第46話:鳴けば解る、鳴かねば解らぬ、ツツホトカッコウ



 蘭先輩、シンさんと野鳥写真展の写真受付の合間。

 蘭先輩と交代でちょこっと鳥撮りに公園を散策。

 水路の森のベンチに座った瞬間に目の前の木に停まった鳥さんをぱしゃり。

 プレビューを見て、目が点。


「なんじゃこりゃー」

 図鑑を取り出して、何の鳥だか探してみる。

 こういう時、五十音順だと名前がわからないので、頭から写真を見比べるしかない。見知った鳥さんをスキップしつつ、まだ見た事、撮った事のない子を探す。


「これかな?」

 カッコウさん。色と模様とか形が似てる。念のため、他の頁もぺらぺら見てみると。


「え? これも?」

 ツツドリさん。さっきのカッコウさんと見比べてみる。微妙に違ってる気もするけど、似てるっちゃー似てる。

 ふむふむ。ぺらぺら。


「えええっ!?」

 また出たよ、ホトトギスさん。あー……鳴かされたり、鳴くのを待たれたりする、あの子か~。へぇ~これがあのホトトギスさん。こんな姿なんだ。


「って、ゆーか、ツツドリさんとどう違うのっ!?」


 ページをパタパタやって見比べてみるけど、ほぼ同じ?


 カッコウさんはなんとなく色合いがちょっと違ってるかな? でもこれもそっくり。


 んー、どれだかわかんなーい。


 とりあえず。


「蘭先輩に聞いてみよう!」


 今日はカワサキさん居ないけど……シンさんなら解るかな。

 と言うわけで、他に鳥さんも居なさそうなので、施設に戻る。


「蘭! 蘭! 蘭!」


「おかえり、永依夢エイム。騒がしいですわね。その呼び方はお止めなさいな。能天気なお子様みたいですわよ」


 スキップ、スキップ、ランランラン、って?


 うなぎ食べる前にスキップされてましたよね? 蘭先輩……。


「そんな事より、これ見て、コレっ!」


 カメラのプレビュー画面を出して、拡大して件の鳥さんの全体像を表示して見せる。


「何ですの? 一体……え?」

「ん? 何、撮ったの?」

 シンさんも興味を持たれたみたいで覗きこんでくる。


「カッコウ? ツツドリ? ホトトギス? どれだかわかんなくて」

「と言うか、これ、今、撮ったんですの?」

「うん。水路の森で。ベンチに座った瞬間に目の前の樹に飛んできたの」

「それを撮ったと?」

「うん」


 ずこっ。


 蘭先輩、カメラを手にしたまま、受付の机に突っ伏した。

 いきなりどうした!?


「なんで、この一瞬の隙に……貴女、ビギナーズラックにも程がありましてよ。私も滅多に撮れないですのに……」

 突っ伏したまま蘭先輩が悲しそう。


「えー? たまたま偶然だよ?」

 うん。ほんと、偶然。


「その偶然が何故貴女だけに……私は何も撮れなかったと言いますのに……」

 まだ机に突っ伏したまま蘭先輩。


「えー。それより、この子、何者かわかる?」

「色合い的にカッコウではなさそうですね。ツツかホトか……シンさん、どうですかしら?」

 あ。起きた。カメラをシンさんに渡して、丸投げ。やっぱり蘭先輩でも解かんないか。


「んー……これ一枚?」

 写真を見て、シンさんも首をひねる。

 

「はい、一枚だけです」

 ほんと、一瞬だったからね。連射モードで何枚か撮れてるけど、ほぼ同じポーズの同じ写真。


 ちなみに、写ってる姿はと言うと。


 ほぼ正面から撮ったので、お腹側と顔しか見えない。

 そのお腹は基本、白くて、黒っぽい横線がある。まっすぐじゃなくて、お腹の中心から左右に広がってるような感じかな。そういう意味ではハイタカさんみたいなお腹。

 顔は黒っぽくて、目の周りが黄色く縁どられている。確か、アイリングって言うんだっけか。

 クチバシは、見た感じ、下が黄色で、上は黒っぽい感じかな。

 蘭先輩も自分の図鑑を取り出して見比べている。


「この鳥、鳴いてなかった?」

 と、シンさんがわたしに訊ねてくるけど。


「いえ。鳴いてはなかった、と思います」

 シジュウカラさんとかの聞き慣れた声は聞こえてたけど、聞き慣れない声はなかった気がする。


「姿かたちは似てるけど、鳴き方が全く違うから、鳴き声聞けば一発なんだけどねぇ……」

 そうなんだ……。


「カッコウはまさに、『カッコウ、カッコウ』って鳴くからね。ツツドリも名前の通り、『ポ、ポ、ポ、ポ』っての口を叩く音みたいな声だね」


 ホトトギスは?


「ホトトギスも鳴き方から名前になってるらしいけど、ピンと来ないと思うよ。聞きなしとしては『トッ、キョ、キョカキョク』が有名だけど」


 ふむ……実際に聞いてみないと解らなさそうだねぇ……。

 スマホで検索してそれぞれ聴いてみる。


 ……、……、……。


 カッコウさんは、本当に、まんまだね。

 ツツドリさんも、なるほど、そう言われてみれば、って感じ。

 ホトトギスさんは? ……正直、微妙。

 『キョっ、キョっ』と長い目に二回鳴いた後、続けて『キョキョキョキョ』と短く四度。


 ああ、だから『トっ・キョっ』で『キョ・カ・キョ・ク』か!


 なるほど。


「いやいや。鳴き声は聞いてないんでわかんないですよ~」

 と、ごねてみる。


「お腹の横線の太さや線の数で見分けるってのもあるらしいけど、僕らもそんなに慣れてないからねぇ」

 シンさんは色々ご存知のようではあるんだけど、イマイチはっきりしない。


「珍しい鳥さんなんですか?」

 わたしの素朴な疑問にシンさんが答えてくれる。


「この公園でって事だと、そこそこ珍しい部類かな。山の方に行けば普通に居るけどね」

 なるほどー。


「経験的に、この公園で一番よく見れる可能性が高いのはツツドリだねぇ。だからこれもツツドリかなぁ、って」

「じゃあ、これは、『ツツドリさん?(もしかしたらホトトギスさん)』ってことで……」


 ホトトギスさん疑惑も残って、ハテナマークは取れないケド、まあ、しょうがないか。


 次にカワサキさんに会ったら、カワサキさんにも聞いてみよう。

 でも、カワサキさんよりシンさんの方が先輩みたいだから、同じかもだけど。


「あのぉ……」

「はい?」


 喋ってたわたし達に話しかけて来る人。


「写真、預けるのって、ここで良いです?」


 あああっ!


 写真の鳥さんの話で盛り上がって、受付忘れてたっ!?


「すみませんすみません、はい、ここで受け付けてます~。こちらに……」


 どたばた。


 野鳥写真展の準備は続く。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

近況へのリンク

『ツツドリさん?(もしかしたらホトトギスさん)』

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330660719644576

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