3つ星ピエロ 第4章

悠山 優

第36幕 エーデルワイス 1


リズワルド楽団を脱退し、故郷のお屋敷で

"パイユ•ド•ピエロ"をオープンしたウィルソン•ウィンターズと港街で出会った少女、アリシア•クラーベルのその後の物語である。


お店のオープンから2年の時が経ったある日―。


時刻は8時20分。

リズワルド楽団の双子姉弟の姉、シエルが

屋敷の廊下を歩いている。

キッチンのドアの前を通り掛かるとキッチンから声が聞こえてきた。

 

~脳内BGMはお色気系で~


「…ゆっくりで…いいんですよ…、焦らないで…、優しくです…」


「すごい…、どんどん…膨らんできたぁ…」


「…わ、わたし…、なんか熱くなってきちゃった…」


「ウィルの…、もっと大きく…してあげるね…」


「そんなに大きいの……入りませんよ…」


(えぇ~!!…キッチンで何やってんのぉ??)

シエルがキッチンのドアに近づき聞き耳を立てる…。

(ま、まさかねぇ…)

「…シエルお姉ちゃんも…呼ぶ?…」

(えっ、私?…)


「みんな…でやった方が…、楽しいよね…」


「シエルさんも呼んで…一緒にハメましょう…」


「私…、ウィルの…、もっと欲しい…」


「わたしも…欲しい…」


バタン!

