第36話:夏の遠征②~うなぎ・トンビ・ミサゴ?



 西日本でしか見られない野鳥『ケリ』を求めて。

 大型の四人乗りトラックに自転車三台を搭載して高速を爆走。


 爆走させるのはラン先輩のお祖母さんでカワサキさんの妹の涼子りょうこさん。


 あ、いや。爆走、とは違うかな。

 安全運転。制限速度順守。車間距離もゆったり。安心して乗っていられる。

 そういう意味では、『快走』と言うべきか。


 快走すること数時間。やってきました。浜名湖サービスエリア。


「広いねぇ……」

「って、言うか、遠い……」

 駐車場から店舗のある場所まで、結構歩く。


 時間はお昼を少し過ぎた頃。まあ、もう、炎天下。フェイスタオルが何本あっても足りないぐらい、すぐに汗だくだく。


 はぅぅ。


 そんな中、蘭先輩が。

「うっなぎっ、うっなぎっ、うっなぎぃ~」

 足取りも軽やかに、らんらんらん、とスキップ状態。


 どれだけうなぎ好きなのか? と。

 いや、まあ、わたしも、好きだけどね。


 そんな蘭先輩の後ろを歩くカワサキさんのそのまた後ろ、わたしは涼子さんと並んで歩いていた。


「やっぱり思った通り。身長、同じぐらいだねぇ永依夢エイムちゃん!」

「ですね~」

「ん、ん。かわええなぁ!」

 いや、涼子さん、暑いからくっつかないで下さい……


 そんなわたしはキャスケット帽、涼子さんがサンバイザーなのでわたしの方がちょっとだけ高く見えるかな。

 丁度、建物の入り口の自動ドアのガラスに映った自分たちの姿を見てそんな風に思った。


 その自動ドアが開くと。


「んー。涼しー」


 建物の中は冷房が効いていて、外の暑さからの落差が大きい。これ、長く居ると寒くなっちゃうパターンだよねぇ。回転をよくするには、ある意味正解?


「こっちみたいだな」

 先に入口入ってすぐにある館内マップを見ていたカワサキさんが先導してくれる。


 高速のサービスエリアって初めて来たけど、ショッピングモールのフードコートみたいな感じ、なのね。


 でも、カワサキさんが向かったのはフードコートではなく、その奥にあるレストランだった。

 いかにも高級そうな雰囲気で、隣のフードコートとは一味違う。

 味も、きっと一味も二味も違うんだろうな。


 四人掛けの席が空いてたので、そこに座ってメニューを見て思わず「高っ!」って叫びそうになったよ。

 お値段が一味どころか三味、四味以上違っている。

 いや、うなぎだから多少お値段は、とは思っていたけど。ここまでとわ!


 冷房のおかげで引っ込んだ汗の代わりに冷や汗が出て来る。


 交通費やら宿泊費やらはカワサキさんに出してもらえる事になってるけど、さすがに飲食費は、ってことで、お母さんに軍資金を貰っている、とは言え。


「みんな、決まったかい?」

 しばらくメニューとにらめっこしていると、涼子さん。


「はい、私は量的に、この『うな重・梅』で」

「ウチはこっちの『ひつまぶし』だな」

永依夢エイムちゃんは、どれにする?」

「えーと……」


 わたしはフードコートの方で……とか言えるタイミングは既に逸している……よね?


「今日はウチの奢りやさかい、遠慮せんと好きなん頼んでええで」

 涼子さんが豪快にそう言う……って、なんか口調がおかしくなってませんか???


「え、でも……」

 さすがに、それは、と思っていたら。


「ちっちゃい同盟、発足記念や。松でも梅でも何でもええで」

 ちっちゃい同盟って……涼子さん、ノリが良すぎ。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて『梅』で」

「遠慮せんでええねんで?」

「いえ、わたしも、蘭さんと同じで、その、量が……」

「んー、せやったらしゃあないな。よっしゃ、店員さーん!」


 涼子さんが店員さんを呼んで、てきぱき、とオーダー。


 料理が出来上がるまで車中同様、他愛ない世間話。


 そんな中、とっても気になる涼子さんの口調の変化について聞いてみた。


「ウチらもともと関西の出身やねん。関西産まれの関西育ちやけど、何の因果か、関東に嫁入りしてもーて、標準語? ゆーんに染まってもーたけどな」

 あはは、と笑う涼子さん。ちっちゃいけど、豪快。


「関西に近付いて、本性現して来たな」

 涼子さんが関西出身ならカワサキさんもだろうけど、カワサキさんの口調は変わってない。


「郷に入っては郷に従え。と言うか、長いものに巻かれたか。まあ、油断してると出る事もあるけどね」

 と、カワサキさん。


「蘭は影響受けてないの?」

「ええ、お祖母様も家では標準語、ですしね」


 とゆーか、蘭先輩。たまに出るドスの効いた声音こわねはどこから来たんですか……これはまだちょっと聞くのが怖い。


「お待たせしました」

 おしゃべりしていると、料理が運ばれて来た。


 蘭先輩、料理を見て前後左右にゆらゆら揺れている。

 どれだけ待ち遠しかったんですか、蘭先輩……


「ごゆっくりどうぞ」


「「「「いただきます!」」」」






「「「「ごちそうさま!」」」」


 いや、もう、ホント、美味しかった……


 蘭先輩が、見た事の無いようなトロけた顔をしてらっしゃる…… 


 涼子さんに食事代を出してもらったのでお礼すると「気にせんでええ、可愛い孫やさかい」と笑う涼子さん。

 うう、ホントにありがとうございます。


 冷房が効きすぎてて寒くなってきた事もあり、食事を終えるとすぐに外へ。


 表に出ると暑さが心地よかったりするけど、それも一瞬。すぐに、汗が噴き出してくる。


 表の自動販売機でそれぞれ飲み物を買って、湖の見える斜面に向かう。


 そして、カワサキさんが『カメラを持って』って言った意味がわかった。

 湖の上を数羽のタカさんっぽい鳥さんが飛んでいた。


「あれは……トビでしょうか?」

「そうだよ。よくわかったね」

「なんか、こういったサービスエリアとかでトビに食べ物を奪われるって話を聞いた事があったんで」

「いや、それもあるけど、ちゃんと『トビ』って」

「?」

「普通の人だと『トンビ』って言いがちでしょ」

「ああ」

 なるほど。トンビ、か。トンビ、ね。


「図鑑で予習しましたから」

「なるほど、えらいえらい」


 早速、そのトビさんを照準器で捕捉エイムして、シャッター。


 食べ物を奪われるって程まで近付いてはくれないけど、湖の上を悠々と飛ぶ姿を捉えることができた。


 初・トビさん、ゲットぉ。


「んーー、ミサゴが居るかって期待したけど、居ないなぁ」

 カワサキさんのお目当てはトビさんではなかったらしい。


「魚を獲るタカさんですね」

「そうそう」

 図鑑でもタカさん系の鳥さんは何度も読み返して頭に入っている。


 クマタカさん、サシバさん、ツミさん、ノスリさん、チュウヒさん……


 まだ見ていない、撮ってないタカさんもいっぱい。


 ミサゴさんも、もちろん、まだ。




 少しそこで休憩したけど、陽を遮るものが無くて、めちゃめちゃ暑い。


「ほな、ぼちぼち行こか~」

 涼子さんの一声で、再出発。



 さらに西へ向けて、走る!







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