第18話 4ー2 潔白宣言=威光の再現
アリスが「エンジェルフェザー」を用いたことでシャーロットとフィアは魔法を相殺させたガルーダに武器を持って突っ込んでいた。魔法の処理をした瞬間奇襲をされたものの、ガルーダの本領は空だ。
問題ないと避けようとしたが、二人の速度が先程とは異なり速かったので二人の槍と剣が掠る。掠っただけなので大きな傷にはならなかったのだが、さっきまでは攻撃が当たらなかったことから考えると驚異の上昇率だ。
その異常さに驚いたのは敵側のガルーダだけではなく、味方のシャーロットとフィアもだった。
先程までシャーロットがかけていた飛行魔法「エンジェルフェザー」と同じはずなのだが、移動速度は確実に速い。これは飛行魔法に込められた魔力がシャーロットとは段違いだという証拠。
ガルーダからすれば膨大な魔力を持った女が加わり、『ケルベロス』からすれば心強い味方が増えたようなものだ。
『テメエ、本当に死人か⁉︎死人が生前そのままの能力だとして、そんな若さでここまでの魔力を持ってるなんて何者だよ!見た目取り繕ってるんじゃねえか⁉︎』
「誰が若作りババアですか⁉︎あなたたち長命の方々からすれば赤子のようなものですよ⁉︎」
ガルーダの疑問にキレて返すアリス。ガルーダから年齢や外見を疑われるのは心外だと怒るのと同時に、本気でバレているんじゃないかと思い声を荒げていた。
態度以上に攻撃魔法を矢のように放ち始めて照れ隠し。ガルーダの役職からして神に連なるものなので特別な目を持っているかもしれなかった。
致命的なことを口走る前に黙らせようと魔法の嵐を浴びせる。実際今の年齢を考えてもまだかなり若い。一応十八歳だ。今は見た目を十五歳時点に弄っているが、その程度で見た目を取り繕っていると言われるのは心外だった。
「合わせてください!」
「わかりましたわ!」
「「『森羅万象悉くを制し、聖天を
即興ながらアリスとジェシファーが詠唱を合わせる。複数人による儀式魔法。それによって強引に攻撃魔法では最高位であるSSランク魔法を引き起こしていた。二人で足元へ魔法陣を作り出し、重ね合わせ。
詠唱も魔力も融け合い、一つの結晶として弾き出す。
用いられた魔法は潔き者しか使えないとされる雷魔法。どんな高位の魔物であってもどんな強力な魔法使いだとしても。一切使うことができないとされる種別の魔法が雷魔法だ。
治癒魔法と信仰魔法と同じように制限がかかっている魔法だ。これをアリスは自分が悪い人間ではないと証明するための一撃としていた。
実のところ雷魔法は生前からアリスに適性があり、変性してからも問題なく使えたので雷魔法は純粋に適性者が少ないのだとアリスは真実を得ていた。白のグリモアにもそう書いてあった。
アリスからすれば本当にジェシファーがこの魔法を使えることに驚き。
『ケルベロス』からすれば最高位の魔法を儀式魔法化させたとはいえ発動させたことにそこまでの実力だったかと尊敬にも似た感情を抱き。
ガルーダとしては、自分に雷を向けるのかと憤慨していた。
『この……ガルーダたるフェニス様に雷を当てるだと⁉︎不敬すぎるぞ!』
激昂しながら一気に曇天へと暗くなった黒雲から先程アリスが現れた光の柱よりも大きな雷の柱が落ちる。それは叫んでいたガルーダがその大きすぎる濁流に巻き込まれる。
シャーロットとフィアは事前に範囲を可視化させられたためにそこから詠唱の間に逃げていた。あまり範囲を可視化させるとガルーダに勘付かれるはずだったが、どうやらガルーダにはその範囲が見えなかったようだ。
これはアリスが二人にだけ雷が落ちる範囲を見せていたからだった。使う魔法が魔法だったために巻き込むわけにはいかなかったため、即座に施した処置だった。
この範囲可視化には結局最後まで誰も気付かなかった。二人はガルーダにも可視化の範囲が見えているものだと思い込んでいたし、ガルーダはそもそも可視化の範囲なんて見えておらずそんな話をする意味もない。
ガルーダはその広すぎる範囲から降り注ぐ稲光を避けることはできなかった。この世界で百年来となる極大魔法はガルーダの全身を貫いた。
『があああああああああ⁉︎』
世界でも最大の威力を誇る魔法にガルーダはもがき苦しむ。ガルーダでも受けたことのないランクの魔法であったために苦悶の声が漏れた。上空を飛んでいたというのに雷の奔流は受け止められなかったようで地面に激突し、その上で更に地面を抉るように雷が打ち付ける。
神が使う神鳴りを全身に受け、断末魔は続く。
