第79話:ハンドガン・ガール~肌色のプリンセス②



 らん先輩のお祖母さん、涼子りょうこさんの別荘にて。


 『第一回家族対抗サバイバルゲーム』


 別荘のリビングの壁にかけられた横断幕。文字の前後にはデフォルメされた拳銃ハンドガンの絵も描かれている。


 誰よ、こんなの作ったの……きっとカワサキさんだよね……。


 第一回って……第二回とかもするつもりなのかしら……?


 それはともかく、朝、少し遅い時間。


 お父さんズの作ってくれた朝ごはんを食べて。


 あぁ、お母さんズは、二日酔いで少し出遅れ……との事で。


 どうやら、オトナの女子会? よろしく、遅くまで飲んでいたらしい。


「うぅ……久しぶりに呑ンだら、めっちゃ酔ぅてもぉたぁ……水ぅ……」

「わたしも……お水ちょうだぁい……」

「あンたら、弱かってンなぁ……すまンなぁ、呑ましてもぅたわぁ」


 方菜かたなちゃんのお母さんと涼子さんはめっちゃ関西弁なのね。


 ウチのお母さんの標準語が逆に浮いてるっぽい?


 そんな母達に。


 方菜かたなちゃんのお父さんと、ウチのお父さんが水をコップにお母さんたちへ。


 惚れた弱みなのか、お尻に轢かれてるのか……。



 とりあえず。


 お母さんズは、後から参戦ってことで。


 先ずは、カワサキ先生の指導の元、リビングで銃の扱い方について学ぶ。


 昨夜に配布された自動オートマティック小銃ピストル


 これが、今回、全員共通で使う銃。


 よくは知らないけど、日本の自衛隊……陸上自衛隊で使われている拳銃のレプリカだそうで。


 わたしや方菜ちゃんの手には少し大きい感じもしなくはないけど、持てない届かないって程でも無い。


「まず、マガジンにBB弾とガスを込めるところからね」


 と、手渡された小さな黒いかまぼこ板と、携帯ガスコンロのガス缶のような缶。


「マガジンを逆さまにして、ガスの先端を上から押しあてて……」


 カワサキ先生のお手本。


 ぷしゅーっ、と、缶からガスが出て、マガジンとやらの中に注入させる、らしい。


「最後にむにゅっと液っぽいのが出たら終わり、ね」


 見よう見まねで、カワサキ先生のお手本通りにやってみる。


 左手で持ったマガジンの上から右手でガスの缶を押し当てるんだけど、ほぼ『点』で繋がっているため、まっすぐに突き当てないと……。


「うわぁっ、ズレてもたぁっ! 冷たっ!」


 方菜ちゃんが誤爆した模様……ガスって冷たいんだ……。


 わたしも蘭先輩も、もちろんお父さんズも、問題無くガス充填が出来た。


 そのマガジンが、ひとり四本。


 方菜ちゃんもどうにかコツを掴んだらしく、四本のガス充填を完了。


「次に、BB弾の装填だけど……」


 かまぼこ板の長辺の片側に溝があって、その中に小さな丸い『弾』を流し込むような感じ。


 バネが入っているので、そのバネをレバーを使って押し下げた状態でコロコロ、と、弾の入った缶から流し込む。


「装弾数は、二十発。それ以上は入らないからねー」


 と、カワサキ先生の注意。


「あかンのけぇっ」


 方菜ちゃんが、無理矢理二十一発目を詰め込もうとしてた。


 二十発しか入らないから、四本用意してあるって事か……なるほど。


「おっけ? じゃぁ、ゴーグル着けてね。ここからはBB弾が飛ぶ可能性があるから、不安ならフェイスマスクも着けておいてね」


 とのことなので、ゴーグルと、それにフェイスマスクも装着。


 額は帽子でガード。


「あ、お母さんズもゴーグルは着けておいてね?」


 まだ二日酔いでへばっているお母さんズに声をかけるカワサキ先生。


 近くに居るから、流れ弾の危険もあるってことで。


「それやったら部屋戻ってちょっと休ましてもらいますわ……行きまひょ、幸恵さん」


 方菜ちゃんのお母さんに促されてウチのお母さんも、よろよろと部屋へ戻る。一応、銃とか機材は持って……。


「まぁ、幸恵ゆきえさんなら説明の必要ないだろうし……郁美いくみさんには幸恵さんから説明してもらえばいいか、な?」


「ええ、それで大丈夫かと」


 とは、ウチのお父さん。


 お父さんも、この銃を使うのは初めてって事らしいけど、元が元だけに、すぐに手に馴染ませている感じで、方菜ちゃんのお父さんにレクチャーしてあげてる。


 そして、カワサキ先生の講習も続く。


「マガジンをこんな風に銃に装着して……」


 銃の握り部分の下から、かまぼこ板……じゃなくて、BB弾の入ったマガジンを入れる。最後まで入れきると、かちゃっ、と、音がしてロックされる手ごたえがわかる。


