第68話:タカさんとカラスさんのバトルフィーバー
深まる秋に色付く森の木々。
黄色に、赤に。
そして落ち行く葉。
でも、青々と残る葉を湛えた樹々もあり。
色鮮やかなる森の樹に留まる、タカさんたち。
オオタカさんの成鳥、幼鳥、そしてハイタカさん。
三羽のタカさんが居る、森。池に浮かぶ、早朝の森。
昇ったばかりの太陽に照らされ、明るくなった風景に、暗雲が訪れる。
太陽を背に、東の空から現れたのは。
「カラス!?」
カラスさんの大群が、タカさんたちの居る森を目指し、飛来。
カァカァ、と、高らかに、鳴き響かせながら。
わさわさ、わらわら、と。
タカさんたちの周囲に降り立つと、色鮮やかだった森が一瞬にして、黒く染まる。
「うゎぁ……エげつないなぁ……」
「でも、堂々としたものですわね、あのタカ達……」
蘭先輩のおっしゃる通り。
一瞬、ぴくっと反応したけれど、何食わぬ顔で微動だにしない、オオタカ成鳥さん。
幼鳥さんは、少し移動はしたものの、その場に留まっている。
ハイタカさんも直立の体勢から、前傾姿勢に移行しつつも、まだ、その場所でカラスさんたちを睨んでいるかのように首をせわしなく動かしている。
「こうなると、ドコ狙っていいか、わかんないよなぁ」
カワサキさんがぼそっと呟くと。
「とりあえず、成鳥でしょ?」
と、近くに来ていたシンさんが返す。
ですよねぇ。
写真映りの意味では、オオタカ成鳥さんが一番、映える。
もちろん、幼鳥さんやハイタカさんが映えないと言う訳ではないけれど。
カラスさんたちは続々と三羽のタカさんたちの居る森へやってくる。
木に留まるもの。
タカさんの周りを飛び回るもの。
鳴き声もやかましく、騒々しい。
雰囲気的にも、一触即発の様相。
「時々、カラスさんとタカさんのバトルも見るけど、こんな大量なのは……」
わたしがぼそっと呟くと、カワサキさんが拾って。
「そうだね、ちょっと珍しい、かも?」
ずらりと並んだ
シャッター音は、まだ、時々、所々。
わたしも、カラスがオオタカさんにちょっかいをかける瞬間を狙ってシャッターを切ってみる。
そんな中。
「あっ!」
ハイタカさんが、飛んだ!?
鳴り響くシャッター。
カラスさん達一団も声高らかに、飛び出したハイタカさんを追いかける。
わたしの場所からだと、左手前方。ハイタカさんは左を向いて飛び去ろうとするので、狙ってシャッターを切ってはみるけど、残念ながら、後ろ姿。
「右っ!」
続けて、蘭先輩が叫ぶ。
右端に居たのは、オオタカの幼鳥さん。
ハイタカさんと違い、飛び出して、大量のカラスさんたちを引き連れながら、成鳥さんの前を横切って、さらに森の左側へと旋回して……森の向こうに消える。
でも、すぐに、森の右側から戻って来る。
二週、三週……あれ? 戻って来ない、と思ったら。
「左かっ!?」
森の反対側で、反転したらしく、左側から戻って来た。
右往左往、って、この事?
成鳥さんも気にしつつ、飛び回る幼鳥さんを
幼鳥さんが、ハイタカさんの居た左側の樹に留まった、と、思ったら、今度は。
「成鳥、行ったでぇっ!」
今度は、
まるで、お祭り騒ぎ。
シャッター音が鳴りやまず。
カラスさんたちの鳴き声も、鳴りやまず。
カラスさんたちの羽音さえ、ばっさばっさと聞こえる程に。
成鳥さんも、幼鳥さんと同じように、森の周りをぐる、ぐる、と、周る。
カラスさんに追いかけられるだけではなく、逆にカラスさんを追いかけて、上へ下へと
そして。
成鳥さんがこちらに戻って来なくなった、と思ったけど。
「あら? 反対側に留まったようですわね……」
蘭先輩の推察。
なるほど。
でも、しかし、すぐに。
「右やっ!」
森の裏側から、オオタカさんが右手側に飛び出し、そのままこちらには戻らず、右の方……東の方へと、真っ直ぐに。
また後ろ姿……。
でも、まあ、幼鳥さんと成鳥さんが、森の周りを回っているところがいっぱい撮れた、かと。
プレビューを確認しているヒマが無かったので、ちゃんと写ってるかどうかは、後で。
撮れてると、いいな……。
オオタカ成鳥さんを追って、カラスもまた半分ぐらいが居なくなった。
残るは、幼鳥さん。
こちらは、なんとか、森に留まって、カラスさん達とにらめっこを続けるんだけど、動きは沈静化。
徐々にカラスさんが森から離れ、数を減らしてゆく。
ひと段落、付いたところで、プレビューを確認してみる。
ささっと、流してみた感じ、半分くらいはピンボケブレブレ写ってないみたいだけど、もう半分くらいはなんとなく写ってる。
拡大してみるとピンボケブレブレってのも、あるんで、さらに半分くらい?
その中でも、タカさんのポーズがよかったり、カラスさんとの位置関係がよかったり、とか、絵的に映えるのが、あるかないか。
これは、後のお楽しみ。
とか、やってたら。
「うぉっ! こっち来たっ!」
え?
カメラのファインダーでプレビューを確認していたわたしは、一瞬、出遅れる。
目の前に、幼鳥さんっ!?
カワサキさんの叫びの通り、幼鳥さんがこっちに向かって飛んで来るっ!?
後ろには、カラスさんの大群。
慌てて照準器で
わたし達の直上を超えて、後ろに。
「あー……行ってもたなぁ……」
わずかに、カラスさんの一部はまだ森に残っているが。
大半はタカさん達を追いかけて、タカさん達と共に飛び去って。
静かになった、森。
池。
がやがや、と、カメラマンさんたちの話声。
そして、タカさんの居なくなった池から早々と移動を始める人達も。
「ふぅ……」
時間にすれば、十数分ぐらい?
短時間の内に、色々と、ドタバタと。
何枚くらいシャッター切っただろう?
最後の、幼鳥さんのドアップをプレビューで確認してみると。
「ぐあっ……全滅…………」
しょぼん。
後でカワサキさんに聞くと。
カメラと言うか、レンズの構造上、こちらに向かってくる鳥さんにピントを合わせるのはすごく難しいんだとか。
去って行く鳥さんを追いかけて撮る場合は比較的、ピントが合わせやすいんだって。
遠いところのピント合わせは、レンズの動きが小さくて済むけど、近い所になるほど、ピント合わせの時にレンズが大きく動くんだって。
だから、近付いて来るものを撮るのが、難しい。
さらに言うと、ピントが合った後にシャッターが切れるまでの僅かな時間でも、鳥さんはこっちに向かって飛び続けてるので、ピントが合った場所からすでに移動しちゃってて、ピントが合ってない位置でシャッターが切れちゃう、と。
はにゃぁ……難しい、ね。
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近況ノートへのリンク
https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330666783748084
オオタカさんとカラスさん
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