第21話 エピローグ2 アリスの場合

 ガルーダを倒してすぐ。


 私は転移魔法で自分の部屋に戻ってきた。グーちゃんはずっと机の上に寝そべったまま、今もシャーロットちゃんたちの映像を見ている。映像の中のシャーロットちゃんが泣いていてジェシファーさんに慰められているけど、必要経費だと受け入れるしかない。


 私も偽装魔法を解いてアマリリスに戻ります。アリスの姿を誰かに見られたら面倒ですし。髪の色は銀髪に、瞳は翡翠色に。


 そこまでしてようやく声を出します。


「グーちゃん、誰も気付いていませんね?」


『うん、大丈夫。君が消える演出が転移だとバレた形跡はないよ。神が利用したからって神罰を与えるとかそういう話をこっちに持ってきたとかもない。これから来るかもしれないけどね』


「その時はその時で考えましょう。ガルーダという存在がいる以上、神はおわすのですから」


 神に仕える存在が実在してグリモアが証明してしまっている以上、神の実在も証明されてしまったんです。その神まではグリモアにも記されませんね。


 グリモアはあくまでも魔導書。神はその存在そのものが一つ上の超越者ということで情報が載らないのでしょう。じゃあ世界に残されている情報から神を知ろうとするのも不可能です。


 ペテル神聖国とヴェリッター十字国が戦争をしているように、この世界で崇められている神は一柱ではありません。どちらかが正しく、どちらかが間違っているのか。それともどちらも間違っているのか、どちらも正しいのか。それすらわからない状況です。


 私が祈っている神の名はイズミャーユ様。ですがペテル神聖国では唯一神という名前を人間如きの口では語ってはならないという宗派ですし、ヴェリッター十字国ではソールという神を信仰している。


 どこの宗教でも聖書がありますが、これだって人間が編纂した物。どこまで真実かわかりません。


「……神様のことは後回しにしましょう。これからのことです」


『まあ、出て行っちゃった以上シャーロットには余計に会えなくなったね。それと魔王軍のことは確実にあの三人が王国に連絡する』


「はい。ですのでトットカルク商会の全てを使って『ケルベロス』を支援します。というより王国所属ですので王国へ献身しつつ他の国にもある程度の支援をするべきでしょう。この世界のどこに隠れているのかわかりませんから。……『白のグリモア』でもわかりませんよね?」


『わからないね。さっき読んだ魔王軍のことで情報は全部だよ』


「私の所在地は書いてあるくせに……。万能ではありませんわね」


 初めて『白のグリモア』が使えないと思ったかもしれない。今までは要らないことまで記されたおかしな事典だと思っていたのに、知りたい情報が書かれていないなんて。


 魔法が記されている『黒のグリモア』も完璧ではないのかもしれませんわ。


「商会に武力はありません。情報収集能力も販路のことを除けば『白のグリモア』頼み。……シャーロットちゃんたち冒険者頼りになりそうですね」


『国の既存戦力が調査に乗り出せるかって言われたら微妙だからね。真剣に考えればするんだろうけど、その真剣になるまでにどれだけ時間がかかるかって問題がある。魔王軍の強さを知っているのはシャーロットたちだけなんだよ。人間は自分にとっての恐怖に気付くまでかなり愚鈍だからねえ』


 そう。


 魔王軍の恐ろしさを知らない人間は確実に後手に回る。既に潜伏されている時点で後手どころかかなりのアドバンテージを握られているというのに、人間国家は重い腰を上げられるかと言われたらグーちゃんの言うように微妙。


 なにせ実害が出ていない時点でどうやって警戒しろと言うのか。天変地異が起きるので今から備えておきましょう、天変地異を引き起こす場所を調べておきましょうと伝えても動くのは興味のある人間と危機感を覚える人間だけ。


