第80話:ハンドガン・ガール~肌色のプリンセス③



 『第一回家族対抗サバイバルゲーム』


 午前中、拳銃の扱い方を一通り習ってお母さんズの昼食も終え、少しくつろいだあと。


「じゃあ、実際のフィールドを案内するよ。ある程度場所の状態がわかってないと不利になるからね」


 カワサキさん、涼子さんはこの林には何度か……何度も来たことがあって、この場所の事は熟知されている。

 わたしたちは初見なので、『対戦』する前に林の中を実際に見て場所を覚えたりしておくべき、とのことで。


 ぞろぞろ、と、カワサキさん、涼子さんに続いて宿泊施設から出る。


 施設の裏手側が広場のようになっていて、ベンチやテーブルもあり、夜のBBQバーベキューもここでやるとのこと。


 そこから、林の中へ入ってゆく。



 林は結構な広さで、林と言うか、森? 樹の本数で考えると、森って言ってもいいかも。林と森ってどう違うのか?


 そんな森だか林だか……あぁ、森林!? そう、森林の中。


 樹々の間、伐採されたであろう、丸太が積み上がっているところがあったり、細い枯れ枝が積み上げられた場所があったり。あぁ……あの枯れ枝の間あたり、ミソサザイさんとか、コルリさんとか居そうな場所だよね……とか思ったりもしつつ。


 明らかに、木の板で作られたバリケードもある。


 そして、立て札のように立てられた『A』のマーク。



「ゲーム開始時のそれぞれのチームの拠点ベースになる場所だよ。全部で六か所あって、今回はその中の三か所を使う感じ」


 とのことで。


 森林の中を移動して、その五か所の拠点ベース、AからFを案内される。


 場所によっては、ドラム缶が転がっていたり。


 なんとなく、確かに、映画とかで見た『戦場』風な様相?


 そんな風に森林の中を歩いていると、黄色と黒のまだらのロープが見えて来る。


「このロープがフィールドの外周ね。このロープの外に出たらアウトだよ」



 森林の中を歩きつつ、カワサキさんと涼子さんの説明が続く。


「昨日スマホにインストールしてもらったアプリがGPSで位置確認して、フィールドの外に出たら自動的にDEAD判定になるからねー」

 

 そう。


 昨夜、指示されてインストールしたアプリ。


 このアプリが『着弾判定チョッキ』とUSBで接続されて、着弾の判定、つまりDEAD判定をするらしい。


「着弾判定は、着弾時の弾の入射角や着弾箇所も測定して、HPヒットポイントを削る形でDEAD判定するよ」


 つまり、HPヒットポイントが100でスタートして、肩とかお腹とかに斜めに『カスった』ように当たった場合は、何割かのHPが削られて、HPがゼロになったら、DEAD。

 胸や頭などに真っ直ぐに当たった場合は、即、ゼロになる、と。


 よくできてるよなぁ……。



 この機材を開発してるのが涼子さん家の会社らしい。


 ふむ。



「さて、なんとなく雰囲気はつかんでもらえたかな?」


 同じような風景ばかりで、どこがどこ、みたく覚えるのは、不可能だけど。


「まぁ、なんとなく?」

「うん、なんとかなるでしょ」


 わたしの両親もしかり、方菜かたなちゃんもコクコクと頷いている。


「じゃあ、戻って少し休憩してから、第一ゲーム、始めようか」


 と、カワサキさんの号令で、施設へと戻ろうとするんだけど……。


「鈴木さん、鈴木さん、そっち、違う……」


 方菜ちゃんご一家、あらぬ方向へ進み始め、お父さんがこっちこっち、と、修正。


 だ、大丈夫か? 方菜ちゃんご一家……。


 そこも見測ろうと言うつもりだったのだろう、カワサキさんと涼子さんが後ろから笑いながら着いてくる。


 戻りながら、お母さんが方菜ちゃんのお母さんに『常に太陽の方角、つまり影の向きを確認して……』とか、説明レクチャーをしてたり。


 わたしもそれを横で聞きながら、なるほど、とか思いつつ。


 ざっくざっく、と、足元の落ち葉を踏みしめながら、歩く。


 そうか……この、足音も大事な要因ファクターになるよね?


 相手が接近して来る時に出る、足音。これを聞き取れれば……。


 わたしは、ポケットの中にある補聴器のボリュームコントローラーをつかんで、ボリュームをプラス方向にぽちぽち、と、何度か。


 右耳の補聴器から聞こえる音が、どんどんと大きくなり。


 自分の足音も含めて、まわりの他の人の話し声や足音もものすごくよく聞こえる。


 周囲で鳴いている鳥さんの声も。


 あぁ、ヒヨドリさん、シジュウカラさん……それに聞き慣れない声もいくつか。


 あの鳴き声はどんな鳥さんだろう?


 普段、聞き慣れていない鳥さんの声は、聴いただけだとほぼわからないけど、いつもの聞き慣れた鳥さんじゃない事は、わかる。


 うーん。


 あまり長時間、補聴器のボリュームを上げていると、耳と頭が痛くなるので、すぐに音量を元の状態に戻す。


 でも、イザと言う時、これは使える! かも?



 そんなこんなでやっと施設へと戻り。


 少しお茶して休憩しつつ。


 装備品を装備。


 件の着弾判定チョッキ……胴着を着て、帽子を被って、通信機インカムもセット。


 帽子と胴着は首元のケーブルで繋がっていて、胴着の内ポケットにはUSBのコネクタがある。そのコネクタに専用のアプリを起動したスマホを接続。さらにインカム……通信機のコネクタも同様にスマホのヘッドフォンマイクジャックへ接続。


 あと、腰には拳銃と予備のマガジンを入れた『ホルスターベルト』。


 これ……アプリはまあ、無料として、機材の方はおいくら万円になるやら……。



 胴着と帽子の、着弾判定の素材がそれぞれ色付け、色分けされていて。


 琥珀色……アンバーは、方菜ちゃんとこの鈴木家。


 黄土色……オーカーは、蘭先輩、カワサキさん、涼子さんのチーム。


 ウチ、河崎家は、肌色……ベージュ。


「さて、そろそろ準備はいいかな?」


 カワサキさんが皆の様子を見て、音頭を取る。


「じゃあ、ゲーム準備開始……と」


 カワサキさんが内ポケットのスマホとは別のスマホを操作する。


「これで、皆さんのスマホに、開始時の拠点番号が表示されたと思いますが、声には出さないでくださいね。開始場所は内緒でスタートできればと」


 なるほど。


 胴着の前を少し開いて中を見る。


 内ポケットは透明になっていて、スマホを取り出さなくても画面が見える。

 その画面に『B』の文字と、おおまかな森林の中での位置が表示される。


 お父さん、お母さんと顔を見合わせて、頷き合って確認し合って。


 方菜ちゃん家も、蘭先輩たちも、同じように、家族チームで確認しあってる感じ。


「じゃあ、先ずは鈴木さんのチームから移動開始して下さい。時間をずらして、河崎さんチーム、最後にウチらが移動します」


 開始場所がわからないようにするため、だよね。


「拠点に到着したら、リーダーがアプリ画面の『READY』ボタンをタップしてください。全チームが『READY』できたら、自動的にアプリがスタートをアナウンスします」


 いや、まあ、ホント、よく出来た仕組みだねぇ……。


「ほな、行きまっせー」


 と、元気よく出発する方菜ちゃん一家。


 大丈夫だろうか……。



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