第70話:いつでもシャッターチャンス
「なぁ、カワサキはん」
「ん? なんや?
ぼーっと、オオタカ島の脇にあるベンチで休憩中。
方菜ちゃんがカワサキさんに声をかける。
「珍しい鳥て、なかなか見れへんやン?」
「せやな」
珍しい鳥は、なかなか見られない。うんうん。関西弁、だいぶわかるようになってきたでー。
イントネーションの真似とかは、まだ難しいけど。
……って、何を学ぶやら?
「カワサキはん、たまにカルやらアオやら撮っとりますやン?」
「まぁ、珍しい鳥では、無いけどね」
あー。カル……カルガモさん? アオ……アオサギさんか?
わたしも、たまに練習? みたいな感じとか、ヒマ過ぎて、他に撮るものがなくて、つい、撮ってしまう事があったり。
「あー……そっか……んじゃ、ちょっとこれを……あれ? どこやったっけ?」
カワサキさん、脇に置いてあったカメラバックをがさごそと漁ってなにかを探して。
「あったあった。これこれ。これ、見て」
カワサキさんが差し出したのは……。
「アルバム?」
小型の、手のひらサイズの写真が束になった、アルバム。
「えっと……例えば、コレとか」
アオサギが飛んでいるところ。でも……。
「キレイやね……秋? 紅葉が背景……」
「そうそう。被写体はアオサギだけど、紅葉の前を何か鳥さんが飛んでくれないかずーっと待って、やっと撮れた一枚」
「ふむふむ」
カワサキさんがページをめくる。
次の写真は。
「ハクセキでっか……これも、紅葉……」
蘭先輩は、ベンチの後ろに回って後方上から覗き込んで、ウンウン、と、頷いている。
「うん。さっきのアオサギ待ちしてる時にちょこっと飛んで来てとまったから、ぱちっと」
ハクセキレイが池の柵の欄干にとまっているだけ。
でも、背景には、ぼんやりと、紅葉の、赤。
そして、次の、写真。
「かわいいっ!」
わたしの方が先に声を上げてしまった。
カルガモさん、の、カップル? が、クチバシを合わせて、なんとなく、全体的にハートマークにも見えなくもない。
そんな、ラブラブっぽい感じの、写真。
ただ、写っているのは、カルガモさん。
珍しくもなんともない、鳥さんではあるけれど。
「ほぉ……」
方菜ちゃんも感心しきり。
蘭先輩は、首もげますよ? そんなに頷いてたら……。
「こういう瞬間も、たまたま見てる時に動きがあったら、とにかくシャッター切ってみて、なんか良いのが撮れるかなぁ、って感じ、かな?」
と、わりとドヤ顔の、カワサキさん。
次のページは。
「これは……カイツブリやね」
そう、小さくてわかり辛いけど、カイツブリさん。
そのカイツブリさんが。
「いち、に、さん……よん。四段飛び?」
水面を、切るように、飛び立とうとしている。
ぺろっと、もう一枚。
「おぉ……これもカルガモやけど」
二羽のカルガモさんが写っているけど。
右側のカルガモさんは、水面から今まさに飛び立とうとして翼を広げている。
もう一羽、左側のカルガモさんは、さっきのカイツブリさんのように、激しく水しぶきを上げて水を蹴って。
「ね。今まさに、って感じ、するでしょ?」
「うんうん」
うぉっ。
びっくりした。
蘭先輩。首を振ってるだけじゃなくて、声まで出して来られましたか。
「あとまあ、こんなのとか? これは偶然の産物、っぽいけどねえ」
次の写真。
「これは……ルリビの若かいな?」
「うん。ルリビタキの幼鳥」
そのルリビタキの幼鳥さんが。
ぱくっ! と。
「む、虫……?」
なにかの虫さんをクチバシの先に咥えてらっしゃるぅうう。ひぃぃ。
「と、まあ、こんな感じで……」
カワサキさん
「常連さんでも、面白い格好とか、カッコイイ瞬間とか狙っていけば、結構、イイ写真が撮れたりするんで、何気にぱしゃぱしゃ撮っちゃうねー」
なるほど。
鳥さん自体を撮る……しかない場合も多い。
特に、珍しい鳥さんだと、次にいつ会えるか、解らない。
二度と会えないかも、しれない。
だから、その瞬間、できるだけ、沢山。とにかく、ポーズとか狙ってるヒマも無いけど。
常連さん。
いつもいらっしゃる鳥さんたちなら。
いつでもシャッターチャンス!?
ってことかぁ。
「この間、方菜ちゃんが撮った、アオサギの手前をカワセミが二羽飛んでるとことか。あぁ言うのは狙って撮れるもんじゃないけど、それが意識できるようになると、ね?」
ふむふむ。
なるほど、納得、なるるん、的な?
よぉし。
休憩終わり。
ベンチから立って、池の柵の前に立ててある三脚に向かい。
「撮るぞぉー」
……
そういう時に限って。
カルガモさんも、アオサギさんも。
「なンも
ちゃんちゃん?
<第四章:二学期/秋・了>
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近況ノートへのリンク
カワサキさんの写真ストックいろいろ
https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330667498227441
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