 国というのは色々な鎖で縛られている。人員を動かすにしても法律や遠征費などの国庫をどれだけ使うか、編成はどうするかなどを会議で取り決めそれから動く。


 その間に魔王軍が拠点を動かしたらどうするのか。


 どこにいるのかわからない時点でここまで心配するのもどうかと思いますけれど、初動が遅れたせいで取り返しのつかない事態に陥っていたということになりたくないのです。


 一番に被害を受けるのは顔を覚えられてしまったシャーロットちゃんたち『ケルベロス』でしょうから。


 本当にもう少し魔力が残っていて、かつ吸血鬼としての力を存分に奮えればガルーダも倒せましたのに。


 長距離用の転移魔法はかなり魔力を食います。それを二回に、神による介入だと知らしめるために巨大な光の柱を形成。そして天に戻る演出として私の身体が透けて徐々に消えつつ転移するという隠蔽の魔法も使う必要がありました。


 吸血鬼になって魔力量が増えましたが、最大火力の魔法を合同とはいえ使ったこととシャーロットちゃんたちの治療に魔力を分け与えたことで正直今もギリギリです。


 本当にもっと魔力に余裕があるか。それか吸血鬼として近接戦闘も解放できていれば倒せたかもしれないのに。いえ、吸血鬼としてのズルは結構使いましたが。


 今回のハンデ戦では撤退させることが限度でした。あの三人が無事だっただけ良しとしましょう。


「国がしちめんどくさいということを考えるとウチは凄く楽ですね。会長の私が一言伝えればすぐに動いてくれますから」


『それが商会としての便利なところだよねー。まさしく君の手足なわけだし。それに君には吸血鬼の眷属がいる』


 そう。私は商会以外にも吸血鬼の眷属が世界中にいる。同じ魔物だし諜報活動には向いているかもしれない。


 早速世界中の眷属にシャーロットちゃんとか各国の重要人物を監視させている眷属以外に魔王軍の根城を調べてもらうように指示を出します。もっと眷属を増やすべきですかね。


 以前の盗賊たちを全滅させたのは失敗かもしれません。都合良く吸血鬼にしても私の心が痛まない悪人がいるとは限りませんし。


 いえ、盗賊や軍人には嫌悪感が優先して浮かんでくるのでやっぱりなしです。理性では眷属にした方が良いと判断できるのに、本能が殺そうとしてしまうでしょう。


 生理的にも盗賊や軍人の眷属なんて嫌です。


 どこかに消しても問題ない悪人が転がっていないでしょうか。いなければ生態系が崩れない程度に魔物を眷属にしましょう。


「……あら。さすがクリスト候とマルートの精鋭たち。私の魔法に気付いたみたいで街が慌てていますね」


 このマルートに忍ばせてる吸血鬼の眷属からの連絡が来ました。衛兵が私の光の柱とその後のSS級魔法に気付いたようでクリスト候に連絡を入れたようですね。まだこの時間なら皆さん起きているでしょうし、これは招集がかかりそうです。


 魔力を回復させるポーションを飲みますか。魔力が空だといざという時に困りそうですし。


 うーん、美味しくない。こういうのは薬ですし、効能こそ優先されているので味なんて二の次なので正直マズイです。ウチの商会でも生産していますけど、やっぱり効果を追求して見た目や味なんて誰も考慮しません。


「グーちゃんはこのまま情報の整理をしていてください。真新しいことが何もなければ寝てしまって構いません」


『りょーかい。君はこのままクリストとご飯かな?』


「お食事はしないでしょう。真剣な話し合いですね」


 夜なのでコートを羽織って下に向かうとちょうど衛兵が。女性が呼びに来たのは一応私を慮ってのことでしょう。彼にクリスト様の屋敷まで来るように言われてホイホイ付いていく。


「アマリリス様。もしかして先程の光が見えていたのでしょうか?」


「ええ。あれだけ眩しければ気付きます。あの光についての話し合いということでしょう?」


「はい。場所はマルートから遠いようですが、未確認の現象です。魔法にしろ他の何かにしろ、警戒を怠るわけにはいきません」


「そうですね。いざという時は私も出撃しなければなりません」


「アマリリス様のお手を煩わせるのは申し訳ないのですが……」


「いえいえ。何もしないまま被害が出るのは嫌ですから」


 せっかく集めた人々が傷付くのは嫌です。商会があるからシャーロットちゃんたちの支援ができて、好きに食事ができて。これから魔王軍と戦うために裏方として力を発揮できるのですから。


