第69話:盛り沢山からのフクロウさん受難
タカさん三羽が去ってしまい、カラスさんが沢山残った西池。
「どうしよう?」
「どうしましょう?」
「どうしようって、どうしよう……」
「どないやねン」
西池のほとりに残ったカワサキさん、蘭先輩、
他にも数人のカメラマンさんたちも残っている。
短時間とは言え、そこそこの
折り畳み椅子も出して座り込んで、カラスさんだけが居る森を見上げつつ、どうしようどうしよう。
まぁ、純粋に考えると、ハイタカさんが飛んで行った公園のオオタカ島方面に移動するのが正解。
ここ、トイレ無いのよね……。少なくとも、催してしまうと公園に戻らざるを得ないけど、今日はまだポカポカあったかいのもあって、今のところ全員、大丈夫そうな感じで。
「ぼー……」
「成鳥とか、また戻って来るかなぁ……」
カワサキさんが成鳥さんの戻りに、期待。
「幼鳥も、戻ってきませんかしら、ね……」
蘭先輩は幼鳥さんラブ?
「ふわぁ……眠ぅ……」
方菜ちゃんはオネムの模様。
わたしは……。
時刻はまだ早朝と言っていい時刻。
陽が昇り、その陽を浴びてほんのり
正面の池に浮かぶ森に留まるカラスさんたちの鳴き声が、少し賑やか、と言うか、やかましいくらいではあるけれど。
「あれ?」
その正面の森。鮮やかな黄色の点が移動しているのが見えた。
「何だろ?」
座っていた椅子から立ち上がり、カメラに飛びついて、その黄色い点を
早速、プレビューを出して拡大してみると……。
「みかん?」
「ん? 何か
わたしがカメラに飛びついたのを見て、他の三人もあわててカメラに飛びつき、わたしがカメラで
「あ、いや、えと、カラスさんがみかんを咥えて……じゃなくて、足で掴んで持ってきたみたいで」
「あ、あれかぁ……あ、落とした」
見ていると、みかんを足で掴んで持ってきたカラスさん。
森の手前で少し旋回したあと、森の中の樹にとまろうとして……
ぽろり、と、みかんを落としてしまう。
「そら、足で掴ンどったら、樹ぃとまられへンわなぁ……」
基本的に、鳥さんは足をつかって樹の枝にとまる。
足になにか掴んでいたら、とまるにとまれない、よねぇ……。
と、ふと手前の水面に浮かんでいた黒い鳥さんが、ばしゃばしゃと動きだしたので、咄嗟に
もう、こうなってくると、条件反射に近いかもしれないわね……。
ちょっとやばいかも?
水面を蹴って飛び出した鳥さんを少しだけ追いかけて、シャッターを止める。
プレビューを見てみると、画面いっぱいに。
「オオバンさん~」
となりに居た方菜ちゃんにそのプレビューをアピール。
「おぉ、かっこえぇやン」
どやっ!
…………。
はい、すみません。
と、思いつつ、かっこよく撮れたオオバンさんの写真にうっとりしていたら、蘭先輩が叫ぶ。
「上っ!」
すでにカワサキさんのカメラが火を吹いて……は、いなくて、連写するシャッター音。
わたしもすぐに蘭先輩の向けるレンズの方角を見上げると。
「タカさんっ!?」
「ミサゴンですわっ!」
蘭先輩も連写中。
「あれかぁっ!」
方菜ちゃんも追従する。
カワサキさんと蘭先輩のカメラは全く同じなので、シャッター音も同じ。
わたしと方菜ちゃんのカメラはそれより古い別の型なのでシャッター音も異なる。
パタパタパタっ、と、方菜ちゃん。
キュキュキュキュキュっ、と、わたし。
白く大きなタカさん。
ミサゴン? ミサゴさん?
初めて見た。
北東から来て、ゆっくりと池の上を通過。南西方面に飛び去って行った。
青空を背景に、やや斜めからの順光。
プレビューを開いて見ると、うん、良い感じに。
全体的に白っぽく見えたけど、拡大してみると、羽の方は若干黒っぽい模様もあり。目の周りも黒い。
オオタカさんやハイタカさんなんかとは全然違う模様。
それに、なんとなくだけど、かなり大きかった気がする。
「ほわぁ……また何ぞ
二度ある事はなんとやら。
いや、すでに四羽目ですけど?
「なんとな~く、今ので打ち止めっぽい気もするなぁ」
とは、カワサキさん。
長年の、カン? だろうか?
