第48話:野鳥写真展、開催中デス!



 さて!


 いよいよ、開催の『野鳥写真展』。


 常連の鳥撮りさんたちがこの公園とその近郊で撮影した写真を持ち寄って、一般にも公開。


 入場無料!


 参加費、額縁代込みで千円!


 会場になる施設の借用費用も入ってるらしいんだけど、多分、ほぼ空調……クーラー代なんだろうな。


「すずしーっ!」

「もう、外に出たくなくなりますわよね……」


 一般公開は九時からだけど、わたし達も含めてボランティアの人達は八時から。

 準備は昨日までに済ませてあるんで、今日は簡単なお掃除とか。


「でも、今日も明日も午後から外の見張り役も入ってるよぉ……」

「んげー……ですわ……」


 常連さんが三脚を担いで入場されると困るので、会場の外に置いてもらうんだけど、物がモノだけに、盗難が怖い。そこで交代で見張り役を立てる。わたしと蘭先輩の順番が午後いち。


「ちなみに、その後、チラシ配りね」

「んげげー……ですわ……」


 公園内を回って、親子連れをメインに『写真展開催中』のチラシを配るお仕事なんかもある。このチラシもカワサキさん作。カワサキさん、自分のお仕事大丈夫なんだろうか?


 今はそのカワサキさん達がチラシを配りに行ってるみたい。




 とかなんとか、やってる内に開場時間、九時。


 文化祭みたいに、『ただいまより~』みたいな盛り上がりは無くて、入口の看板に『開催中』の札をかけて、ひっそりと開始。


 わたしと蘭先輩はそれぞれ持ち場……自分の写真のある季節のコーナーの角に立つ。他の季節のコーナーには別の常連さん。


 役割としては、来場者から何か質問されたら、それに答える係。昨日、写真を貼り終えた後、シンさんや他の常連さんから他の人の写真のポイントみたいなところを教えてもらって暗記。


 いや、これ、学校の勉強よりキつかったっす。

 一応、メモとかも取ってはいるけど、メモ見ながら答えるのも恥ずかしいしねぇ。必死で暗記したよ。


 幸いだったのは、春も比較的タカさん系の写真が多かったこと。それにサンコンさんやキビタキさん、オオルリさんなど、知ってる鳥さんが多かったことかな。



 そんな中に一枚だけ、少し違った形で展示されている写真があった。



 入口から入って一番最初に目に留まる写真。


 カワセミさんのような姿だけど、全身が真っ赤に染まった鳥さん。


 この写真だけ、額縁も違っている。



 『アカショウビン・夏』



 撮影者名の前に『故』とつけられている。



「この写真は、二十年ぐらい前に撮られたものなんだよ」

 シンさんが昨日、この写真について語ってくれた。


「この方はずっと昔から、それこそフィルム写真の時代から公園で野鳥を撮り続けていてね……」

 フィルム写真がどんなものか、わたしはよく知らないけどかなり昔の物らしい。


「このアカショウビンが出た時は、僕も含めて何人かその場に居たんだけど全然撮れなくてね。彼だけがこの写真を撮る事が出来たんだ……」


 その方は、写真展にはこの写真をずっと出されていたらしい。


「この野鳥写真展もね、彼が公園の管理事務所とかけあって始めたんだ」


 でも、数年前に亡くなられたんだ……


 シンさんは写真を見つめながら、でも、その写真の向こうに居るその人の面影を思い出していたんだろう、悲しそうな、でも優しい眼をされていた。



 そんな、しんみりとした話も思い起こしつつ、隅っこにちょこんと立って待機。


 待機場所の脇のテーブルには手のひらサイズの写真が並べてあり『ご自由にお持ち帰りください』と書いた札を立ててある。展示している写真も含めて、それ以外にも何種類か、常連さんたちから提供された写真。


 こっちの説明とかもあるんだよなぁ……ドキドキ。



 始まってすぐに数名来場。


「おっはよー。ぉぉぉ、涼しーぃ!」


 来られたのは常連のおじさん。早朝から鳥撮りで来ていた人が開場と同時に涼みにやって来た感じ。


「今年の新作は、っと……ぉ?」


 入口から『春』のコーナーの写真を順番に眺める常連さん。時々見かける年配の男性で、シンさんやカワサキさんともたまに会話されてる人。


「ほっほー。これが例の新人子ちゃん……って、もしかして、君か?」


 おじさんの立ってる位置から、おそらくわたしの写真の事だろう……


「はい、わたし、です」


「蘭ちゃんの友達なんだってね。最近始めたって聞いたけど、これ、よく撮れてるね、すごいよ」


「そうですか? ありがとうございます。鳴き声を辿って、一時間ぐらい粘って、ほとんど偶然でしたけど」


「うんうん。そういうのもいいね。これからもがんばってね」


「はい! ありがとうございます! どうぞ、ごゆっくりご覧ください!」


「おぅ、ありがとね」


 そう言っておじさんは夏のコーナーへ。


 ふぅ。


 あまり親しくない人、しかもお爺ちゃんやお婆ちゃんと同じぐらいの年代の方との会話。やっぱりちょっと緊張するなぁ。


 その後もちらほらと常連さんが来場。


 十時を過ぎたぐらいから、ちらほらと子供連れのご家族さんも来られるようになった。カワサキさんたちが配ったチラシを見て来てくれたんだろうか。


「ママ~。とりさん、いっぱーい」

「いっぱい居るねー」


 お母さんにだっこされた幼い女の子が嬉しそうに写真を見てくれている。


「あー! このとりさん、かぁいぃ! きれぇ!」

「ん? どれ?」

「これーっ」


 女の子が指さしたのは、なんと、わたしのウグイスさんだった。


「これ、ほしぃー」

「えー? ダメよ、これはもらえないわよ?」

「ほしぃー」

「んー、困ったわね……」


 ちらっ。


 こっち見られたっ。


 ふふっ。そんなこともあろうかと!


 手のひらサイズではあるけど、同じ写真を印刷してもらってある。


「えっと、よろしければ、こちらを……」

 と、お母さんにウグイスさん小さいバージョンを差し出してみる。


「え? いいんですか?」

「はい、プレゼント用に用意してあるので、かまいませんよ」

「ほら、ミウちゃん、お姉ちゃんがくれるって!」

「わーっ!」


 お母さんから娘さんに手渡されたウグイスさん。


「おねえちゃ、ありあとーっ」


 女の子は、満面の笑顔でわたしにお礼を言ってくれた。なんか感動……。


「本当に、ありがとうございます」


 お母さんからもお礼を頂く。

 

「いえいえ、どういたしまして。他にもいっぱい写真あるので、ごゆっくりご覧ください。ミウちゃん、鳥さん、いっぱい見てってね!」


「あぃ!」


 お母さんに連れられて、ミウちゃんは順番に写真を見ながら『わー』とか『こわーい』とか、ずいぶん楽しそうにしてくれて、こっちまで楽しくなっちゃうな。


 はふ。


 そんな感じで、写真展、開催中、です!





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近況へのリンク

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330661117694741








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