第81話:ハンドガン・ガール~肌色のプリンセス④



 方菜かたなちゃんの鈴木さんご一家が樹々の間に消えたあと。


「じゃあ、我々も」


 と、我らが河崎家も出動。


 森林の中へと入って行く。


 Bの陣地は東側。樹々の間を一旦、左に迂回してから右方向へ回り込む。


 フェイクだ。


 お母さんの、指示。


 しばらく樹々の間を歩いて、目的の場所へ到着する。


 丸太が積み上げられ、ドラム缶が数本。立っているもの、転がっているもの。


 お父さんがスマホの『READY』ボタンを押しつつ。


「さて、簡単な作戦を……」

「先ずはコードネームね」

「え?」


 お父さんが【肌色の牙ファング・ベージュ

 お母さんが【肌色の刃ソード・ベージュ

 そしてわたしが【肌色の姫プリンセス・ベージュ


 いやいや、いやいや。


「なんで?」


 素朴な疑問。普通に名前じゃだめなの?


「そういうものなのよ、こういうのは」

「うんうん」


 お父さま、お母さま……。


 知らなかった父母の一側面。


 知れて嬉しいやら、悲しいやら、呆れるやら。


「プリンセスはできるだけ樹の陰に隠れて、みつからないように」

「みつかったら、できるだけ素早く動いて」

「まっすぐに走るんじゃなくて、一瞬立ち止まったり、ジグザグに、ランダムに方向を変えながら」

「直線的な動きは狙いを付けやすいからね」


 それは、わかる。


 鳥さんを撮る時も、まっすぐ飛んでいるのを追いかけて撮るのは、比較的、楽。


 上下にゆらゆらする鳥さんは撮り辛いし、急激に旋回とかされると追従するのは、困難。


 カラスさんとバトルしてるタカさんとか、上へ下へ、右へ左へせわしなく動き回られるんで、狙いが定まらない。


 それと同じ、ってコトだよね。


「了解」


 まぁ、実際にそんな風に動けるかどうかって言うのはあるけど。特に訓練とかしてないし、ね。


『ゼン・ちーむ・れでぃ……げーむ・すたーと』


 スマホから骨伝導ヘッドセットを通じてゲーム開始のアナウンスが流れる。


 家族三人、顔を見合わせて、頷き合って。


「どう動く?」


 お父さんファングお母さんソードに訊ねる。


鈴木家アンバーは初心者だから、闇雲に動く可能性が高いわね……カワサキオーカーは逆にベテランだから……先ずは鈴木家アンバーを叩いてからウチを狙いに来る……と、すれば、ウチもまずはカワサキオーカーと一緒に鈴木家アンバーを叩く」


 お母さん……考え方がエグい、と言うか、完全にゲームモード?


 でも。


「それはどうかな?」


 方菜ちゃん達にも楽しんでもらいたい、と思うならば。


 ウチとカワサキさん家で方菜ちゃん家を共同で攻撃するよりは。


 先にウチとカワサキさん家でやりあって、残った方が方菜ちゃん家と対戦、の方が。


 等と、説明してみると。


「なるほど……今日のゲームとして考えれば、それは順当かもしれないわね……じゃあ、カワサキオーカーを狙いに行きますか」


「どっちに行けばいい?」


鈴木家アンバーが左方面に行くのがちらっと見えたわ。ウチみたいにフェイクをかけるとは思えないから、EかFね。だからカワサキオーカーは、CかD」


「よし、じゃあ、右……北方向だな」


「よろしく。プリンセスはファングに着いて行って。わたしは少し離れた場所から並走するわ」


「了解。行くぞ、プリンセス」


 ……。


 お父さま、お母さま。


 完全に、入っちゃって、ますね……。


「りょ、了解」


 ハンドガンを手に速足で歩き出したお父さんにわたしも追従する。


 一瞬、樹の陰に隠れて周囲を警戒して、また次の樹へ。


 わたしは、お父さんが移動する前に隠れていた樹に移動する。


 お母さんの姿は見えないけど、少し離れたところで同じように移動しているはず。


『こちら【肌色の刃ソード・ベージュ】停止して』


 骨伝導式のヘッドセットからお母さんの声。


 家族チーム内だけの通話。


『進行方向から接近あり。向こうも気付いたみたいで停止してるわ』


『こちら【肌色の牙ファング・ベージュ】突っ込むか?』


『こちら【肌色の刃ソード・ベージュ】そのまま樹に隠れながら前進して』


『【肌色の牙ファング・ベージュ】了解』


「ぷ、ぷ、【肌色の姫プリンセス・ベージュ】、りょ、了解?」


『プリンセスはファングの後に着いて、絶対離れちゃだめよ?』


「りょ、了解」


 先を歩くお父さんの後を着いて、樹々の間を進む。


 そのお父さんが突然。


 樹から半身を出して、銃を両手で構え。


 ぱしゅぱしゅぱしゅ!


 発砲。


 わたしもお父さんが銃口を向けている方向を確認して銃を構える。


 居た!?


 あのベストの色は……黄土色オーカー。カワサキさん、涼子りょうこさん、らん先輩のチーム。


 背の高さや髪の長さからして、蘭先輩だろう。


 わたしもそこをめがけて、撃ってみる。


 ぱしゅぱしゅぱしゅ!


 ぱしゅっ!


『そっちはオトリよ! 右っ!』


 お母さんの声に、右の方を見ると、もう二人。


『プリンセスは左を! オレは右へ回るっ!』


 ひぃいい。


 蘭先輩と一騎打ち?


 あ、蘭先輩もこっちに来る。


 左右にジグザグに進んで来る。


 やばい。


 このままだと……。


 わたしは、一旦、後方へ移動して樹の陰に隠れた後に左の樹へ。そしてまた右へ。


 樹から樹へ移動しつつ、蘭先輩の位置を確認して撃つ。


 当たりはしなくても、威嚇にはなるかと。


 蘭先輩はわたしの射撃の腕を見越してなのか、どんどんと近付いて来る。


 近距離の樹に隠れて、そこからわたしを狙って来るけど。


 隠れたままだと、こっちからも相手が見えなくなる。


 その間に回り込まれて横とか正面から狙われる。


 だから、ちょこちょこと顔を出して、相手の位置を確認する。


「いない……」


 蘭先輩の方も完全に樹の陰に隠れてしまったのか、姿が見えなくなってしまった。


 ……こんな時こそ。


 ポケットに片手を突っ込んで、補聴器のリモコンを操作して音量を上げる。


 周囲の音が猛烈に大きく聞こえて来る。


 かさっ、と、足音が聞こえた。


 居たっ!


 でもっ!


 だあああああ、しまったあああああ。


 片方の耳でしか聞こえてないから、方角が解らないぃいいいいっ。


 作戦失敗……。


 あわてて音量を下げる。


 そんな事をしている間にも、お父さんとお母さんの声が骨伝導ヘッドセットから聞こえて来ている。


 右へ、左へ、お父さんとお母さんが協力してカワサキさんと涼子さんと対戦している模様。


 うう。このままだとマズい感じがする……。


 動くべきか、動かざるべきか?



 さあ、どうする?





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