第37幕 エーデルワイス 2
ガチャ…、再び玄関のドアが開いた。
「たっだいまぁ!」
「いまかえったぞぉ!」
ふらふらになりながら肩を組むシエルとリオンが玄関に入ってきた。
「あ、シエルさんリオンさん、おかえりなさ―」
「おぉ~カリーナぁおはよおっ!元気そぅだねぇ!」
へろへろに酔っぱらうシエルがカリーナに絡む。
「ぉ…おはようシエル、リオン…、ごきげんだね…」
「いや~、良いお酒がいっぱいあってぇ、良いお店だったよぉ~」
「はぁいマリーさぁん、ちょこれぇとに入れる梅酒っ!買ってきたぜぇ」
リオンがお酒の入った茶色の紙袋をマリーに手渡す。
「あ…、お疲れ…様でした…、大丈夫ですかお二人とも…」
「だいじょ~ぶよぉ、げんきげんきぃ!」
タンタンタンと廊下を歩く音が聞こえてきた。
するとアリシアとウィルソンが玄関にやってきた。
「お待たせ~、ウィル連れてきたよ~」
「よ、おつかれウィルソン」
カリーナの可愛げのないフランクな挨拶。
「ありがとうカリーナ来てくれて、いつも思うんだけど…、前もって来る時間教えてくれても良いのにさ…」
「いやぁ~それは無理だぜぇ、こっちだってホテルの仕事シフト制だから空いてる時間で来てるんだしさぁ、大きくなるお腹さすりながら」
カリーナは自分のお腹の膨らみをポンポン叩きながら言う。
「妊娠してるんだから尚更連絡が欲しいんだよ。途中で何かあったら心配するだろ」
ウィルソンが優しい口調で注意する。
「やだ…、何それイケメン……惚れちゃう…」
「ぅえぇ!」
アリシアがカリーナの言葉に反応して、ウィルソンの顔を見る。
「なんてね、今日はあんたの誕生日だから、連絡しないで来たかったんだよ」
「来てくれたのは嬉しいけど、心配はするよ」
ウィルソンは特に慌てた様子もなく平然と話す。
「はぁ…」
アリシアが安心のため息をつく。
「カリーナさんのお腹どんどん大きくなるね…、いつ産まれるの?」
アリシアがカリーナのお腹を見つめ言う。
「順調にいけば5月27日だって」
「そうなんだぁ、お腹触っても良い?」
「うん、いいよぉ」
アリシアはカリーナに近づき両手をお腹に添える。
「…もう少しで会えるよぉ、お姉ちゃんたち待ってるからねぇ」
優しく微笑んでお腹に居る赤ちゃんに話し掛ける。
(((……か、…かわいい……)))
その光景を目の当たりにした一同は目の前の"天使"に悶絶する。
「もぉ~めっちゃかわいいねぇアリシアちゃあん!ぎゅ~!」
あまりの可愛さに耐えきれずカリーナはアリシアを抱き締める。
「わたしもわたしもぉ、ぎゅ~」
リオンも2人に近づきアリシアの背中に回り込み抱き締める。
「く、くるしぃ…」
カリーナのお腹とリオンにプレスされる形になり、声を漏らすアリシア。
「あらあら、大丈夫ですかぁ」
マリーがアリシアの腕を引っ張り救出する。
「ちょうど良いやぁ、カリーナも一緒にお菓子作りやろ~よ」
シエルがカリーナをお菓子作りに誘っている。
「お菓子作り?いいね!やるやる!」
カリーナが飛び付いた。
「何を作るか決めてるの?」
「えっとねぇ、ウィルためのウィスキーボ―」
「シエルお姉ちゃん!言っちゃダメだよ!」
アリシアが慌てて止めに入る。
「あ…、そうだった…、とりあえずみんなでキッチンに行こう」
「OK!行こう行こう~」
廊下を渡りキッチンへ向かう。
「ウィルソンはダメでしょ!お外で良い子にして遊んで来なさぁい」
カリーナがウィルソンを玄関に押し返す。
「子供かよ…」
キッチンに皆が入りキッチンのドアが閉まる。
ウィルソンは1人玄関に取り残された。
「…バレンタインだもんなぁ…」
ウィルソンはボソッと一言呟いて玄関を出て行った。
___________
~脳内BGMはお料理系で~
マ「それではいきましょう。
超簡単!ボンボンショコラを作っちゃお~!」
シ「いぇ~い」
リ「ぱふぱふ~」
用意する材料は、
•お好みのお酒150cc(今回は梅酒)
•寒天粉4g
•板チョコ200g(カカオ70%以上)
•生クリーム50g
•ココアパウダー適量
•無塩バター15g
•お湯(湯煎用) •製氷トレー
•氷水(冷却用) •手鍋
•ゴムべラ •耐熱ボウル
•絞り袋 •スケッパー
•温度計
よろしいですかぁ?