「移動しますか? 公園の方に」
「そうですわね……公園の方に向かったハイタカも気にはなりますわね」
と、言う訳で、のそのそっと、三脚をたたんで、カメラを肩からたすき掛け。
蘭先輩の方は、見ないように、見ないように。
うん。
方菜ちゃんは、仲間。
「ん? なンや? 何見とン?」
「なんでもなぁい、なんでもなぁい、よ?」
自転車を押して舗装道路まで出て、そこからは自転車に乗って。
田んぼの中を通り抜け、一旦、少し広い道路を渡って、また反対側の田んぼの中へ。
田んぼはもうずいぶんと前に稲刈りを終えて、今はその刈った稲がまた少し伸びているような状態。
そんな田んぼの間を少し進むと。
カメラマンさん達が大勢、田んぼのあぜ道の中に入っているのが見えた。
「何か居るのかな?」
カワサキさんが田んぼの脇に自転車を停める。
わたしたちも倣って後ろに自転車を停めて、田んぼの中に何がいるんだろう? と探す。
「あれちゃうか?」
方菜ちゃんが指さす方角。
確かに、他のカメラマンさんたちもそちらにカメラを向けている。
自転車のスタンドを立てて、手持ちでカメラを向けながら写すべき対象を探してみると……
「うわ、めっちゃ低空……ピント合わないな、こりゃ……」
カワサキさんが手持ちでカメラをほぼ水平に構えながら嘆く。
わたしもやっと、その対象を見つけて
田んぼの脇の用水路の上あたり。
低く、低く、ゆらゆらと、飛ぶは大型の猛禽さん。
ぱっと見は茶色っぽくて、オオタカの幼鳥さん風だけど。
「でかっ!?」
オオタカさんよりも、さらに長い翼、大きな身体。
さっき見たミサゴさん? よりはずんぐりとしている感じだけど。
ふら、ふら、と飛びながら旋回して。
「うぉっ、こっち、
正面から見ると、明らかにオオタカさんとは違う。
「フクロウ!」
「フクロウ!?」
うへぇ……フクロウ!?
しかし。飛んでる高さが低すぎて低すぎて。
一応、シャッターは切ってみてるけど、全滅っぽいのが手にとるようにわかる……。
そして、そのフクロウさんは。
大勢いるカメラマンさん達の脇を抜けて……
「降りたっ!」
そう、わたしたちの正面の田んぼの真ん中。
すぐ、そこに。
「おぉぉぉっ!」
さすがに、これなら。
ピントも合わせられる。
けど。
三脚無しの、手持ち。
そろそろ、カメラレンズの重さで、手が、ぷるぷる。
慣れたコンデジの軽さと比べると、遥かに、大幅に。
「あ、そか」
閃いた。
自転車っ!
三脚を取り出して設置している時間は惜しいけど。
自転車のサドルを、三脚替わりにして。
腰を落として膝立ちに、そしてレンズをサドルの上に。
これなら。
お母さんから
いや、銃を撃つ訳じゃぁ、無いんだけど……
カメラで
わたしの
しかし、フクロウさんを
幸い、フクロウさんは、田んぼの真ん中でじっとうずくまっている?
マニュアルフォーカスに切り替えて、ファインダーでじっくりとピント調整してたら……なんとなく、フクロウさんがこっちを見た……気がした。目が合った……気がした。
キュキュっとシャッター。
ぱぱっとプレビュー確認。
「おぉっ!?」
拡大した、フクロウさんの
なんとなく、虚ろな瞳……しかも、その瞳と言うか顔が、
親しみと同時に、何となく不気味さも感じてしまう……。
何かを訴えかけるような、瞳。
しかも、左目だけ……右目は固く閉じて、開いてはいない……
そして、疲れたような、表情。
実際、ふらふらと飛んで、降り立った田んぼの真ん中で、今は、じっとして動かない。
カメラマンさんの中の一人……シンさんだ。シンさんが、ゆっくりと、ゆっくりと、そのフクロウさんに近付いて行って……。
ついに。
シンさんが、ぱっ、と、フクロウさんを抱き上げる。
フクロウさんはバタバタ、と、翼をはめかせるが、もはや。
フクロウを抱きかかえたシンさんが、こっち……道路の方へ駆け寄り。
「こいつ、カラスに追われて低空飛行して
と、言い残し、フクロウさんを抱えて、走って行かれる。
カワサキさんは「了解」とシンさんを見送り、そのシンさんのカメラを回収。
そして……。
公園の管理事務所に戻ると、直接かかわったシンさんをはじめ、手伝っていた人たちや見守っていた人たちが事務所の前に集まっていた。
すでにフクロウさんは公園の管理事務所の職員さんが車で動物病院に連れて行ったとのことで。
集まった人たちの会話を漏れ聞いていると。
どうやら、今のフクロウさんみたいに公園の中や周辺で傷ついた野鳥さんが保護されることがままあるそうで。
公園の管理事務所自体が県の運営と言うこともあって、保護の方法やら緊急時の対応方法なんかがあらかじめ決められているそうな。
フクロウさんが運び込まれる動物病院も協力しているそうで。
カラスに追われ、カラスに傷つけられたのなら、ある意味、自然の摂理。
でも……。
「ほンまやったら自然のまンま
後日。
聞いた話。
あのフクロウさんは病院での治療の甲斐あって、ケガも治り、元の場所……あの畑へ戻され、そこから元気に飛び去って行った。
とのことだそうで。
よかった……のかな?
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近況ノートへのリンク
カラスみかん、ミサゴン、オオバン、フクロウ
https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330667148428641
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