 今は吸血鬼ですけど、生前と同じように人間は好きです。その人間が傷付く姿を見たくはありません。この街にいる方々は善良な人々ですし。


 私の家からクルスト様の領主邸はそこまで離れていないのですぐに着きました。そのまま会議室に案内されます。中にいたのはクルスト様と何人かの騎士と衛兵だけですね。


 騎士は王国に属する騎士団から派遣された方々ですが、衛兵の皆さんはマルート市で雇っている自警団のような人々です。騎士団には実力が足りなかったりツテがなかったために入れなかったり、王国に忠誠を誓っていなかったり、マルートが好きだからとなった人たちです。


 騎士になるとどこに配属になるかわかりませんが、衛兵なら雇い先が各街や村なので他の場所に転勤になったりしないのです。騎士になって地元配属になるのはかなり厳しいですから。


「アマリリス嬢。夜更けにすまない」


「いいえ、クリスト様。まだそこまで遅い時間でもありません。お気になさらず」


「そう言ってくれるとありがたい。あの光の柱は見たかね?」


「はい。ですが私にも知識はありません。おそらくSS級魔法……。最低でもS級だとは思うのですが、あのような魔法は存じ上げず」


「そうか……。いや、魔法使いが本職ではない貴女だ。王国に問い合わせないとわからないだろう」


 王国でもわからないと思いますが。あれ、本当にSS級魔法なので。いえ、見た目が凄いだけで効果も何もないただの閃光魔法なのですけど。だから火力なんてなく、ただ眩しいだけだったりします。


 あの魔法が開発された経緯は本当に天が空の上にあるのかということを証明したかった人が空の彼方を計測するために作ったもののようです。結果、いくら天へ伸ばしてもその天が見付からず、天界が存在しない、または神が存在しないと知らしめてしまったために宗教国家から弾圧されて抹消された禁止魔法だったりします。


 当時は天界がはるか上空にあるということが通説だったためにこの魔法を開発しようとした人をかなり支援したようです。天界への道標が見付かれば神の実在を証明できるために人間としては是が非でも成功させたい事業だったのでしょう。


 見付からなかった瞬間に掌を返してこの魔法を跡形もなく消し去るのは人間性が色濃く出ていますね。きっちりとグリモアに記されてしまったので私も使えましたが。


 今では天界はこの星とは違う位相にあるのではないかという論が通説になっていますね。だから人間は見付けられない。天界や神、天使の神秘性を守った形になります。本当がどうなのかはわかりません。イズミャーユ教でも天界にいらっしゃるということだけで詳しく解き明かそうとする者はいませんから。


 今回使った光の柱の魔法『リ・カント』は実際かなりの魔力がなければ使えません。実証実験の際も複数人での合同魔法だったようです。今回使った理由は一番それっぽく演出できそうだったから、それだけですね。


