第三章:夏休み!

第34話:夏休みは遠征の始まり??



 夏休み!


 の、少し前。公園フィールドでカワサキさんが突然。


「ケリ撮り行くぞ、ケリ!」


 ケリ?


「こっちじゃ見られない鳥ね。西日本方面でしか見れんのよ。だから、夏休みに遠征、行くぞ、遠征」

 い、行ってらっしゃい、カワサキさん?


「もちろん、永依夢エイムもですわよ? 交通費と宿泊代はおじさまが出して下さいますし」


 えー、蘭先輩も行くの? それはいいけど、わたしも?


 ケリ、ケリ、ケリ……


 図鑑で調べてみる。


 ……カッコイイ系でもなく、カワイイ系でもなく。むしろ、イカツイ系?

 色も茶色い背中にネズミ色のおなか。はっきり言って、地味。わざわざ、コレを撮りに?

 交通費と宿泊代を出してもらえるんなら、ちょっとした旅行だと思えばそれはそれで、あり、ではあるか?

 でも、お父さんお母さんが許可してくれるかどうか。


「永依夢ちゃんのご両親、OKだって」


 なんて!?


Ageエイジで説明して、許可もらったよ」


 Ageのアドレス交換してたんかい! と素で突っ込んでしまいそうに。


 ちなみに、Ageとは。


 広く普及している、スマホやタブレットで使えるメッセージ交換アプリ。

 正式名称は『Lineリーネ-Ageエイジ2』

 長いんで略してAgeエイジと呼ばれる事が多い。

 (前半を使わないで後半を使っているのには、きっと大人的な事情があるに違いない)


 それはさておき。


「外堀、埋められた!?」

「がっつり埋めましたわ」

 いい笑顔……いや、悪い笑顔? の蘭先輩。


 カワサキさんから、蘭先輩と三人で作ってるAgeのグループチャットに詳細が送られてきた。めちゃ細かい……。


「日程も大丈夫だよね?」


 カワサキさん提示の日程は、七月の終わりから八月にかけての二泊三日。


 まあ、特に予定は無いですけどぉ。


「車と運転手はウチの妹を手配済みだからねー。自転車も積んでって、現地では自転車で移動するからね」


 ……このパワフルさはどこから来てるんだろう、カワサキさん。

 蘭先輩のお祖母さんのお兄さんで、結構なお歳のハズなのに。

 って、言うか、そんな、お祖母さんに運転頼んじゃって大丈夫なんですか??

 娘さんとか息子さんとか、つまりは蘭先輩のご両親あたりが運転とかなら分かるんですけど。


 この兄ありて、その妹あり?


 わたしの表情から疑問を読み取ったのか、カワサキさんが補足してくれた。


「大丈夫。ウチの妹、車運転するの好きだから。ヒマあったら日本一周とかよくやってたりするし」


 どんだけ!?


「その準備、と言うわけではないですが、この後、私の家に寄って下さいまし。渡したいものがありましてよ」

公園ココから蘭先輩んだと、寄るって言うよりは行くって感じだけど」

「細かいことは気にしなくて結構」


 するわっ!


 とか言いながらも、カワサキさんとは別れて蘭先輩と自転車並走。坂道を登る。

 この暑さでこの登り坂は、ある種の地獄。


「やっぱり、家に寄ってシャワー浴びてさっぱりしてからにしてよい?」

「構いません……けど、どうせまた我が家に移動するだけで汗まみれになると思いますわよ?」

「あー……とりあえず、着替えだけさせて?」

「はい、どうぞ」


 と言う訳で、一旦、我が家へ。


 公園で鳥撮りする時は『虫よけ対策』『日焼け対策』で長袖シャツにデニムロング。『熱さ対策』で首元にひんやりタオル。頭にはツバが広めのキャスケット。この帽子は撮影時にファインダーに入り込む光を遮る効果もあって欠かせない。

 もちろん、日焼け止めも、必須。ベルトに蚊取り線香をぶら下げるのも忘れずに。


 これを、ダボティーシャツに短めのキュロットとゆるめ涼しめの普段着に。キャスケットはそのまま流用。蚊取り線香は、キチンと火を消しておく。念のため、キッチンの流し台へ置いておく。


