第14話 3ー3 剣士見習い→魔法剣士
フィアは接近戦のスペシャリストとして槍を用いて吸血をされないように刺し殺していた。ジェシファーも低ランクの魔法で牽制して魔法を並行詠唱して高ランクの魔法でトドメを差していた。
二人の実力は最高位『虹』の冒険者であるシャーロットに負けずとも劣らず、専門分野ではシャーロットを超える実力者だ。古の吸血鬼ではなく、少し強いだけのただの吸血鬼なんて相手ではなかった。
取り巻きを倒した二人はエクリプスと戦っているシャーロットを手助けしようと目線を向けたが、とても入り込める雰囲気ではなかった。
「おいおい、ありゃあどういう魔法だ……?いくら身体強化の魔法を使ってるからってあそこまで速くなるもんか?」
フィアとシャーロットで接近戦をやったら百戦中九十八回は勝つ。シャーロットだけが身体強化の魔法を使ってもそれだけの技量の差があった。自分より速く動かれてもフィアはついていける動体視力と元々の身体能力、そして接近戦における絶対的な野生の直感があった。
時たまシャーロットが工夫を凝らしてフィアも負けることがあったが、基本は負けない。そんな実力差があった。
だというのに黒いオーラのようなものを纏ったシャーロットはいつも以上の速度、膂力を得てエクリプスを追い込んでいた。その速度と、空振りした剣が引き起こした地面や木への破壊跡を見るとフィアの出せる威力を超えていた。
地面は捲れ上がり、木は切断ではなく爆ぜている。フィアだって技を使えば同じようなことができるが、一撃一撃をそうすることは不可能だ。いや、それはどんな戦士だって不可能なことだ。
できるのは化け物じみた、それこそ魔物を超える身体能力を持った者か、シャーロットのように高位の魔法を修めた魔法剣士くらいだ。
「わたくしだって全ての魔法を知っているわけではありません。あの黒いオーラを見ればただの身体強化の魔法ではないことはわかります。……いえ、そもそも魔法ではないのかもしれません」
「魔法じゃない?大体の不思議な現象は魔法のせいだろ?」
「そういう理解が手っ取り早いのは認めますが。魔法は全ての事象を解明したりはしませんよ。そもそもあの状態になった時、シャーロットちゃんは魔法名を唱えていましたか?」
「あ。確かに……」
魔法は小声でもいいが絶対に名前を告げなければ発動することはできない。名前を重要視しているのか、世界とそういう契約を結んだのか。魔法とはとにかく、魔法名を告げて魔力を捧げ、術者本人の力量が認められて初めて発動できる。
シャーロットはあの黒いオーラを纏った時、魔法名を唱えなかった。
つまりあれは魔法に依らない現象か、名前を呼ばないままに発動させたシャーロットの偉業か。
どちらにせよ、シャーロットのみが行える事象だった。
シャーロットは今、地形を散々にしながらエクリプスを追い詰めていた。エクリプスも吸血鬼としての能力をフルに使って数多の蝙蝠に分裂して攻撃を躱したり体内に保存していた血を用いた吸血鬼固有の身体能力強化を用いて反撃をしていた。
エクリプスはただの古の吸血鬼ではないのでその能力も吸血鬼の中で最上位だというのに、シャーロットは魔法も使わずそんなエクリプスを圧倒していた。
エクリプスはこの世界で二番目に強い吸血鬼だ。最強の彼女の恩寵という名の実験によって様々な強化が施されて、やろうと思えばドラゴンさえ倒せるほどに強い存在だった。
そのエクリプスが、純粋な実力で押されていた。
魔法は使えないが、接近戦だけであれば人間に絶対に負けないほどの実力があった。技量だけならフィアよりも上。用意した存在もシャーロットが勝てるかわからないくらいになってしまいやりすぎたと思ったほど。
そんなエクリプスが押されていた。シャーロットに傷一つ付けられずにぶっ飛ばされ続けていた。
吸血鬼という圧倒的な種族の力を手にしたエクリプスが、人間のシャーロットに敵わない。
その理由はあの黒いオーラによって増幅された身体能力が一番の要因だが、それ以外にもあると考えていた。
(一振りごとに剣筋が最適化されていく!このような成長速度、有り得るのか⁉︎人間だったから成長期の伸びというのは理解している!だがっ、ソコソコの熟練者がいきなり達人級に変貌するのは間違っているだろうに⁉︎)
今も地面の土を蹴り上げて目潰しをしたが、剣の風圧だけで全てを消し飛ばして無力化された。その隙に上空へ逃げれば地面を蹴り飛ばして跳躍。それだけで木をも超える高さに追い付いてきた。
「エンジェルフェザー!」
更には上空を飛べるAランク魔法を用いて空中戦にも備えてきた。吸血鬼の利点を潰されて、身体能力でも超えられて技量も追い付いてきた。
当初の目的を考えれば大成功ではあるのだが、このままやられたら特に苦労せず終わってしまう。それはダメだと考えたのか、この機会を最大限に利用しようとしたのか。
エクリプスに支援魔法がかけられた。
(ッ!主よ、感謝いたします!)