 あとクリスト様が王国と言いましたが、この国も今は王国に属しています。ですが元帝国民からすると別の国だったという意識が強すぎて王国と言ってしまうようです。


 王国民なら王都スルーズへ連絡を取ろうとか、王族や騎士団に頼ろうと言うでしょうね。まあ、そこまで気にする表現でもありませんか。


「今のところ実害は出ているのですか?」


「いや、あの光の柱を直接見ても体調を悪くしたり目をおかしくしたという報告は今の所受けていない。これからそういう情報も出てくるかもしれないが……」


「そうですか。どういう魔法かわからないと対処にも困りますね……。魔物の動きはどうでしょう?」


「そちらも今の所は報告がない。今も騎士団と衛兵で街の外を警戒させているが、魔物が凶暴化したという話もない」


「しばらくは様子見をした方が良いかもしれませんね。ちなみに王都へ早馬は?」


「すでに出したよ」


 さすがクリスト様。未知の出来事に対して行動が早い。こういう方でもなければマルートの復興も帝国の解体もできなかったでしょうけど。


 たとえ何もわからなかったとしても行動することが大事です。そうすれば民衆もあの時こうしてくれた、行動してくれたと思ってくれて行政府に信頼を寄せてくれますから。


 シャーロットちゃんたちのおかげであれが神の御業だと数日後にはわかるでしょう。いえ、本当は私の演出ですが。


「その方々以外で街の外に出ている方はいますか?」


「街としてはいないはずだ。商会は?」


「夜間の街から街への移動はさせていませんから大丈夫です。となると一番の不安はあの光の柱で刺激された魔物ですかね……」


「ああ。ひとまず二十四時間体制で見回りをさせよう。魔物の行動は読めないからな」


「では私も街の防衛網に加わります。こういう時のために冒険者としての立場を戴いているのですから」


 最初からそのつもりだったので戦う準備はできています。もちろん真祖としてではなく『銀』の冒険者アマリリスとして。


 私が出撃することを伝えると騎士や衛兵は百人力だと喜んだものの、クリスト様だけは渋いというか苦々しい顔をしていました。


 なぜかいつもクリスト様は嫌そうな顔をされるんですよね。私の実力は一番よく知っていらっしゃるのに。


「……すまない。だが、疲れたらすぐに休んでくれて良い。それが本職ではないのだから」


「はい。御気遣いありがとうございます」


 お辞儀をして街の外と繋がる関所に向かう。関所を中心に結構高い外壁が囲んでいて空を飛べる魔物でもない限り飛び越えられて魔物に侵入させるような作りにはなっていません。


 まあ、地龍とか鳥系の魔物には無意味なのですが。なんでもできるわけでもありません。街全体を覆うような結界魔法なんて常時作るのも不可能ですし。そんな技術はもちろん、魔力を確保する手段もありません。


 だからこそ騎士や衛兵という職業がいなくならないわけですが。


 結局のところ人力が一番なのですよ。実力の意味でも、信用の意味でも。


 そうして一日魔物が来ないか確認していましたけど、結局いつもと同じ頭数しか現れなかった。日が昇るまで警戒していたものの、何故だか騎士や衛兵の皆さんに「姫、御休みください」と言われたものの私は吸血鬼だから夜の方が体調が良いんですよね。


 私、姫ではなく会長なのですが。何故だか騎士や衛兵の皆さんは私を姫と呼ぶ。マリンクォーツのようにお姫様ではないのですが、一応会長という偉い立場の人間で戦場にいるからか、そういう女性をお嬢様と呼ぶ傾向がある。


 まあ、戦場では女性兵士のことを丁重に扱うからわからなくもない思考なのですが。結構女性の方も多い職業ですし、こういう扱いをすることが癖になっているのかもしれません。でも姫って。


 女性からしても丁寧に扱われることは嬉しいですからね。紳士の方が多ければ暴行も起きずに不和が起こりづらくなる。軍隊では必要な措置ですね。


 朝になった時点で私は交代となった。夜も結構長丁場だったために仮眠を戴いてまた警備に着く。私としては魔王軍の動きが活発になっていないかと調べるために警邏に出る。


 私のことが魔王軍にバレたんじゃないかと思って戦々恐々としていたけれど、どうやら居場所とかが漏れた様子はない。ガルーダがまた襲いに来るんじゃないかと思っていたけど、そんな動きも見られなかった。


 魔王軍はまだ動く気がないのか、あのガルーダがただ偵察というか遊んでいただけなのかもしれない。本当に、情報が欲しい。


 数日見張りをして特に変化がなかったので厳重警戒態勢を解く。そして私は商会の仕事に戻る。いえ、魔物の警戒をしつつも商会の仕事をしていたわけですが、それでは足りないほどに忙しいのです。


 それとシャーロットちゃんたちももうすぐ依頼完了の報告のためにこっちに来るみたいですし。報酬の件を考えないといけません。たっぷり色をつけてあげましょう。もうマルートでも魔王軍のことは噂になっていますから。


 そういう表向きの件も込みですけど、アリスとしても手助けしたいのです。これからシャーロットちゃんたちは魔王軍と接触する機会が増えるでしょうから。


 私にできることは商会の商品を安く渡したり贔屓したり、あとできることは魔法くらいですね。


 なのでグーちゃんに相談します。


「シャーロットちゃんに渡す魔法のリストを考えてくれますか?」


『良いよ。シャーロットは中近接だから自己強化系と速度が速くて使い勝手の良い魔法が良いだろうね。回復役もあのパーティーで担ってるから、回復系と補助系も必要だよ』


「んー。なんというか器用貧乏になっちゃいませんか?勇者なのに」


『いやぁ、勇者なんてそういうものでしょ?魔法も使って剣も使って。専門職よりは結構劣るでしょ。しかも専門のヒーラーが『ケルベロス』にはいないし』


 三人パーティーというのは冒険者チームとしてかなり少ない人数で構成されています。できれば回復職は専門で必要で、補助魔法を使うような指揮官的なポジションも別で欲しいです。