「アリシアちゃん!まだ早い……よ?」

シエルが勢い良くキッチンのドアを開け、キッチンの中に入る。

キッチンのダイニングテーブルに集まる、アリシア、マリー、リオンの姿があった。

「あ、シエルお姉ちゃん。今呼びに行こうと思っていたの」

「シエルも作らない?バレンタインデーのお菓子」

「…ぁ……、お菓子ね……」

はは…、私はいったい何を想像していたんだろう…。

「はい、シエルさんのエプロンです」

マリーからエプロンが手渡される。

「あ、ありがとうございます…」


今日は2月13日、バレンタインデーの前日であり、ウィルソンの20歳の誕生日。


「今ね、チョコチップマフィンを作ってるんだぁ」

オーブンで焼き上がったのは小さな紙カップに入ったチョコチップマフィン。

鼻の頭に小麦粉を付けたアリシアがマフィンをもってシエルに近づく。

「あら、すごく美味しそう」

「えへへ…。あとは可愛くラッピングをして完成だよ!」

「シエルはどうするの?ウィルソンにあげる物決めてる?」

リオンがシエルに聞く。

「ウィルはねぇ…、クッキーやケーキよりチョコレートが好きなのよ、あぁ見えて。だから…、"ウィスキーボンボン"なんてどうかなぁ…、

ウィル今日誕生日じゃない?20歳だし、お酒の入ったチョコレートとか」

「いいねぇ!お酒入りチョコレート!」

リオンがシエルの案に賛同した。

「ウィスキー…ボンボン?」

初めて聞く名前に、アリシア頭の上に?が浮かぶ。


「アリシアさんはまだ食べられませんが、一緒に作ることは出来ますから、楽しみにしていてくださいね」

マリーがアリシアにもお酒入りチョコレート作りを楽しんでもらえるように優しく話す。

「うん!私はマフィンのラッピング終わらせちゃうね!」

アリシアはピョンピョン跳ねながらテーブルに戻る。


「じゃぁリオン、一緒にチョコレートに入れるお酒買いに行こう!」

「OK!行こう行こう!」

リオンは着ていたエプロンを脱ぎ、キッチンを出ていくシエルの後を付いていく。

「気をつけていってらっしゃいませ」

マリーが2人を見送る。

「さぁ、私たちはマフィンのラッピング頑張りましょうね」

「うん!」

______________


シエルとリオンはお屋敷の正門を出て、坂道を下りていく。

「チョコレートの中に何のお酒を入れるか、だよねぇ…」

「20歳のお祝いも兼ねて、ワインなんてどう?」

リオンがチョコレートの中に入れるお酒を提案する。

「ワインかぁ…、私ワイン苦手なんだよねぇ…」

「いや、別にシエルが食べるチョコレートじゃないし…、ウィルソンにあげるんだから」

「でも味見はするでしょ?リオンを食べたいよねぇ?」

「まぁ…、食べてみたいけど…」

「私はねぇ、梅酒が好きかなぁ」

「あ!分かる分かる。あれでしょ」


「「ゴードン団長の梅酒!」」


2人が同時に発した言葉は見事に一致した。

「団長室の本棚に隠してあるのよね。それを団長はおちょこで一杯飲んでから寝るのよ」

「そうそう、団長が寝た後に忍び込んで、飲みに行ってたなぁ…、懐かしいね」

「懐かしいね…。もうすぐ5年かぁ」

…見つかって叱られることもあったなぁ…。

団長が「"ジパング国"つう所で作られた貴重なお酒なんだ」って話してくれたことを思い出した。

「今度サンクパレスに帰ったら、お墓参りに行かないとね」

「そうね…」

楽しかった思い出は何年経っても薄れることはない。笑い話にして盛り上がれば、団長もきっと喜んでくれるわよね。

「その梅酒をチョコレートに入れたら良いんじゃない?」

「そうしよう!酒屋さんならなんでも揃っているから、見つかるかもね」

「試飲し過ぎて泥酔なんてしないでよぉ?」

「大丈夫だよ。 …たぶん……」


シエルとリオンは坂道を下り、市街地にある酒屋を目指し歩く。


_____________


時刻は13時50分。


「「ありがとうございましたぁ、またお越しくださいませぇ」」

食事に来られた最後のお客様を、

マリーとウィルソンが玄関で見送る。

ウィルソンがシェフを務める"パイユ•ド•ピエロ"は、

open10時00分、lastorder13時45分、

close14時00分となっている。

予約制で18時から21時までディナーも楽しめる。

リザベートの街人以外にも、他の街からも足を運んでお客様が来店する。

客足が途絶えないのはとても有り難い。


アリシアはリビングルームで客席のバッシングを行っている。

マリーが玄関先に出すcloseの看板を準備する。


ガチャ、カランカラーン

「ウィルソーン、居るー?」

「カリーナさん、こんにちは~いらっしゃい」

突然ドアを開け入店してきたカリーナにマリーが挨拶をする。

「こんにちはマリーさん」

「カリーナさんいらっしゃいませ~」

聞き覚えのある声が聞こえ、アリシアが玄関に顔を出す。

「あ、アリシアちゃんにもこれ、バレンタインデーのクッキーだよ~。マリーさんもどうぞ~」 

ピンク色の和紙袋とリボンでラッピングされたクッキーをアリシアとマリーに手渡す。


「わー、ありがとうカリーナさん!」


アリシアはお菓子を受け取りにこっと笑う。

「私まで頂いちゃってよろしいんですか?」

「良いんですよぉ、いつもお世話になってますからね」

「そうですか…、ありがとうございます」

マリーはお礼を言い、ペコっとお辞儀をした。

「待っててね、今ウィルを呼んでくるから」


アリシアがウィルソンを呼ぶためキッチンに向かった。


カリーナからのバレンタインのお菓子を受け取り、お礼を言い頭を下げたマリー。

カリーナのお腹が大きくなっていることに気づいた。

「どんどん大きくなっていますねぇ、今何週目に入ったんですか?」

「今、18週目にはいりましたね~、順調に育っているみたいですよ」

「それは良かったです~。楽しみですね」

3年前にホテルのオーナーである男性と結婚した

カリーナ。

その夫との間に子供を授かることができたのだ。


このお店がopenした当初は"週1で通うから!"と意気込んでいたカリーナだが、ホテルの仕事も忙しく、妊娠したこともあり、このお店への来店は月1回程に留めている。

年が明けた1月の上旬に妊娠の報告も兼ねて、

旦那さんと一緒にこのお店に足を運んでくれた。


「玄関で立ち話もなんですから、中に入ってください」

「は~い、お邪魔しまぁす」



























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