第35話:夏の遠征①~出発!



 あれよあれよと。


 ほとんど、流されるままに『遠征』の準備が進み。

 七月の終わり、出発当日。


 機材ヨシ。着替えヨシ。日光対策ヨシ。自転車整備ヨシ。


 ってゆーか、自転車を積んで行くんだって。

 運転手の蘭先輩のお祖母さんと合計四人乗って、さらに自転車三台って、どんな車だろう……


 待ち合わせ時間に自宅前で待機。

 やって来た車を見て驚いたけど、ものすごく納得した。


「トラック!?」


 まさかの、四人乗りトラック!


 目の前に停まったそのトラックの助手席の窓からカワサキさんが顔を出す。


「おはよう、永依夢エイムちゃん」「ご準備、よろしい様ですわね」

 そう言いながらカワサキさんが助手席から、蘭先輩が後部座席から降りてくる。


「自転車と荷物、積み込むよ」

 カワサキさんがわたしの自転車を押してトラックの後部へ。わたしも荷物を持って続く。


 この車、前半分だけを見ると普通の乗用車。

 運転席と助手席の後ろにも座席があって、四人がゆったりと乗れるスペースがあるんだけど、異様なのはその後ろ側。

 後ろ半分を見ると、小型の『トラック』な荷台。しかも宅配便屋さんみたいにちゃんとした『箱』になってる。

 全体で見ると、普段はまず見かけない『異様』な感じ。

 乗用車とトラックのハイブリット?

 ちゃんとドアのところに『HYBRID』って書いてある。って、これは意味が違うか。


 カワサキさんが荷台の後ろのドア? を開けると、荷台にはすでに二台の自転車が鎮座していた(上手い事言った! ……はい、ごめんなさい。上手くもなんともなかったですね。声に出さなくてよかったです)


 カワサキさんは、荷台に自転車を乗せるためにまずスロープを取り付ける。そのスロープを使って自転車を荷台に押し上げると、ベルトで自転車を固定。


 てきぱき。


「OK、自転車の下に荷物置いて。あ、貴重品とか、小物、あとカメラは持っておいてね」

 言われた通りに、カメラだけ抜き出して、着替えやらの荷物を乗せると、カワサキさんがベルトで固定してくれた。

 貴重品とか必要な小物はすでにベルトポーチに。


「よし、じゃあ、乗って乗って」


 カワサキさんが助手席に、蘭先輩とわたしは後部座席に乗り込む。


「ほほぅ、これはこれは」

 座席に座ると運転席から後ろを覗きこんで来るサングラスの女性。

 蘭先輩のお祖母……さん? だよね? お母さん、じゃないよね? え? え?


「話には聞いてたけど、ちっこくて可愛いコだねぇ」

 座席越しにサングラスを上げると、どう見ても蘭先輩のお母さんとしか。


「きょ、今日は、あ、ありがとうございます。よ、よろしくお願い、ししします」

「あはは。緊張しなくていいよ、永依夢ちゃん。よろしくね。ウチ涼子りょうこ。この子の祖母で、コイツの妹」

 やっぱり『お祖母さん』なんだ……若い! それに、ちっちゃい。

 運転席に座ってるからはっきりとした身長はわからないけど、わたしと同じくらいかな。


「ちっこいところが他人な気がしないねぇ。新しい孫が出来たみたいで嬉しいよ」

「リョウ、言ってないで、さっさと行こうぜ」

 突っ込みカワサキさん。さすがに妹には遠慮が無い。


「あいよ。しっかりシートベルトしておくれよ」

 あわててシートベルト確認と言うか、念のため、付け直し。カチッ。


「そいじゃー、しゅっぱーつ!」

 涼子さんの掛け声と共、四人乗りトラックが走り出す。


 学校の近くの高速道路。チョウゲンボウさん一家が住んでいたあの道路。

 近くに乗り口があって、そこからすぐに高速道路に入れる。





「涼子さんって、蘭と同じ話し方じゃないんだね?」

 小声で隣の蘭先輩に、素朴な疑問。


「今は『ソト』ですからね。素で喋られてますわ。自宅ではこの話し方ですわね」

 なるほど。


「お祖母様の話し方が面白くて、真似をしていたら移ってしまいましたの」

 なるほど、なるほど。


「まあ、そのせいで中学の時に……」

 ん?


「永依夢ちゃん、ところで、好き嫌いとか、ある?」

 唐突に、カワサキさんが助手席からこっちの後部座席を覗きこんで話しかけてきた。


「あ、えと、納豆以外なら、特には」

「納豆ダメなんだ……ああ、いや、お昼に浜名湖でうなぎ食べようかと思ってるんだけど、うなぎ、いける?」


 うなぎ!?


「いけますいけます、いきます、うなぎ!」

 いかん、ちょっと前のめり過ぎた。


「あはは、それはなにより」


「うなぎ……うなぎ……嗚呼、うなぎ……」

 蘭先輩が隣で恍惚となっている。しばらくそっとしておこう。





 大きな渋滞も無く、ほぼ予定通りに都内を抜けて車は西へ向けて軽快に走る。


 びゅんびゅんと景色が流れる。



 途中、富士山が見えたので、ぱしゃり。



 そいえば、家族で高速使っておでかけってほとんど記憶が無いなぁ。

 両親の実家も一般道路で二~三十分程度の近くだし。


 ちっちゃい頃……今でもちっちゃいってのは置いといて……海水浴に連れて行ってもらった時くらいかな? 正直、海でおぼれかけて海水がほんとにしょっぱかったって思い出ぐらいしか残ってないけど。


 あの時は大変だったー、みたいな世間話に花が咲く。


 お祖母さん……涼子さんの事も色々。


 涼子さん、車や運転が大好きだそうで、自宅に車が何台もあるんだとか。

 この四人乗りトラックもその中の一台らしい。


 どんだけー? と思うけど、根掘り葉掘りは聞けない。ただ、漏れこぼれる会話の端々からそのことは読み取れる。




 そして、車は西へ向けて、順調に。


 お昼を過ぎて、しばらく。おナカの減り具合も頃合いのタイミングで、涼子さんが車をとある大きなサービスエリアに滑り込ませる。


「よーし、うなぎ、食うぞおお」


「「「ぉーっ!」」」








「あ、カメラは持ってね」





???







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