「おまたせー」

 リビングのクーラーの真下で涼んでいた蘭先輩の元へ。


「カメラと三脚も持って来て下さいな」

「へ?」

 何故なにゆえ


 なんだか解らないけど、言われた通り、カメラと三脚を持って、蘭先輩のお家へ。


 蘭先輩の家では、今度は逆にわたしがリビングのクーラーの下で涼んでいる間に蘭先輩がお着換え。


 着替え終わった蘭先輩に呼ばれて彼女の部屋へ。


「早速ですが、これを」

「何、コレ……」


 手渡されたのは……いや、ホント、何、コレ?


 ぱっと見、『拳銃の握る部分だけ』みたいな、あるいは『短い拳銃』みたいな?

 握る部分の前の方が動くようになっていて、まるっきり拳銃の引き金みたいになっている。銃の引き金と違って、指一本で操作するのではなく、四本の指全体で握り込む感じ。


 にぎにぎ。握力を鍛えるスプリング? みたいな動きにも似てる。そこそこ硬いし、マジで握力が鍛えられそう。


 よく見ると、てっぺん部分にカメラを取り付けるためのネジがある。


「三脚の雲台を外して、その雲台に付け替えてごらんなさい」


 雲台うんだい?! コレ、雲台なんだ……


 めちゃくちゃ固かったけど、蘭先輩が専用の工具を出してくれたので、それでどうにか元から付いていた雲台を外して、代わりに蘭から渡された雲台を取り付け。


「グリップ部分を握ると雲台がフリーになって自由自在に動きますが、グリップから手を離すと固定されますわ」


 雲台の上に、さらにカメラも取り付けてみる。


 にぎ。(グリップを握る) ずるっ、ずるっ。

 ぱっ。(グリップを離す) ピタっ!


 ぉぉぉぉ。


 握ったまま、動かすと、確かに自由自在に動く。


 そして、手を離したところで、ピタっと止まる。


 これは便利そう!


「ずいぶんと前におじさまから頂いて、私もしばらく使ってましたが、今はもう使っていないので。永依夢に使って頂けたらと思いまして」


「いいの?」


「そのみすぼらしい輪ゴムの雲台……時々ゴムが外れて右往左往しているのを見かけて、どうにかできないかと思ってましたの。すっかり忘れてましたが、このグリップ雲台があったのを最近になって思い出したんですわ」


 有り難いけど、いいのかな。


 確かに、輪ゴム雲台の輪ゴム。ゆるっと引っ掛けてるだけなので、素早く動かしたりすると、たまに輪ゴムが外れて飛んで行ったりしてたんだよね。


「じゃあ、有り難く使わせてもらうね」

「ええ、これで遠征先でも楽に撮影ができるようになりましてよ」


 あああ……もう、完全に、外堀を埋められて、固められて、四方八方塞がれて逃げ道無しじゃん?


 あぅ。


 いや、なんと言いますか。


 カワサキさんのように、『ケリが撮りたい!』と強く思ってる訳ではなく。

 聞けば、西日本でしか見られず、こっちじゃまず見る事ができないって事で、珍しさはあるんだろうけど。


 旅行とかほとんどしたことなくて、ちょっと面倒? とか、不安な要素もあって、自分的には『行きたい!』って程でも無いところが申し訳ない感もあったり。

 でも、ここまでお膳立てしてもらって断るのも心苦しいし……


 折角だから、何か目標立てて前向きに挑もう!


 とりあえず、ケリは撮る。他にも、こっちでまだ見た事ない鳥さんに出会えるかもしれないし。



 そう思いつつ、カワサキさんから送られた遠征の詳細メモを見ながら、蘭先輩と現地の予習。ある種の『旅のしおり』作成? みたいな。

 これは、これで楽しいひと時、かも?






 夏休み早々、思いもよらず、いきなりビックイベント、突入しちゃうの?!







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近況へのリンク

グリップ雲台とマルチオープナ

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330658592121837








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