ア「は~い!」
カ「材料もそんなに要らないんだね」
リ「今日買った梅酒はアルコール15度だって」
•まずは、事前準備として製氷トレーを冷凍庫で冷やておきます。
無塩バター15gを電子レンジで20秒加熱して溶かします。
溶かしたバターを製氷トレーの表面に塗ります。
指にバターを付けて塗っても構いませんが、
ハケなどで塗っても大丈夫ですよ。
バターを塗った製氷トレーを冷凍庫で冷やしておきます。
シ「準備は大事だもんねぇ」
•中に入れるお酒のゼリーを作ります。
梅酒150ccを手鍋に入れ、寒天粉を入れて混ぜ
溶かしたら火にかけ沸騰させます。
ア「これがアルコールの匂い…酔いそう」
•沸騰したら火を止め、氷水を入れたボウルに手鍋の底を付け荒熱を取ります。
•荒熱を取ったお酒ゼリー液をコップなどに移して冷蔵庫で冷やします。
•次はチョコレート作りです。
板チョコ200g(4枚~5枚)を細かく割り、湯煎で溶かします。
•完全に溶けてトロトロになったチョコレートに生クリーム50gを2回に分けて入れ混ぜます。
•温度計でチョコレートの温度を計りながら40℃まで下がるのを待ちます。
•冷凍庫から製氷トレーを取り出し、溶かしたチョコレートを型に流します。
•1分間そのまま放置します、すると冷凍庫で冷した製氷トレーの型の表面のチョコレートだけが固まります。
•固まり切らないチョコレートをボウルに戻します。
•スケッパーで製氷トレーに付いた余分な
チョコレートを削ります。
•固まったお酒ゼリーを絞り袋に入れチョコレートの中に流し入れます。
カ「その上からチョコレートで蓋をするから
お酒ゼリーは型の7分目くらいにしないとね」
•チョコレートを流した製氷トレーを少し高い
位置から落とし、チョコレートの中の空気を抜きます。
•冷凍庫で1時間程、冷やし固めます。
•冷凍庫から取り出した固まったチョコレートに
先ほどボウルに戻したチョコレートを上から
流して蓋をします。
•冷凍庫に入れ1時間後、製氷トレーの型から
外します。
(外れにくい時は、湯煎で製氷トレーの底を温めてくださいね)
•型から外したチョコレートにココアパウダーをまぶして完全ですぅ。
マ「どうでしたか。わかりやすかった
ですかねぇ」
カ「うん、私にも作れそうだよ」
•あとは可愛くラッピングしちゃいましょう。
ア「みんなも作ってみてね!キラッ☆」
リ「誰に向けて言ってるの?」
______________
時刻は18時20分。
「じゃぁ、私は帰るね」
カリーナの帰宅する時間になり、
ウィルソンとシエルが玄関で見送る。
「夜ご飯一緒に食べていけばいいのに…、
まぁしょうがないんだけどさ」
「明日も仕事あるからね…、また今度ね」
「気をつけて帰るんだよ。無理してお腹に負担かけないようにね」
「ありがとうウィルソン。はい、これ誕プレ」
カリーナはショルダーバッグから小さな紙袋を出しウィルソンに手渡した。
「ありがとうカリーナ」
「SKRGENじゃん!腕時計でしょ!」
紙袋に書かれた文字を見てシエルが飛び付く。
「そうそう!腕時計だよ!大事にしてねウィルソン!」
「腕時計か、ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「うん、そうして。
じゃぁ、また近いうちに来るからね、バイバイ」
「バイバ~イ」
玄関のドアを開け、カリーナは帰って行った。
