第73話:もうすぐ一年~お池でシギさんトビさん
「もぅすぐ一年かぁ……」
冬休みにとちゅにゅう……じゃなくて、突入。
二学期末の試験も
クリスマス? 何それ? 的に。
まぁ、家族でちょっとしたご馳走やらケーキやら食べたりする予定ではあるけど。
そんなクリスマス……イヴ? の早朝。
相変わらずに自転車を走らせて、
「一年かぁ……」
なんとなく、感慨。
もう、はるか昔の事のようにも思えるけど、『まだ一年』とも言える。
あの時、あの朝。
熱暴走したわたしが、家を飛び出してあの
不思議な縁で出会ったオオタカさん、鳥さん、カワサキさん、シンさん、そして蘭先輩、それに涼子さん、方菜ちゃん……。
二年になって彼とクラスも分かれて疎遠になり、蘭先輩や方菜ちゃんたちとつるむ事が多くなれば。
もうすっかり、『彼』の事も忘れて久しい。
でも、これでよかった、と、思える。思えてる。うんうん。
今はもう、鳥さんたちの事が大好きになってしまって。
でもそれは、彼を大好きだった気持ちとはまたちょっと違ってて。
熱くなったり、暴走したりすることも、無くて。
あれ?
でも、今、コレ、こんな陽の出前の早朝に、大きな機材を自転車に搭載して、
「んふふ……ぅははははは、はははっ」
がたんっ。
「ぉおっ、とぉぉっ?」
危ない。
工事の終わった道路のアスファルトの段差でタイヤが跳ねると、自転車の後ろカゴに積んだ三脚も合わせて跳ねる。
一応、ゴムバンドで軽く止めてるから、脱落は無いとは思うけど。
念のため、停車して後ろのカゴの状態を確認。
「ん、よし」
問題無い事を確認して、再出発、ごーごー。
オオタカ
「ん? ん? なんぞ?」
キィー、キ、キィー。
「それに何やら聞き慣れない、お声……」
カワサキさんと蘭先輩が、すでに三脚とカメラを
池??
「あ……」
なるほど。違和感の正体は『池の水位』。
「おはようございます」
自転車を停めて機材を
「あぁ、おはよう、
「おはよう、永依夢」
「池、水、抜いちゃってるんですね……」
そう、池の水位が、えらい下がっている。
「そうそう。何年かに一度、水を抜いて池の底に沈んだゴミを清掃するって」
「なるほど……」
「不法投棄とか、結構あるしね……マナーの悪い連中も多いから……」
「ほら、あそこ……バイクが落ちてますわね」
キーっキキキキキキぃ……
蘭先輩が言う池の底のバイクのハンドルに……カワセミさん……。
バイクは水面から少しハンドルが出ている程度で、周りはまだ池の水があり。
あ、飛び込んだ。
カワセミさんにとって、そのバイクの周辺は絶好の狩場で、ハンドルはちょうどいい止まり木なんだろうか……。
蘭先輩とカワサキさんはそんなカワセミさんには目もくれず。
なにやら別の場所を狙っている模様。
キィー、キ、キィー。
それにこの、聞き慣れないお声。
まだ薄暗い池の底。
シラサギさんやカモさんたちも沢山居る中で。
ちょこちょこ、と、動き回るスマートな鳥影。
「あれは……」
「シギだよ、セイタカシギとかアオアシシギとか」
「池の水位が下がって、干潟が出来たので餌を求めてやってきたんですわね」
なるほど。
普段、護岸まで水がいっぱいだから、干潟が無いため、シギさんの
なので。
わたしもとっととカメラを組み立てて、そのシギさんを
んが、しかし。
「うぅ……まだ暗いですねぇ……」
ISO感度をある程度上げても、シャッタースピードが上がらない……日の出を待つしか無いかしらん。
と言いつつ、時刻は日の出の時刻を過ぎ。
お山や建造物の関係で、実際にお日様が顔をのぞかせるのは少し後。
とか、やっていると。
「うぅううう、寒、寒、寒ぅ……おはようさンやでぇー」
「おはよ、方菜」
「なンか
「シギさんだって。セイタカシギさんとアオアシシギさん」
「ほぉ、ほぉ、なるほどなるほど」
方菜ちゃんは池の状況をすぐに把握して、シギさんの存在を了解して、
そして、陽が昇り……。
普段、あまり見慣れない鳥さん、聞き慣れない鳥さんの声に。
四人以外にも鳥撮りのカメラマンさん達がぞろぞろとお池の周りに集合。
シャッター音を響かせる。
シギさん……セイタカシギさんも、アオアシシギさんも、干潟の水面付近をちょこちょこと歩き回りながら、長いクチバシをその水面下にツンツン、と突き入れている。
おそらく、エサ探し。
あの長い脚とクチバシは図鑑で読んだ通り、浅瀬の水面下、水底に居る虫とかを捕まえるのに適してるんだろうなぁ、と、納得。
太陽も少し高くなって、池の水面にも光が差し込んで来て、絶好の撮影チャンス。
「あ、飛んだ」
二羽のセイタカシギさんが、飛び立つ。
シャッターの音が今以上に大きく響き。
わたしも、もちろん、照準器で
二羽のセイタカシギさんは、くるーと、池の上を旋回して、また最初の場所のすぐ近くに戻って来て、降り立つ。
その降り立つ瞬間まで、シャッター、シャッターっ。
「ぉお……」
降り立つ瞬間も、撮れた……かな?
