第44幕 ゆびきりげんまん 1
久しぶりの帰省を明日に控えた夜のこと…。
アリシアのお部屋。
「着替え準備OK、トイレタリー準備OK、お小遣い準備OKっと」
3日分の荷物をキャリーケースに詰め込んでいる。
桜の花びらも散り、歓迎会やお茶会のムードも下がって一段落が付いた5月20日。
明日から3日間お店を休業日にして、
ウィル、シエル、マイル、キース、リオンはサンクパレスに帰省。
私はイシュメルに帰省することになったの。
マリーとスージーはお屋敷でお留守番なんだって。
「とう!」
準備が一段落し、ベッドに寝転がる。
お風呂上がりの濡れ気味の頭には大きなリボンのターバンを巻いている。
ベッドに備え付けてある棚には目覚まし時計、家族と撮った写真、小さい宝箱が並んでいる。
アリシアはベッドに寝そべったまま宝箱を手に取った。
宝箱の中にはバレンタインデーにウィルに貰った"ピンキーリング"のジュエリーケースが入っている。
ウィルは左手の小指にピンキーリングを付けてくれてるから、今は私の分のリングだけ。
私も本当は付けたいんだけど…、サイズが合わなくてスルスル抜けてきちゃうから常に身に付けていられなくて、
大事にしまってあるの。
ジュエリーケースからリングを取り出し、うっとりした顔で眺める。
ピンキーリングを貰ったあの日から、夜な夜なこうしてリングを眺めてはにやにやが止まらなくなっちゃって……えへへ…。
何が嬉しいって、ピンキーリングは小指用のリングなんだけど、今の私の薬指にはピッタリなの!
薬指ってことはつまりぃ…えへ……へへ……。
明日から3日間だけ、薬指に付けてお出かけしちゃおうかなぁ、なんて考えてたらワクワクして眠れなくなっちゃった。
でも明日の出発も早いからそろそろ寝ないとね。
アリシアはジュエリーケースにリングを戻し、宝箱にしまって、お部屋の照明を消した。
……おやすみなさい。
そして次の日の朝。
「行ってらっしゃい。気を付けてね、アリシア」
「お父様とお母様にお会いしましたら、宜しくお伝えくださいね」
屋敷の玄関でアリシアの出発をウィルソンとマリーが見送る。
「うん!ウィルも皆と気を付けて行ってらっしゃい!」
「ありがとう」
ドアノブに手を掛けようとしたアリシア。
「ぁ…」
ウィルソンの方を再び振り返る。
「ウィル。いってきますのぎゅ~」
アリシアはウィルソンの顔をみつめ両手を広げる。
「ぁ、うん…」
ウィルソンは少し戸惑いながらその場にしゃがみ、両腕を大きく広げる。
アリシアの表情はぱぁと明るくなり、吸い付くようにウィルソンの胸に飛び込む。
「いってきます」
ウィルソンもそれに応え、アリシアの小さな身体を優しく抱きしめる。
「いってらっしゃい」
耳元で囁くウィルの優しい声は、私に安心感を与えてくれる。
アリシアは名残惜しそうにウィルソンから離れ、小さく手を振って玄関を出て行った。
ウィルソンがすっと立ち上がる。
「ふふっ、ごちそうさまです。坊っちゃま」
「え!?ぁ…ごめん…」
マリーに言われ、一気に顔が赤くなるウィルソン。
「謝らなくても大丈夫ですよ。微笑ましい限りですから。アリシアさん指輪までつけちゃって」
「え?…小指に?」
「右手の薬指に…」
マリーがにこっと笑う。
え?ピンキーリングなのに??小指のサイズに合わないって言ってたよ??薬指に付けちゃったの??今日から帰省するのに???
それは…嬉しい反面ちょっと怖い…かも…。
_____________
お屋敷の正門前には8人乗りのワンボックスカーが停めてあった。
ウィルたちはこの車でサンクパレスに帰るみたい。
「ぁ、アリシアちゃん。今から出発?」
シエルお姉ちゃんが声を掛けてくれた。
「うん!8時25分のバスで帰るの」
「バス停まで乗っけてこうか?」
キースさんが運転席から顔を出す。
「ううん、歩いて行ってみたいから。まだ今度乗せてくださいね」
「そっか、わかった」
キースさん運転免許取ったんだって!すごいね!
「「行ってらっしゃい」」
「行ってきます!」
元気に手を振って坂道を下りていく。
良い天気!お出かけ日和だね!
「お~いリオン~早くしないと置いてくぞ~」
「ちょっと待って~あと3分ね、3分」
出発の時間は特に決めている訳ではないサンクパレス組だが、マイルはリオンの部屋のドアの前で焦らせる。
何故なら放っておくと準備に2時間も3時間も掛けるから。
せめて12時前にはサンクパレスに到着したいとは前日から決めている。
「ちょっと良いマイル?」
「姉さん?」
シエルが階段を上がりマイルの元にやって来きた。
「あー!スージーの下着めっちゃエロいねー!(棒読み)」
ガチャ!とドアが開く。
「なにぃ!どんな下着!?見たい!」
カッ!と目を見開いてキョロキョロとスージーの姿を探すリオン。
「居ないわよ。早くして、本当に置いてっちゃうわよ!もう十分化粧もバッチリじゃない」
「ぁ、はーぃ」
うちの女子はオッサン成分が濃い人が集まっているようだ…、姉さんといいリオンといい…。
準備した荷物を持ち、シエルマイルと一緒に階段を下りるリオン。
「お姉さん2階で私のこと呼びました?」
ウィルソンとスージーが玄関で待っていた。
「え?スージーの下着エロいねーって言ったの」
「えぇ!?いつ見たんですかぁ!!」
スージーはスカートの裾を押さえ顔を真っ赤にして慌てる。
…いや…エロい下着のことは否定しないのか…。
「スージーちゃん」
「はい?」
リオンがスージーの肩にポンと手を置く。
「あ•と•で…ね!☆」
「ぴゃ!…」
ボフン!とスージーの頭から蒸気が立つ。
「「行ってきまーす」」
「それじゃぁ、スージーさん。マリーと一緒に留守番お願いね」
シエル、マイル、リオンは玄関の扉を開け外に出る。
ウィルソンも平然とした様子でスージーに頼みごとをする。
「はいぃ……いってらっしゃいぃ……」
扉が締まり、玄関に一人取り残されたスージー。
…え…誤解したかなぁ……
…シ、シェフに変なこと聞かれちゃったぁぁあ…
…調理の仕事から外されたりしないよね……。
「運転気を付けてくださいキースさん。長距離の運転は慣れていないでしょうから、無理はならさらずにですよ?」
「ありがとうございます。マリーさん」
ウィルソンたちが車に乗り込んで来るまでの間、マリーはキースと話していた。
「キースさんにはこのお車、お似合いですよ」
「そ、そうっすかぁ…」
キースは照れ臭そうに頭をポリポリかく。
「お待たせキース。出発しよ~」
「運転宜しくねキース」
「おぅ!乗れ!」
濃い紫色でメタリック仕様の8人乗りのワンボックスカー。
買い出しや少し遠出をするために、わざわざサーカス団の馬車で移動しなくても良いように、キースは運転免許を取得し、中古ではあるが車を購入した。
正直この車にするかは迷ったけど…、決めて良かったかもな…。
「行ってらっしゃいませ」
マリーがペコっとお辞儀をして笑顔で見送る。
サンクパレス組が乗り込んだワンボックスカーは北門ゲートを目指し、坂道を下りていく。
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