「銃のスライドをこんな風に後ろに引っ張って……」


 上と言うか、後ろの方を引っ張ると、銃の部品がずるっと下がって来る。このずるっと下がって来る部品の事を『スライド』と呼ぶらしい。


「最後まで引っ張りきったら手を放すと……」


 かしゃっと、引っ張った部分……スライドがバネの力で元に戻る。


「これで、一発目の弾が装填されるからね……ここからは引き金を引いたら実際に弾が飛ぶから、気を付けてね」


 ふむふむ……。


「じゃあ、早速、射撃、してみようか……順番に、ここからあの的を狙って……」


 先ずは、カワサキ先生がリビングのテーブルの脇、壁際まで移動して。


 反対側の端の方に置かれた段ボール箱……こちら側だけが窓のように開いていて、その奥に丸い的が置かれてある……を狙って。


 ぱしゅっ。


 カワサキ先生の手元から乾いた、軽い音が鳴った直後、反対側の段ボールの奥からぼそっと音が聞こえた。


 ぱしゅっ……ぱしゅっ……ぱしゅっ、ぱしゅっ、ぱしゅぱしゅぱしゅ。


 カワサキ先生が、続けて発砲。乾いた音が間欠に、そして連続で。


「二十発撃ちきったら、弾が無くなって、こんな風にスライドオープンするから……」


 カワサキ先生の銃は、そのスライドが後ろに下がった状態で固定されている。これがスライドが開いた……スライドオープン、ってコトね。


「弾の切れたマガジンを抜いて……このお尻のレバーを後ろにずらすと、マガジンが下がるから、これを抜き取って……弾の入ったマガジンに入れ替えて……」


 実演しながら、説明しながら、カワサキ先生が後ろのポケットから新しいマガジンを取り出して、ふたたび銃に装着して。


「スライドロック……この手前のレバーを下に降ろすと……」


 かしゃっ、と、音とともに、スライドが元の位置へと移動する。


「これで改めて弾が装填されて発射可能になる、と」


「だから、十九発目まで撃った時点でマガジンを交換すればスライドオープンさせずに連続で射撃ができる、と」


 お父さんがカワサキ先生割り込んで追加の解説。


「あぁ、なるほどなぁ……せやけど、弾数えて覚えてられるかな……」


「うん、多分無理だよね……」


 方菜ちゃんのお父さんも頷いておられます。


「そか?」


 お父さぁん!


 …………。


 とりあえず順番に実射。


 方菜ちゃんのお父さんも、さすがに男の人。初めてのはずだけど、難なく。


 蘭先輩も……エアガンを持つのは初めてに近いそうだけど、射撃の感覚自体はFPSってゲームで慣れているらしく、特に問題は無く。


 もちろん、涼子さんも危なげなく……いや、ホント、なんで?



 そして、わたし。


 永依夢エイム捕捉エイムして撃つっ!


 射撃そのものはほとんどしたことが無いけど、お母さんから『構え』についてはかなり細かく教えられていた事もあり。


 そもそも、最初に作ったカメラの照準器自体が、この『銃の照準器』と同じ理屈で作った事もあって。


 狙いを定める事自体は、問題ないけど。


 どうも、ズレがある。


「同じ銃でも個体ごとにクセがあるからねぇ……微妙なズレは感覚で覚えて、その分をわざとズラして狙う必要があるよ」


 なるほど……。


 それに。


 引き金を引くと、弾が飛ぶのと同時に、スライドが自動的に後ろに下がって前に戻る動作をするんで反動があって、手元がふらついてしまう。


 カメラなら反動とか無いから、同じところを狙い続ける事もできるけど。


 むむ……難しい……?


 わたしが撃ち終えて、方菜ちゃん。


 一応、前に撃った面々の撃ち方を見学していたこともあり。


 狙いは微妙なところもあれど、射撃自体は特に問題はなく。



 そうこうしていると、復活したお母さんズがゴーグルを着けて、ハンドガンを手に戻って来た。


「わたしたちも射撃、試していいかしら?」

「いっちょ、撃たしてもらいますでっ」


 ウチのお母さんが方菜ちゃんのお母さんにレクチャーしたっぽいね。


 今も、構え方をレクチャーしているっぽい。


 わたしが指導された時よりずっと優しい感じで……むぅ……。



 そんな感じで、午前中は銃の扱い方の練習で終了。



 お昼ご飯は復活したお母さんズの手により、軽く。


 夜はBBQ、だそうです!


 そっちの方が楽しみだよっ!






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