早速、プレビューを見てみると。
「おぉぉ……」
撮れてる撮れてるぅ。やっほーっ。
「ああああああああっ、やってもたぁあああああ!」
そしてカワサキさんの悲鳴。
「どうされまして!? おじさまっ!?」
寄り添うように隣に立つ蘭先輩が驚き、そんなカワサキさんの事を心配そうに。
「マニュアルフォーカスのままだったああああっ」
地団駄を踏む、とはこういう事か……。
笑っちゃいけないけど、笑ってしまいそう。
「あはははは、ドンくさいなぁ、カワサキはンっ!」
方菜ちゃんは遠慮なく、大笑い。
「いやぁ、ぴったりピント合わせようと思ってマニュアルで撮ってたら、急に飛び出したから……」
なるほど。そのままオートフォーカスにするのを忘れて……。
照準器を使って、ファインダーを使わないから、ファインダーの中の映像がどうなっているか、わからないから。フォーカスが動いてないことに気付いてなかったんだろうな。
注意、注意。
まぁ、わたしの場合、マニュアルフォーカスで撮る事はほぼ無いので、大丈夫だけど。
そんな感じで。
しばらくしたらオオタカさんも登場。
カワセミさんも相変わらずにバイクのハンドルから飛び込み魚獲り。
あっちを撮り、こっちを撮り、そっちを撮り。忙しいったら、たら。
「上にも、タカ……トビですわ」
蘭先輩が気付く、上空。
見上げると、確かに特徴的な尾羽に大きな翼。
池の上をゆるゆると旋回していたかと思うと……。
「あれ? なんか急降下して……」
一応、レンズを向けて、シャッターシャッターっ。もう、何でも撮るよぉっ!
ばしゃっ。
そのトビさん。
水面にタッチしてすぐに急上昇して……飛び去り。
「何がしたかったんだろう?」
「魚でも獲ろうとした?」
「え? トビって、魚獲るんですか??」
「まぁ、たまには?」
へぇ……トビさんは飛んでるところしか見た事、撮った事なかったけど……狩り? してるところは初めて見たかも?
あ。
撮れてる、かな?
一応、照準器で狙ってシャッターは切ってみたけど。
あぁ、ピントが甘いけど、一応、撮れては、いるっぽい。
ふむふむ。
そして、プレビューを遡って見ていて、気付いた事がある。
「カワサキさん……このセイタカシギって……夏の遠征の時に水田で撮った、アカアシシギさんにそっくりな気が……」
と、カワサキさんにその写真を見せて見る。
「あ……そっか……あの時、足が赤いから、アカアシシギって……」
まぁ、確かに、足が赤いから、アカアシシギって勘違いしてもおかしくは、無いか。
アカアシシギさんの背中の模様は、それこそアオアシシギさんにそっくりで。セイタカシギさんの白とこげ茶色のツートンとは全く違う。
「シギは見慣れてないからねぇ……あっはっはっ」
そう言えば、あの時は図鑑を出して確認、まではしてなかったけな。
ふみゅる。
確かに、図鑑を見てもシギさんの
見誤りも致し方ない、かと。
それに……。
蘭先輩が、最初に言ってた通り。
わたしの買ったこの写真入りの図鑑。
載ってる鳥さんの種類もわりと有名どころが主で、ちょっと変わった鳥さんとかマイナーな感じの鳥さんが全く載っておらず。
「そろそろ、買い替えようかな……お年玉もらったらっ!」
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近況ノートへのリンク
お池でシギさんトビさん
https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330669326017350
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