第28話:ウグイスさんの瞳の中に



 四月!


 新学期!


 二年生!


 校舎が四階から三階に!


 こればっかり。

 いや、だって、でも、一階の差は大きいのよ。

 まあ、身体のため、運動だと思えば四階の方がいいのかもしんないんだけど……ねえ。


 で。


 な、なんと!

 クラス替えで、蘭先輩と同じクラスに!!


 ヤッタね!


 ちなみに、石田君とは違うクラスで離れちゃった……


 あうー……




 そんな四月の公園は、と言うと。

 新緑が芽吹き始め、鳥さん達の様相も変化があったりなかったり。


 変わらないこと。

 ……オオタカさんは成鳥、幼鳥、入れ替わり立ち代わり来てるし、ハイタカさんも時々やってくる。


 変わったこと。

 ……いっぱい居たツグミさんが少なくなってきた。

 ……シメさんもしかり。

 ……ヒヨドリさんの大群が北へ向かって飛んで行くのをよく見かける。

 ……そして鳴く練習をしていたウグイスさんが、きちんと鳴けるようになったっぽくて、あちこちから『ホー、ホケキョ』が聞こえてくる。


 今日は、そのウグイスさんのお話など。



―――――――――――


 よく晴れた四月の日曜。


 いつものオオタカしま拠点ベースでオオタカさん待ちをしていたら近くで『ホー、ホケキョ』

 補聴器のおかげもあって、よーく聞こえる。


 ちょっと探してみようか?


 そう思って、鳴き声のする場所を探してみるけど、なかなか見つからない。

 ちょこまかと動き回っているみたいで、声が移動している。


 園路を挟んで両側に木が並んでいて、園路を横切ってあっちに行ったり、こっちに行ったり。時々、園路上を飛ぶ姿も見えるけど、速すぎて撮れない。


 補聴器のおかげで鳴き声の方角は『なんとなく』わかる様になったけど、細かく特定するのは難しい。

 一瞬、木々の間に姿が見える事もあるけど、撮れるタイミングがなかなか無い。


 これまでもウグイスさんは樹々の間の暗い場所で顔だけとかお尻だけとかばかりで、明るい場所で全身を撮れた事が無い。


 今日はなんだか意地になって、粘って数十分、追いかけっこ鬼ごっこ。


 場所そのものはそんなに大きく移動はしていなくて、樹々の間をくるくると周っている感じ。離れて行かないのもあって、気になってしょうがない。


 ウグイスさんを追いかけてぐるぐる周って目が回りそう。


 もう諦めようかな?


 そう思った瞬間。


 しゅぱっと木陰から飛び出したウグイスさんが、池のほとりの樹に停まった。


「え?」


 手前に他の枝とか、障害物が全くない……。

 明るい場所でウグイスさんがはっきりと見えている。しかもかなり近い!


 すかさず照準器で捕捉エイムしてすぐにファインダーで確認しつつ、夢中でシャッター!

 シャッター!

 シャッター!


「あ!」


 ほんの僅かな間。

 ウグイスさんは、すぐにまた飛び去って行った。


 ぜーぜー。


 撮れた?


 恐る恐る、プレビュー表示。


「おおおおおおおおお!!」


 すみません、ごめんなさい、恥ずかしいけど、そんな事言ってらんない!


「こ、こ、こ、これはああああ!!」


 ウグイスさん、どアップ。


 肉眼で見た時も思ったけど、他の樹の枝とか、何も遮るものがなく、ウグイスさんがばっちり写っている。連射したけど、ほとんどちゃんと写ってる。ピントもばっちり。露出もばっちり。


「蘭! 蘭! 蘭!」

 蘭先輩に、報告、報告、報告。


「……なんですの、騒がしいですわね」


「見て! 見て! 見て!」


 蘭先輩にカメラを渡して、ルーペでプレビューをチェックしてもらう。


「これは……なかなかのモノですわね……え?」

 蘭先輩、しばし無言でルーペを覗きこんだ後、おもむろにわたしの方を向いて言った。


永依夢エイム、これ、もっと拡大できまして?」

「うん、多分できると思う」

 カメラを受け取って、画像を拡大する。


「眼の部分を拡大して下さいまし」

 はーい。

 ぐりぐり、ずりずり。カメラのボタンを操作してウグイスさんの眼のドアップを表示。


 あれ?


 ウグイスさんの眼に、何か写ってる?


「これでよい?」

 カメラを渡すと蘭先輩はまたルーペで画面に見入る。しばらく見た後、顔を上げて言った。


「……永依夢、これ、貴女あなたの姿が写ってましてよ。よくご覧なさいな」

 カメラと一緒にルーペも渡されたので、同じようにルーペで画面を見てみる。


 ウグイスさんのまん丸な瞳。

 上半分が青で下半分はほぼ黒なんだけど、ちょうど真ん中あたりに黒い丸みたいな影が写ってる。


 ん?

 上の方の青は、これは空の色?

 下の方の黒い影は、樹?

 振り返ってみると、確かに後ろの風景に似ている。


 つまり、この真ん中の黒い丸っぽい影が……わたし??


 言われてみれば、輪郭がわたしの様にも見えなくもない、かな?


 顔とかがはっきり写ってる訳じゃないけど、そうか、ウグイスさんを撮影しているわたしの姿がウグイスさんの瞳に写り込んだ、ってことか……。


「こんなこともあるんだねえ」

「正直、こんなの初めて見ましたわ……」

 なんか、すご……。


「その写真、私に送って下さいます? 大きくプリントして差し上げますわ」

「え?  いいの?」

「夏に野鳥写真の展示会がありますのよ。この写真はそこに出すべきですわね」

「野鳥写真の展示会?」

「ええ、毎年夏に公園の施設を使って常連さん達がボランティアで運営してますの。私達も参加してましてよ」

「ほぇー」

 そんな事までやってるんだ。


「詳しい事は時期が来たら説明しますわ」

「了解っ!」


 しかし、粘り勝ちとも言えるけど、諦めかけてた事を思うと、あんな目立つ場所に出て来てくれたのは、超ラッキーだったかな……。





 さて、そんな感動もありつつ。


 もうすぐゴールデンウィーク。


 話によると、春の渡り鳥さんがいろいろ見られる、らしい。


 がんばって、もっと、いい写真、いっぱい、撮るぞー!





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近況へのリンク

どあっぷウグイスさんと瞳の中。

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330657442862690







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