第45話:野鳥写真展の準備、始まる



 夏休みも後半。


 お盆休みは両親それぞれの実家に行って、お墓参りなどなど。


 そしてお盆明け。


 いつもの公園で『野鳥写真展』の準備。


 公園の中にある施設の一角を使って、公園の常連の鳥撮りさんたちの作品を展示するんだって。


 一人一作品づつ。同じ額縁に入れて飾るんだとか。


 わたしは結局、例のウグイスさんで。


「おはよー、蘭」

「おはよう、永依夢エイム


 会場になる施設の前で蘭先輩と合流。

 一応、機材も持ってきてるけど、どうせ鳥さんも居ないだろうし、準備に専念。

 会期はまだ先なんだけど。


「ここで、常連さんの写真を受け取ればよいのね?」

「ええ。額入りの写真を受け取って、この受付表に名前を書いて頂ければ」

「はーい」


 受付表の内容を見ると、作者名、作品名、鳥の名前、撮影時期、か。わたし自身のも書いて出しておこう。


「河崎永依夢、ウグイスさん、ウグイス、春、と」

「ウグイスさん……」

「……なんか文句ある?」

「いえ、何も?」

「そう言う蘭は?」

「わたくしは……」


 Ran.Suzuki、モズのカップル、モズ♂♀、冬。


 樹に止まったモズのメスに、オスのモズがエサをプレゼント? するシーン。ばっちりとよく撮れてるねぇ。


 ってゆーか、あくまでも『鈴木蘭』とは書かないんだな……。


「こんなの、いつ撮ったの?」

「二月ぐらいでしたかしら? オオタカしまでオオタカ待ちしている時に、近くの樹で」

「ふむふむ。その時、わたし居なかったのかなぁ」

「多分、いらっしゃったわよ? 確か、おじさまとおしゃべりされてたかと」

「なるほど……」


 写真は用意した紙袋に入れてから、段ボール箱へ。


 予定の参加者は約六十名。


 そんなに居るんだー、って思ったけど、よく考えてみたらオオタカ島の周辺には百人ぐらい居たっけな。


 多くの常連さんは定年を迎えた悠々自適な方々が多い。なので、今日のような平日でも普通にいらっしゃる。


「おはよう、お嬢さん方」

「おはようございます、シンさん」

「おはようございます~」


 その中でも重鎮中の重鎮、シンさん。

 シンさんは、この公園のすぐ近くに住んでるそうで、この公園の、所謂いわゆるぬし』みたいな方。カワサキさんとも仲がいい。とゆーか、常連さん皆と仲良しっぽい感じだね。


 学校で言えば、クラス委員長か、生徒会長みたいな感じ?


「どう? 集まってる?」

「いえ、まだ来たばかりなので……」

「そっか。じゃあ、これ、僕の分も預かってくれるかな?」

「はーい、では、こちらにお名前ご記入お願いします」

「了、解」


 とかやってると。


「おはよー、写真預けるの、ここでよい?」

 別の方もいらっしゃいました。


「はーい、展示会の写真、お預かり致しま~す」

「ぉぉ。美人さんが増えてるー」

「えへへーっ、ありがとうございます~」


 シンさんも受け付けに座り、ある意味、わたしたちの護衛?


 その後も入れ替わり立ち代わり、常連さん達が写真を持ってくる。


 一山超えると、人が来なくなって、ヒマになる。


「永依夢、パソコン、使えますわよね?」

「ん? 多少は」

「では、受付表の内容をこのリストに打ち込んでおいて下さいまし」

 蘭先輩、カバンからノートパソコンを取り出して渡して来る。画面にはすでに受付表と同じ内容の一覧表が表示されている。


「えー」

「わたしはちょっと島、見てきますわ」

「ええーっ!?」

 まあ、いいけど……


 と、言うわけで、蘭先輩が三脚を担いで行ってしまわれたので、一人ぽちぽちと受付表の内容をパソコンに入力して行く。


「スマホのフリック入力の方が慣れてるんだけどなぁ……」

 普段ほとんどパソコン使ってないから、キーボード入力って慣れない。


「そっかぁ、最近の子はパソコンよりスマホのが慣れてるんだねぇ」

 と、シンさんがわたしの独り言を拾う。


「ええ、一応、学校の授業でパソコン使ったりすることもあるんで、基本的な使い方は分かってるけど……」


 ぽちぽち。


「蘭ちゃんもだけど、若いのに珍しいねぇ、鳥撮りしてるの」


 ぽちぽち。ぽちぽち。


「みたい、ですねぇ」


 ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。


「機材も結構お金かかるから、学生さんは珍しいよね」

「でしょうねぇ……」


 ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。


「足繁く通って、チャンスを狙うって言う意味で僕らみたいな定年組が有利だしね」

「なるほど……」

 時々、写真の受付も来るけど、シンさんが対応してくれた。


 ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。ぽちぽち。


「ただいま。入力、終わりまして?」

 シンさんとおしゃべりしつつ入力悪戦苦闘していると蘭先輩がご帰還。


「んー、まだ、途中ぅ~」

「……遅せぇな、おぃ……」

「スマホをパソコンに繋いで、フリック入力できるようにしてよぉ~」

「キータイプなんて、ゲームでチャットやってれば、すぐに上達しますわよ?」

「そ、そうなんだ……」

「貸してごらんなさいな」

 蘭先輩がパソコンを強奪。


 カタカタタタタタンタン。

 カタタカタカタカタタンタン。

 カタタタタタタ、カタタ、カタ、カタタンタン。


「はい、おしまい」


 はえええええっ。お見事。ゲーム、侮りがたし?


「で、島、なんか居た?」

「なーーーーんにも……」

「デスヨネー」


 夏は暑い!


 ここも一応、屋根の下とは言え、屋外。


 風があれば多少マシだけど、風もなければ、ぬるーっとした暑さがじわーっと。

 座ってるだけで、お尻と背中がムレムレ。


「わたしもちょこっと行ってきて良い? 水路の方、見て来る~」

「どーぞどーぞ」

 

 カメラを肩に、自転車でゴー。


 と、言っても施設の場所から水路はすぐ近く。歩きでもよかったかな?

 まあいいや。

 自転車で狭い通路を進んで、奥へ。

 ここは樹々に覆われていて比較的涼しい。

 オオタカ島はこの時間になると朝とは言え直射日光で暑い暑い。


「ふぃ~」


 バサッ!


「え?」


 水路脇にある広場のベンチに腰掛けた瞬間。


 目の前の樹に、何か鳥さんが飛んで来て止まった。


「あ? え? お?」


 とっさに、カメラを向けて照準器で捕捉エイムして、シャッター。


 バサッ!


 一瞬。


「何だったの? 今の……」


 大きさはヒヨドリぐらい? 色カタチも、なんとなくヒヨドリっぽかったけど。


 鳴いてもいなかったので、なんだかよくわからない。


 プレビューを開いて見てみる。


「なんじゃ、こりゃー!?」





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近況へのリンク

とりあえず、蘭の作品風写真

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330660514478413

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