第43幕 出会いと縁~えにし~ 5
「お母さんどうしたの?急に走り出し―あっ!
お母さんが3人居る!」
スージーが玄関に姿を現し、同じ顔が3つ並んで涙を流している事に驚き目を丸くする。
「ぁ、スージー…ごめんなさい、紹介するわね。この子は"スージー"今年で15歳になるあなた達の妹よ」
イザベラがシエルとマイルにスージーについて説明する。
「妹…なのか…」
「でも…、お父さんは違う人なんじゃ…」
シエルもマイルも少し疑いの目を向ける。
「いいえ…、この子は正真正銘、サンズさんとの子供よ」
イザベラは優しい表情で訂正する。
「今日一緒に来た男性とは10年前に結婚したの」
「じゃぁ…お父さんは…」
「…あなた達2人を手放したあとから…、私も詳しくは覚えていないの。病院で目を覚ましたら…サンズさんはすでに亡くなっていたから…」
「「そぅ…だったんだ…」」
シエルとマイルが同時に落胆した声を漏らす。
「だからなんとしてでもスージーだけは育てなくちゃいけなかった…。サンズさんの想いが込められているからね」
お母さんの微笑みの中に微かに寂しさを感じる。
これ以上、昔の話をするのはよそう…。
「お母さんからお話は聞いてます!双子のお姉さん!お兄さん!よろしくお願いします!」
スージーが3人の近くに駆け寄り元気に挨拶をする。
「「ぁ…うん…よろしく…」」
急に妹だなんて言われても実感が沸かないけど…。
すると新しい旦那さんがリビングルームから玄関に姿を現す。
「はじめまして、私の名前は"ケビン"と申します。よろしく。スージーはこのお店で働くことになったので、これから仲良くしてくれると嬉しい」
落ち着いた声でケビンが挨拶をする。
「えっ!そうなんだ」
シエルがスージーの顔を見る。
「はいっ!調理担当で働きます!」
「会ったばかりの妹と一緒に仕事するなんて…ますます実感が沸かないなぁ…。まぁ、よろしくな、スージー」
マイルが戸惑いながらもスージーの肩にポンと手を置いた。
「はい!」
「お客様どうかなさいましたか?!皆さまお席をお立ちになって!」
マリーが1番席に誰も座っていないことに気付き、玄関にやって来た。
「えへへ~、今ね、感動の再会シーンだよ!」
アリシアが庭席のバッシングを済ませ、すれ違いざまにマリーに笑顔で話し掛け、キッチンに入って行った。
「そ、そうでしたかぁ…。私はてっきり、接客に不満があったのかと…」
マリーは心を落ち着かせ胸を撫で下ろす。
「マリーさんの接客に文句ある人なんて、今まで見たこと無いよ」
と優しい口調でマイルが言う。
「今日来店したお客様は私たちの家族だったの、驚かせてごめんねマリーさん」
シエルは涙で濡れた頬を手で拭い、笑顔でマリーに言い聞かせた。
「では場所を移して大テーブルで家族の時間を過ごしてはいかがですか?」
とマリーは気を利かせて提案する。
「ぁ、いや…俺たちはまだ客寄せがあるから…」
名残惜しそうだが仕事が優先だと、マイルはマリーの提案を断った。
「それが終わってから…時間があれば話そう?」
シエルがイザベラに予定を聞く。
「えぇ、私たちもそれまでゆっくりさせてもらうわ。私もこのお店の食事は楽しみだったから。
頑張ってね!シエル、マイル」
「うん!」「おう!」
…懐かしく感じる…昔みたいな…こんな会話…。
マリーの案内でイザベラ、スージー、ケビンは再びリビングルームの1番席に移動する。
シエルとマイルは庭園に出てマントマイムの準備をする。
ラストオーダーの時間は過ぎ、他のお客様も退店して営業が終了した13時55分。
リビングルームから10名ほどがテーブルを囲める客室に場所を移した。
リオンとキースも合流し席に着いている。
マリーはテーブルの脇で人数分の紅茶を淹れている。
「こうして見るとぉ、本当にお母さんそっくりだね。お姉さんお兄さん」
「私も先程2人の顔を見た時は…内心驚いたな」
スージーとケビンがテーブル席に3人並んで座る顔を見て感心する。
「ま、まぁ…な」「そ、そうかなぁ」
シエルとマイルが照れる。
「遅くなってすみません。お待たせしました」
片付けを済ませたウィルソンが客室に顔を出し、テーブル席の前に立った。
アリシアもウィルソンの後に続いて客室に入ってきた。
「このお店のシェフをしています。ウィルソンです。よろしくお願いします」
「よろしく」
ウィルソンの挨拶に応えケビンが軽い会釈をする。
「お会い出来て嬉しいです。シエルとマイルのお母さんとお父さんだなんて…」
「ありがとうウィルソンさん」
イザベラがはにかみ笑みを浮かべる。
…今はとりあえずお父さんのことはいいや、
ウィルには後で詳しく話しておこう…
とマイルは心中で思った。
「スージーさんをこれからこのお店の調理担当と客寄せ担当と兼任ということで、採用したいと思います。どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!スージー15歳です!」
「客寄せと兼任?」
キースがウィルソンに聞く。
「スージーさんはピアノが弾けるそうなので、リオンと一緒に楽器奏者として客寄せしてもらいます。ちょうどリビングルームに使っていないグランドピアノがあったので、それで演奏してもらえればと思います」
「そうなんだぁ、これからはパートナーだね!リオンだよ。よろしく~」
リオンはにこっと笑ってスージーに手を振る。
「はい!今朝のお姉さんの"G線上のアリア"の演奏素敵でした!よろしくお願いします」
「ぁ、ありがとう…褒められると照れるなぁ…」
リオンは顔を赤くして、てへっと舌を出す。
「では皆さん。これからスージーをよろしくお願いします。それと…シエルとマイルのことも」
イザベラが椅子から立ち上がり頭を下げた。
「「任せてください!」」
リオン、キース、アリシアが笑顔で応える。
「お…俺たちもか…」
「こんなに長く一緒に居て改めて言われると…」
これから先、どんな出会いがあるか分からないけど、このお店を通じて家族と再会出来たことは双子姉弟にとっても嬉しい出来事であるのは間違いないから。
このリザベートのこのお屋敷で"パイユ•ド•ピエロ"をオープンさせて本当に良かったと思う。
みんなと一緒に力を合わせて、どんな壁も乗り越えて行こう。
第2部 出会いと縁~えにし~ 終 第3部へ 続
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