初めて見たSS魔法にシャーロットとフィアは終わったと思ったし、使ったジェシファーも雷魔法への絶対的な信頼から倒したと思い込んだ。
まだだ、と確信しているのは特殊な魔眼を持つアリスと受けているガルーダ自身。
「皆さん、気を抜かないでください。まだです」
「え?お姉様、あんな魔法を受けて倒せてないの……?」
「魔法の選択を間違えました。魔王軍という話だったので裁きの雷こそが最適解かと思ったのですが……。ガルーダが神鳥というのは事実だったと」
『クソ痛えじゃねええかああああああ!我が身に神罰などと……人間風情が図に乗るなよ⁉︎』
雷の柱が消えた瞬間、焼き焦げたチキンと成り果てたガルーダがボロボロの翼を用いて浮かび上がる。
人間だったら絶対に耐えられない、『ケルベロス』が倒した地龍だって耐えられないような極大魔法を受けて全身ズタボロながらも飛行能力も健在なままで叫ぶ余裕があるガルーダの強靭さに誰もが慄いた。
アリスは魔眼で見たスキルの中で防御というか雷を受けても大丈夫そうなものは『神の加護:七』という名前のものだろうと当たりをつけていた。このスキルのおかげでまだ無事なのだろうと予想がついたのだが、それ以上に一つ心苦しいこともあった。
神の加護があるということは神の実在が証明されたということ。ガルーダの口からもそのような言葉が示唆されていたものの、魔眼によって得た情報は何よりもアリスは信じられた。
自分を吸血鬼にしたような神と、ガルーダが仕えていて離反した後も加護を与え続ける神。同じ存在なのか確認は取れないが、この世界には修道女として祈り続けた神がいるということ。
(神様は今の私を見てどう思うでしょう……。吸血鬼として人を殺めるバケモノ。妹にすら嘘をつき続ける
そんな考えを頭に浮かべながら周りの様子を見る。
シャーロットとフィアの傷はアリスの魔法のおかげで全快している。
ジェシファーはよっぽどの信頼を雷魔法に置いていたのか、立ち上がったガルーダへ目の焦点が合っていない。そんな精神性の惰弱さを見せてしまっていた。
だからアリスは彼女の肩に手を置く。
「ジェシファーさん。魔法が一つ効かなくてもそこで終わりではありません。あなたは何の為に冒険者になったのですか?きっとあのガルーダのような敵を倒すために茨の道へ進んだのでしょう?一人では、戦えませんよ」
「冒険者になった、理由……」
「魔法使いだけで全てを倒すことは不可能です。それはパーティーを組んでいるあなたならわかりますよね?」
ジェシファーは『ケルベロス』の残りの二人を見る。視線を向けられた二人はしっかりとジェシファーに頷いた。
確かに極大魔法で倒せなかったのは厳しい。それでもまだ自分たちがいると、視線でしっかりと告げていた。
「……わたくしは、人類の敵を許せません。あれが神鳥だろうと、魔王軍に所属しているというのであれば滅却します。モンスターはこの世界に居てはいけないのです」
「……強い憎悪で目を曇らせないでくださいね?シャーロットちゃんもそういう部分があるので、パーティー内に同じような人がいるのは心配です」
「ふふ。こういうことで意気投合してペアを組んだのです。ちょっとやそっとでは在り方なんて変えられませんわ」
そう笑って、戦闘態勢に戻るジェシファー。これなら大丈夫だろうとガルーダに目線を戻す。
ガルーダはこの間に自然治癒をしようとしていたがダメージが大きすぎたのかあまり回復していなかった。ガルーダは回復魔法が使えない上に、そもそも強靭な肉体を持っているために大きなダメージを負うことも少ない。
だから必要がないとしていた戦闘民族がここで後悔していた。自分たちは神を守るための尖兵なのだと。守るために攻めて滅ぼせばいいと考えていたために本当の守りなんてしたことがなかった。
神を守る存在は、ガルーダたち以外にもいるからだ。
その結果が今の惨状。自分よりも強い暴力で叩き潰されていた。
こんな醜態に自分で自分を殺したくなる衝動に駆られたが、今のガルーダは魔王軍。魔王のためにもすることは変わらず敵の殲滅だ。
身体がどれだけ痛めつけられようと、繰り出す攻撃と魔法の威力は変わらない。柔らかい肉でできた人間など簡単に挽き肉に変えられると絶対の自信を持っていた。
『……神に祝福された修道女に、過去の遺物が。殺してやるよぉ!そんなイレギュラー、魔王は望んじゃいねえ!』
噴き出る鮮血を気にせず、ガルーダは咆哮をする。
魔王軍との第三ラウンドのゴングが鳴った。
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