに訊いてみる。


「カワサキさんのお知り合いだったんですか?」


「そだよ。会社のヒト。いやぁ、偶然にもホドガヤだよなぁ」


 カワサキさん……と、思ったら、ツッコミ担当の方菜ちゃんが。


保土ヶ谷ホドガヤってドコやねン!」


 突っ込みなのかボケなのかわからないツッコミを。


 なので、わたしも。


「地名だってわかるんだね……」


 ツッコミなのか、ボケ返しなのかわからないツッコミを。


「ちなみに、保土ヶ谷は横浜ですわね」


 なに、この漫才軍団。


 とりあえず。


 アオバトが居ると言う海岸へ。


 向かいましょう!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る