防戦一方だったエクリプスだったが、身体能力強化の魔法の中で最上位であるSランク魔法フィンスターニスをかけられたことで再び能力が逆転。
シャーロットを超える速度で回し蹴りが決まり、シャーロットを地面に叩きつけていた。
それと間髪置かずにジェシファーによる魔法が発動する。安堵する間などエクリプスにはなかった。
「フォノンメーザー!」
青白い極太の光線がエクリプスに向かうが、それはヒラリと避ける。
シャーロットの剣以外にやられるわけにはいかなかったのでエクリプスは無理矢理身体を捩って避けた。ジェシファーの魔法も驚異なため、当たれば大ダメージになってしまう。
受けても一発だけだろうと考え、上空に留まった。上空にいればシャーロットの追撃かジェシファーの魔法しか届かない。
このイレギュラーにどう対応するか、指示を仰いだ。
(どうされますか?)
(今の魔法でジェシファーさんのことは測れました。あとはシャーロットちゃんのあの黒いオーラについて調べるだけですが……。持続時間など調べたいのでこのままシャーロットちゃんを中心に攻めてください。頃合いを見てやられてください。そのタイミングは改めて指示を出します)
(畏まりました)
秘密の念話も終わり、エクリプスは時間稼ぎの言葉を紡ぐ。
「フウン?その黒い靄のようなものは驚かされたが……。我の本気には敵わないようだな。強者は好ましい。やはり吸血鬼にならないか?この四人で世界を統べよう」
「戯言を。仲間がやられたら次はわたし達?だから吸血鬼っていうのは……」
「アレは使い捨ての眷属だ。仲間ではない。だがお前達ならば古の吸血鬼をも超える存在に──」
「その傲慢さがっ!ムカつくって言ってるんだ!」
シャーロットの感情の高まりに合わせて黒いオーラが増大した。今までは身体にうっすらと張り付いているくらいだったが、今では人間三人分くらいの厚みができていた。
その変化に、もっと情報が欲しいとエクリプスの背後の存在は望む。
そんな期待に応えるのが忠臣たるエクリプスの役目だった。
「ホウ、変わったな。何がトリガーなのか。摩訶不思議な現象だ。もっと知りたいぞ、少女」
「お前はここで殺す!エンジェルフェザー!」
シャーロットはフィアにも飛行魔法をかけて飛び出す。
三対一の激化する争いを、とある屋敷から観察する少女と一匹がいた。
『予想はついてるんだろう?』
「スキル『復讐者:十』の効果ですね。まさかグリモアにも記載のないレアスキルだとは思いませんでしたが。そして復讐対象を視認する、感情を抱く、復讐対象と認定する。その辺りで発動、力の増減がある、といったところでしょうか」
『まるで吸血鬼特効のようなスキルだねえ。ああ、グリモアが更新された』
白い魔導書が光る。更新された内容を確認しながら、眷属の目を通して少女は戦いを見続けた。
「このランクも規格外を示すものですね。しかし不思議です。魔法のランクはAなどで示されるのに、スキルは一から十、そして『
『魔法のように序列をつけづらかったんじゃない?実際あのオーラ、ただ良いものじゃなさそうだし』
「ですね。これ以上あのスキルが発動しないように、私からのちょっかいはなしにしないと」
『そうした方がいい』
お茶とお菓子をつまみながら、そんなことを言う一人と一匹。
共有した視界とはまるで別空間のような穏やかさがそこにあった。
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