第47話:野鳥写真展、まだ準備中……



 公園の施設で開催される『野鳥写真展』。


 公園の常連さん達が各々おのおの『これぞ!』って写真を持ち寄って展示するだけなんだけど。

 一応『この公園とその近郊で撮影した野鳥』がテーマ。

 なので、西方遠征で撮った写真は出せない。

 わたしは、例のウグイスさんのどアップ写真で参加。

 カワサキさんが大きくプリントしてくれて、額にも入れてもらって。


 そう、この額縁は参加費千円に含まれる。参加者全員の額縁をそろえるために、まとめて購入したらしい。展示会が終わったらそのまま持ち帰ってもいいんだって。

 

 色々と準備を進めて、明日から二日間開催。

 って事で、今日は前日。会場設営とかで準備中なのです。


「はい、蘭。次、これね」

「はいはい、と」


 わたしと蘭先輩は、会場の片隅のテーブルで額縁に作者名とかをプリントしたシールを貼り付ける作業中。

 額縁の裏に受付の時に書いてもらった受付表が貼ってあるので、それと同じシールを探し出して額縁と共に蘭先輩に渡す。

 蘭先輩はもう一度名前を確認して、シールを額縁の前面右下に貼り付ける。

 シールは、パソコンに入力したデータをカワサキさんがプリントしてくれた物。

 なんでも、カワサキさん、印刷の関係の仕事をしていて、わたしの写真も含めてさくさくっとプリントできちゃうんだって。


 額縁の仕入れはシンさんが馴染みの写真ショップから格安で仕入れたとか。写真を並べる台とかも他の常連さんが手配。今やってる準備作業とかも常連の務めみたいな感じで全部ボランティアだし、まさに文化祭みたいなノリ。


「あ。次、蘭のだ」

「はいはい、と」


 集中してますねぇ、蘭先輩。

 シールを貼る時に、斜めになったりしないように、慎重にやってるから、集中せざるを得ない感じかな。

 わたしも、名前が間違ってないか、二度見、三度見。

 シールを貼り終えた写真は、別の常連さんが回収して実際の展示場所に持って行って並べてゆく。

 入口から順路に沿って、春、夏、秋、冬、って並べるみたい。

 ってことは、わたしのウグイスさん、春なので、最初の方に並ぶ事になるねえ。


「あ、これわたしのだ~」

「斜めに貼ってあげましょうか?」

「!?」

 おーい、蘭先輩ぃ~?


 ハラハラ。


 でも蘭先輩。きっちりまっすぐ貼ってくれる。


 ほっ。


「次ぃ~カワサキさんの~……って、コレは!」


 カワサキさんの写真、タイトルは『キジとスズメ』。

 羽ばたいてるキジさんの前を、スズメさんが飛んでいる写真。


「そう言えば、キジもまだ見た事ないな……この飛んでるスズメさんからすると……結構、大きい鳥なのね」

「公園の中ではほぼ見かけないですからねぇ。おそらく、公園の外の畑あたりで撮られたんだと思いますわよ」

「ふむふむ。じゃあ、公園の中だけじゃなくて、公園の外にも足を運ぶ必要があるってことね」

「ですわね。まあ、どっちみち夏場は何も居ないと思いますけど」

「なるほど」

「全く何も、と、言う訳ではないですけどね……セッカなら撮れる、かも、ですわ」

「セッカ?」

「図鑑をご覧なさい」

 はいはい。図鑑図鑑。

 えーっと、セッカさん、セッカさん。コレか。

「キレイ系じゃないね……」

 ムシクイさんとかと似た感じ? 茶色っぽくて、スズメさんにも似てるかも。でも、足がすごく長く見える。

「足を広げて稲穂にまたがってるでしょ? それがセッカ定番の撮り方ですわね」

 なるほど。図鑑にもそのまんまの写真が載っている。足が長く見えるのは、足を広げてるから目立ってるせいか。


 なるるん。


「少しシーズンが過ぎてますが、オオヨシキリもまだ撮れるかもですね」

 オオヨシキリさんは、っと。これか。

 細い葉っぱの上、真っ赤な口を大きく開けて、鳴いてるところかな?


「その写真もオオヨシキリの定番ですわね。口を開けたところを正面から撮るのが定番中の定番」

「ふむふむ」

 図鑑に載ってる写真も、おおよそそういった『定番』なのね……。


 ただ撮るだけじゃなくて、鳥さんごとにその鳥さんの特徴を表す撮り方がある、と。まあ、運もあるし、モデルさんじゃないんだから思った通りに撮れる事は稀なんだろうけど。

 粘って、狙ってその瞬間を待って、撮れたらウレシイんだろうなぁ。


「あれ? 写真、もう終わり?」

「「あ」」


 しまった。蘭先輩とくっちゃべってたら、手が止まってた。


「すみまーん、まだありまーす。少々お待ちを~」

 焦り。


「ほら、さっさと準備なさい」

「ちょ! 蘭も同罪だからねっ!」

「ふんっ」


 もー。


 とかなんとか。


 ようやく全ての写真に名前シールを貼り終えて一息。


「うう、地味に疲れましたわぁ」

「同感~」

 物が無くなったテーブルに突っ伏す蘭先輩とわたし。

 突っ伏した勢いで、蘭先輩の帽子が飛んだ。


「蘭、帽子帽子……あれ?」

 帽子が脱げた蘭先輩の頭を見て驚き。

「蘭、え? その頭……逆プリン!?」


 そう、黒髪のてっぺんだけが、黄色、と言うか、金色。

 そう言えば、地毛は金髪だって言ってたっけか。


「あー、これですか。夏休みに入って染めるの面倒になって放置してるだけですわ。外では基本、帽子被ってますし」

「なるほど……って言うか、本当に金髪だったんだねぇ」

「もういっそ、染めるの止めて、地毛に戻そうかしら……」

「いいんじゃない?」

「もう二年生も二学期になりますし……でも、驚かれるでしょうねぇ、周りからは」

「金髪、おさげ、眼鏡……」

 ちょっと想像してみる。


 …………


「ん。アリだな!」

「アリですか?」

「ん。大アリ!」

「ふむ……」


 てな感じで。準備も一通り終わり、本日終了。


 明日から二日間、展示会本番!







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

近況へのリンク

カワサキさんの作品『キジとスズメ』

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330660930642317













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る