「よーし!ウィルの誕生日会だぁ~、じゃんじゃん飲むぞ~」
「さっきまでへろへろだったじゃん…」
3階にいるマイルとキースを呼びに行くため、シエルとウィルソンは階段を上がっていった。
____________
ウィルソンの父親であるダグラスが収容されているリザベート刑務所では、ウィルソンの母メリルが面会に訪れていた。
リザベート刑務所では月2回、30分間の面会が認められている。
受刑者側と面会人側とアクリル窓1枚の隔たりで仕切られたこの部屋での面会は、
形見の狭い私にとって…、何度と面会を重ねても、心の距離を詰めることはできないでいる。
情けない男だ…。
「今日でウィルソンは20歳になったんですねぇ…」
「そうだな…。お互い、実感が無いな…」
いまだに目を見て話せていない…。
毎月では無いが、メリルが私の面会に来る時はいつも楽しそうにウィルソンの話を聞かせてくれる…。
「つい最近再会したばかりようなものですからね…」
メリルには、アリアとの間にダニエルという息子がもう1人居たことは伝えていない。
ウィルソンという一人息子だけだと思っているだろう。
ダニエルとアリアの死も、私だけが背負えば良いのだから、これからも打ち明けることはしなければ…、この面会も続くが…。
「すまない…、ずっと独りにさせたな…」
「どうしたんですか…、私たちはちゃんと話し合ってから離れて暮らしたんじゃないですか…」
「それは…、そうだが…」
「ウィルソンが大きくなって帰ってきてくれた…、私はそれだけで幸せです…。
ダグラスさんは…、嬉しいですか…」
「私だって…、ウィルソンに再会できたことは嬉しく思う…。だから…もし…」
「はい…」
これから…、やり直しが利くのであれば…。
「もう一度。やり直さないか…私と」
「いまから……それを言っちゃうんですね……、
ほんと…、いつも勝手に決ちゃう…、罪な人ですね…」
そこが私の悪い癖だ…、また悲しませることになるな…。
「…いや…、すまない…、こんなことを言えた柄じゃないな…、忘れてくれ」
「…いいえ……、嬉しいです。…ありがとうございます…。…私は…、ずっと待っていますよ…、ずっと…」
「そうか…」
「では……面会時間も終わりなので…」
「あぁ…、気をつけて帰れよ」
「………はい」
メリルは椅子から立ち上がり、手記を取る看守の指示で面会室を出る。
その後ろ姿をダグラスは静かに眺める。
面会室のドアが閉まる。
メリルは面会室の前の壁に寄りかかる。
…その言葉を待っていたわけじゃ……
…ないけど…、…言ってもらえて…良かった…。
長い間独りにだったメリルの心に、暖かいな日差しが射す。
…あぁ……、神様…。…私……もう少しだけ……
夢を見ても……良いですか……。
メリルはしゃがみ込み、声を抑え涙を流す。
涙を拭うその白い華奢な手首には、何度も命を絶つことを考えたリストカットの傷痕の数々。
この刑務所に手作りのパンを届けることで
落ち込む気持ちを紛らわし、
無理にでも明るく振る舞っていないと
平常心を保っていられなかった…。
行方の解らない最愛の息子へ宛てた手紙は、
何度も涙と血で濡らし、何度も書き直し
踏み止まることのできたメリルの生命線だった。
もう…寂しい思いはしないで良いんだね…
……あなたのおかげだよ…、ウィルソン……
あなたは……私の宝物だよ……。
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