第39幕 出会いと縁~えにし~ 1

ウィルソンの誕生日から1か月が経つ。

街に降った雪も溶け、

街の木々の蕾が開き始める。


3月21日。時刻は10時15分。

お店のopen時間にはまだ少し早い。


屋敷の庭園のテーブル席に座る1人の少女。

噴水の隣の木製のベンチに座るリオンのバイオリン演奏に耳を傾けている。

「G線上のアリア」の演奏につられ、

老夫婦が正門をくぐり入ってくる。


屋敷の玄関先にopenの看板を準備するマリーの姿があった。

テーブル席に座っていた少女はopen準備をするマリーに近づく。

「あ、あの~、すいません…」

「はい。いらっしゃいませ」

声を掛けられマリーが振り向くと、

目の前には赤紫の髪と緑色の瞳に

丸眼鏡を掛けたツインテールの少女が立っていた。

「お一人様ですね、ご案内します」

「あ、あの…食事じゃなくて…お仕事をしたくて…来ました…」

「お仕事…ですか…。上の者と話して参りますので、リビングでお待ちください」


橙色のエプロンを着た女性は優しい声で出迎えてくれた。

玄関の扉を開け、わたしをリビングルームの

窓際の席に案内してくれた。

窓からは先ほどまで居た庭園が見え、バイオリンの演奏をする女性が見える。


先ほど案内してくれた女性がティーカップとティーポットの乗ったトレーを持ってリビングルームに入ってきた。

「もう少々お待ちくださいね。ただ今シェフが参りますので」

「はい…」

女性は優しく微笑んでティーカップに紅茶を注いでくれた。

オレンジのような柑橘系の香りがする。

「失礼します」

女性は静かにお辞儀をし、リビングルームを出て行った。


5分ほど待っていると。

オレンジ色の髪の細身の男性がリビングルームにやって来た。

「お待たせしました。よろしくお願いしますね」

「あっ、はい!よろしくお願いします!」

穏やかな声で優しく微笑んでくれた男性は、

私の座るテーブル席に対面する形で椅子に座った。

「僕はこの"パイユ•ド•ピエロ"のシェフを

しています、ウィルソン•ウィンターズです。

よろしく」

「わたしの名前は"スージー•クラーク"15歳です!よろしくお願いします!」

コクりとお辞儀をしたスージーは鼻の頭までずり落ちた丸眼鏡を元の位置に戻す。


「このお店の業務なんだけど。

接客•調理•客寄せ•ケアマネージャーがあるんだけど…。君はどの職種が希望かな?」


「わたしは小さい時からお菓子作りが好きなので調理の職種に希望したいです!

あとわたしはピアノが弾けます!」


「調理が希望なんだね。今調理の方人手が足りなくて接客兼調理みたいになっているんだよ…。

調理が出来るならお願いしたいかな」

…シエルや母さんにも接客させることもあるから申し訳ないなぁとは思っていたんだよね…。


「ピアノが弾けるっていうことは客寄せにも興味があるのかな?」

「はい。お庭でバイオリンを弾いている方と一緒に演奏出来たらなぁと

ここ数日ずっと眺めていました!」

「そうなんだね、それを聞いたらリオンも喜ぶと思うよ」


「……採用……でしょうか…」


「うん。うちのお店で良ければね」

「あ、ありがとうございます!これから

頑張りますのでよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくね。スージーさん」

こういう風にこのお店に仕事を求めて来てくれる人も増えてくるんだろうか…、だとしたらとてもすごいことなんだろうなぁ…。

…僕ももっと頑張らないとね。


「それで…あの、お母さんに採用が決まったことを電話しても良いでしょうか…」

「え?あ、はい、どうぞ…」

スージーは肩に掛けていたトートバッグからスマートフォンを取り出し電話を掛ける。


「…あ、もしもしお母さん?……うん…

お店の採用…決まったよ……うん……ありがとう……え?…お店の予約?……うん、待ってね」

スージーはスマートフォンから顔を離し、ウィルソンの方を見る。

「あの、今日の13時から…2名で予約出来ますか?」

「うん、大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

再びスマートフォンに顔を近づけ母親と話す。

「…大丈夫だって……うん、…じゃぁ…また後でね。……は~い…」

通話を切った。

「13時にお母さんとお父さんが食事に来るみたいなので、よろしくお願いします」

「はい、かしこまりました」

ウィルソンは優しく微笑んだ。

「これからお客様も増えてくる時間だから、良かったら仕事の流れとか見てみてね」

「はい!」


ウィルソンはキッチンに戻り、マリーとアリシアにスージーという少女を調理担当として採用したことを話す。

「今日の営業が終わったら、今面接した子を皆に紹介する時間を作るから、後でよろしくね」

「は~いシェフ~」

「かしこまりました坊っちゃま。これから楽しくなりそうですね」

「そうだね」


カランカラーン… 

玄関の扉が開く音が聞こえアリシアとマリーは廊下に出る。

「「いらっしゃいませ~」」


______________


「2卓様ポットクリームパイあがったよ!」

「ありがとうございます」

「6卓様オーダーです!

トマトグラタンパイスリー(3食)入りましたっ!」

「はい!」

3月の後半でもあるこの時期はまだ肌寒さが残る。

店内では"クラムチャウダーのパイ包み"などの身体を温めるスープ系のパイが人気を博している。


「はぁ~、おいしい…」

スージーは窓際の1卓席でアップルパイを注文し

舌鼓を打つ。


12時40分。

お店の営業も半ば、

庭園ではシエルとマイルが3番、4番席で食事をするお客様に向けパントマイムを披露し、お客様に笑いを誘う。

屋敷の正門をくぐり庭園に入ってくる1組の男女。

男性はグレーのジャケットを羽織りハンチング帽を被る。

女性はブラウンのトレンチコートを着た

赤茶色長髪で緑色の瞳。

「っ!?ねぇマイル!今入ってきた2人…」

屋敷の玄関まで続く石畳を歩く男女を見るなり

シエルが反応し、マイルに伝える。

「なっ!?まさか……っ!」

赤い髪の女性と目が合ったマイルは顔を反らす。

「あいつ……なんでここに…」

「それに隣を歩いてる男の人は…」

見覚えのある赤い髪の女性は、双子姉弟がかつて一緒に住んでいた母親だった…。


16年も前とはいえ、当時7歳の双子姉弟にとって鮮明に脳裏に浮かぶ……忘れることの無い…

…別れの記憶……。


その1組の男女は営業中の屋敷の扉を開け、

中に入って行った…。



















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