第7話:輪ゴム+割りばし=???



「おとーさん、おとーさん、おとーさん」

「なんだ、なんだ、どうした」

 帰宅早々、お父さん、 だ捕。


「あのね、あのね」

 照準器のことを説明して、持ってないか聞いてみる。


「ああ、LEDサイトのことか。すまん、俺は持ってない」

 モデルガンだと『照準器』じゃなくて『LEDサイト』って呼ぶらしい。お父さんだけかもしれないケド。


「母さん持ってないかな?」

「はい? 呼びました?」

 お母さんも何事かと来てくれる。


「LEDサイト、持ってない? スナイパーやってたからサイト関係いろいろ持ってなかったっけ?」

「持ってたけど、銃関係は全部弟にあげちゃったわよ」

「ぇー……」

 って言うか、お母さんもモデルガンやってたのね……


 後で聞いた話。

 お父さんとお母さん、学生時代にサバイバルゲームをやってて、ライバルチーム同士で死闘を繰り広げてたんだとか。それが、何で、どうして、結婚する事になったのか。詳しいことは恥ずかしがって教えてくれなかった。今度、ぜひ聞きだしてやろう。


 それはさておき。


「んー。買うと結構高いみたいなのよね……」

「照準を合わせられればいいんだろ?」

「まあ、そうなんだけど」

「専用のサイト使わなくても、ハンドガンなら標準のサイトでも十分なんだけどな」

「どゆこと?」

「ちょっと待ってろ。百聞は一見にしかず」

 リビングを出たお父さん、でもすぐに戻ってきた。銃を片手に……。


「ほれ」

 って、渡されても……何気にずっしり重い……本物じゃないよね?


「これをどうしろと……」

「右手でグリップ握って、そう、左手を右手の前に添えて」

「こうかな」

 言われた通りに銃を握ってみる。


「左足を前に、右足を後ろに下げて、そうそう」

 いちいち細かいな……


「銃を顔の高さまで上げて。両脇を締めて、背筋はまっすぐ」

 さらに細かい。


「いいか、銃の上の方、手前が『凹』の字みたいになってるだろ?」

「うん」

「で、銃の先端の真ん中、ちょこっと飛び出た突起があるよね?」

「うん」

「その『凹』の字の真ん中に先端の突起を合わせて、あそこのペットボトル狙ってみ」


 いつの間に。

 空のペットボトルが、リビングからつながるキッチンの流し台に置かれていた。


 凹~凸~ペットボトル、まっすぐに並べる。


「並んだら、引き金を引いて」


 ぱしゅっ。


 軽い反動と、軽い音がして、ペットボトルが倒れた。


「うわ」

「うまいうまい。わかっただろ?」

「何が?」

「いやいやいや」


 つまり。


 手前の凹と先端の凸をまっすぐ並べることで狙ったモノをまっすぐに捉える。


 銃の場合、この凹と凸が弾丸の飛ぶ方向に合わせることができる。


 弾丸の飛ぶ方向をカメラの向きに置き換えれば……


「じゃあ、この凹と凸の形と同じものをカメラに取り付ければ……」

「うん、そうそう。理屈的には同じ効果が得られるはず。LEDサイトも光を使って同じことをやってるだけだから」


 なるほど、納得、なるるん。


「でも、どうやって……」


 倒れたペットボトルのあるキッチンを眺めながら考えてみる。


 細長くて、軽くて、多少丈夫で、加工がしやすいモノ。


「割りばし?」


 キッチンにある引き出しから割りばしを二本拝借。

 一本の先端を切り取って、割ってないもう一本に接着剤で貼り付けて『凹』の形に。

 細い方の先端につまようじを挟んでこれまた接着剤で固定して『凸』の形に。


「できた……」


 超簡単。


 問題は、カメラへの取り付けなんだけど、これに関しては、お父さんがカメラのパーツとして持っていたアタッチメントを加工してくれて、割りばしを取り付け。アタッチメント自体をカメラに着脱できるようにしてくれた。


 アタッチメントと割りばし自体は輪ゴムで巻き付けているので、多少左右に動かせる。上下のバランスはアタッチメントと割りばしの間に挟んだつまようじを前後に動かして微調整できるようにしてくれた。


「できた……」


 カメラで標的を真ん中に入れて『割りばし照準器』を微調整。狙った通りに写る事を確認。


 お父さんすごい。さすが父! ちょっと尊敬。


 尊敬ついでに、もうひとつの問題も相談してみる。


 三脚の雲台を『固定せずに固定する』方法。


 お父さんとあれこれ話した結果、これについてもやっぱり、キッチンにあった『輪ゴム』で解決した。


 太くて大きな輪ゴムを三脚と雲台の前後左右それぞれにひっかけて、四方にそれぞれ引っ張る力を加える。これで雲台をネジ止めしなくても、水平を保つことができるようになった。


 もちろん、本格的なビデオ雲台のような頑丈なスプリングじゃないので、少し傾くとカクン、と倒れてしまうけど、水平状態を保つことはできるので、鳥さんを待っている時は水平位置で待機。撮影の時はほぼフリーで動かせる。必要な時だけネジ止めすればいいのでだいぶやりやすくなるだろう。


 ふふり。


「よぉし。これで明日は……」


「いやいや、元旦から撮りに行くのか?」


「あ……」


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近況ノート:輪ゴム雲台(初期型)

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330653377160133






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