 接近戦ができる人が二人、しかもシャーロットちゃんは様々なことを兼任。器用貧乏では困り、器用万能になるしかない状況というのはかなり辛いですね。


 接近戦だってアタッカーとタンクは別で欲しいです。そして魔力依存にならない弓を使うような後衛職と、索敵ができるようなレンジャー。これだけの役割が冒険者チームには必要だとされます。


 いくつか兼任できそうな役割もありますが、最低でも冒険者パーティーに五人は必要ですね。近接二、遊撃一、後衛二。これがバランスの取れたパーティーです。それを『ケルベロス』はたったの三人。


 これで地龍を倒せてしまう三人の実力が高すぎるのです。そんなに強い冒険者がその辺りにいないということもありますが。誇張でもなく『虹』や『金』の冒険者とは国でも有数の天才が得る称号。一分野でも国単位で見て断言できるような天才がうじゃうじゃいるはずがありません。


 だから『虹』の冒険者チームなんて各国に一ついるかどうかなのですわ。王国は帝国と合併した関係で『虹』を擁する冒険者チームが三つありますが、メンバー全員が『虹』なんて一つしかありません。『ケルベロス』も現在はシャーロットちゃんだけが『虹』です。


 『ケルベロス』はシャーロットちゃんの役割の比重が重すぎるのですわ。フィアさんは近接アタッカー、ジェシファーさんは魔法後衛アタッカーというそれぞれの専門職。


 シャーロットちゃんの役割は遊撃手のはずなのですが、ここに回復と支援魔法、索敵に近接アタッカー、時には魔法アタッカーと何でも屋さんになっています。三人メンバーだから仕方がない部分もあり、そしてそんな万能になれてしまう才能もあった。


 剣の才能は低かったものの、今回伸ばしたのでまさしく万能になったと言えるでしょう。剣は才能というよりシャーロットちゃんの努力が実った形でしょうね。他のことはグーちゃんの指導と純粋な才能でしょうけど。


 グーちゃんの指導も、あくまで私のスペア的な意味合いが強かったのでそこまで本格的なものではありませんでした。比重は確実に私に振られていた。いえ、十歳の段階でそこまで指導に重きを置かれていなかったのにB級魔法が使えたのなら十分すぎる才女なのですが。


 まあ、今回の魔法の餞別については私がグリモアを持ち出してしまったことへの補填というか謝罪の意味合いが強いですね。


 『ケルベロス』がメンバーを増やすのかどうかわかりませんが、強くなってもらうのは必須事項なので。


「グーちゃん。ジェシファーさん用の魔法も書き起こしてくださいな。攻撃魔法と結界魔法をいくつか。せめて後方支援系は全部やっていただきたいのですが……」


『無理。君も見ただろう?ジェシファーには支援系の才能はない・・・・・・・・・よ。それが彼女の在り方・・・・・・だ』


「そうですねえ……。魔法のスペシャリストではなく、どちらかというと殲滅系への才能ばかりで、一時的な援護用の結界魔法がいくつか使えるだけのようですから。SS級を渡すのはさすがに出所を怪しまれますわね……」


『ジェシファーならその内単独でSS級も使えるようになるだろうけど、今はS級が手一杯だろうね。それより少し下の階級でも使える魔法は多い。適当にピックアップしておくさ』


「お願いします」


 完成したら魔法のリストを見させてもらいましょう。それと先の依頼に対する追加報酬を用意しなくては。いっそのことトットカルク商会関連施設の永久無料券でも作成して渡しますか?


 そんなことを考えつつ、当日に会わないようにアリバイ作りもしながらフレッドに『ケルベロス』への対応を一任する。


 はぁ。


 魔王軍の根城でも探しに行きましょうかね?

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