第44話:鳥撮りの夏はオフシーズン……



 二泊三日の西方遠征から戻ってしばらく。


 蘭先輩と夏休みの宿題消化合宿。


 いや、合宿って言っても、泊まり込みではなくて、どちらかの家で一緒にやるだけ。解らないところを教え合う、と言うことはほとんどなくて、お互い、サボらないように監視し合ってるって感じかな。


 とゆーのも。


 わたし達学生は夏休みでも、カワサキさんはお仕事。

 基本、女子高生二人でフィールドを闊歩するのは危険、と言う事で、カワサキさん随伴が必要。

 必然、カワサキさんのお休みに合わせての出動となる。


 なので、平日は蘭先輩と普通の女子高生。


 待望のカワサキさんの休日。


 なんだけど。


「鳥さん、いらっしゃいませんね……」

「夏はねぇ……」

「ほとんどの鳥さんは涼しいお山に行っちゃうしねぇ」

「タカさんも居ません」

「タカも涼しいところ、行ってるっぽいねぇ」


 公園フィールドに来てはみたものの。


 炎天下。

 自転車で走り回るのも暑くて疲れる。

 水路前の東屋で直射日光を避けつつ、ぼーっとカワセミさんを待つ。


 まあ、ハトさんやスズメさん、カラスさんは相変わらずいらっしゃいますが。

 ヒヨドリさん、シジュウカラさんもちらホラ。あと、ツバメさん。

 たまーに、東屋の前の水路にカワセミさんがいらっしゃるんだけど……それをぱしゃり、撮ってみて。


「なんか、冬に見たときより、あんまりキレイじゃないですよね?」


「季節によって、羽が生え変わるから。夏羽はあんまりキレイじゃないね」

 ふむふむ。


 遠征で見たアマサギさんのあのキレイなオレンジ色も『婚姻色』と言って、繁殖期にだけあの色になるんだとか。

 ふむふむ。


「あぢー」

あちぃですわ……」

「あ。なんか飛んでます。かなり上の方……」

「どうせ、カラスですわー」

「んー……」

 一応、手持ちカメラで撮影してみて確認。


「カラスではなさそうですね……なんだろ?」

 プレビューを拡大して見てみるけど、ぼんやりとしか映ってない。

 黒じゃないから、カラスではないと思うんだけど……。


「んー? みしてみー」

 プレビューをカワサキさんに見せてみる。


「ツミ、かなぁ……遠すぎてよくわからんね」

 ですよねー。


「それに、なんか、ぼやけてますよね、この写真」

「ああ……この暑さだからねぇ。空気が熱で揺らいで画像が歪みがちになるねぇ」

 なるほど……。


 鳥撮りにとって、夏はいろんな意味で不向きオフシーズン、なのかなぁ。


 遠征では色々、撮れたけどー。


「あぢー」

あちぃですわ……」

「……帰りますか」

「んだねぇ……」


 のそのそ、帰り支度。


 その帰り道も、登り坂で、ひーこら言いながら、休み休み。カワサキさんの電動アシストが、うらやマシーン。


 どうにかこうにか、わたしんまでたどり着いて一息。クーラーの下、二人並んで涼む。


「そういえば、永依夢エイム、お盆明けの話なんですけど」

「ん? 何?」

「前に言いましたけど、お盆明けに公園で写真展が開かれますの」

「あー、だいぶ前に言ってたやつね」

「参加費、千円」

「え? お金かかるの!?」

 聞いてないよー、と言うか、今初めて聞いたよー。


「毎年、公園の常連さんの有志六十人ぐらいでやってますが、公園の建物を借りる費用と、写真を入れる額縁を手配するのに必要なんですのよ」

「なるほど……」

 まあ、千円ぐらいなら。


「蘭に渡しておけばよい?」

「はい。頂いておきますわ。あと、会場の設営やら、準備のお手伝いにも行きますからね」

「はーい」

 なんか、文化祭? みたいなノリっぽい感じ、かな。


「永依夢の写真は……例のウグイスで良いですわよね?」

「んー……そうだね。あれ以上の写真は、撮れてないかなぁ……」


 遠征で撮ったタウナギゴイサギさんやアマサギさんもわりといい感じだけど、わたしのオリジナルって訳でもないし。


「テーマは『公園の野鳥』ですから遠征の写真はダメですわよ?」

 なるほど!


「ウグイス以外にも、いい写真があったら、Ageエイジのグループチャットに貼り付けておいてくださいまし。展示は一枚ですが、他にもプリントして来場者に配布しますんで」

 なんですとー?






 こうして。


 それぞれのお盆を過ごした後、いつもの公園フィールドで開かれる『野鳥写真展』に参加する事になった。







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