第11話 2−5 勇者=復讐者

「フレッド、今日はお疲れ様でした。『ケルベロス』の皆様も依頼を受諾してくださったようで。大成功ですね」


「いえ。今までの会長の積み重ねがあったからこそです。会長には先見の明があると伺っていましたが、それを目の当たりにしました」


「ふふ。そういう能力があると言ったら信じますか?」


「信じますよ。そうでなければこの商会は成り立っていませんから」


 シャーロットちゃんたちが本館から出て行った後。そのタイミングを見計らって帰ってきたフリをして初めての商談を終わらせたフレッドを労います。


 フレッドに一つの能力を開示したらあっさりと信じてくれましたね。でも商会が発展した理由はグーちゃんのおかげで、この魔眼はちょっとした補助になってくれただけです。


「実は私、人や魔物を見るとその存在の得意なこととか苦手なこととかわかるんですよ。だから魔物と戦う時も一方的に倒せると言いますか。もちろん絶対勝てない敵なら逃げますよ?」


「そうしてください。……腑に落ちました。随分と適材適所に人を配置なさっているなとは思っていたんです」


「本人のやりたいことと合致していないこともあるので完全な配置ではありませんけど。やる気と能力は別ですから。私も戦う力はあっても冒険者になりたくはありませんし」


「納得です」


 そもそもこの魔眼「オーディンの涙」って完璧ではないですし。全部の能力がわかるわけではないから首を傾げることもしばしば。これ、一応知識のグリモアの所持者に与えられる特典みたいなものらしいです。


 グーちゃんも持っているこの魔眼。できたらこの魔眼の使い方も詳しく教えてくれればいいのに、グーちゃんは嫌だと突っぱねます。


 目の前のフレッドだってよくわからない力があるのに。


 フレッド・ラウム:「生産師スキル:八」「生産職熟練度上昇:四」「恋を知った少年:──」


 前二つはわかります。この二つのスキルがあったから伸びそうだなと思って鍛治師として引き取ったわけですし。ですけど「恋を知った少年:──」ってなんですか。ランクもわからないし、どういう効果があるのかもわかりません。


 恋をすると人は変わると言いますけど、それがスキルに現れるってどういうことなんですかね。フレッドは好きな人がいるみたいなんですけど、誰のことでしょうか。商会にいる人なのかしら。


 初めてフレッドを見た時にはなかったスキル。でも商会に連れ帰ってきたら生えてたんですよね。ランクも見えなかったのでグーちゃんに相談したら『放っておけば?』という素っ気ない返事をされました。


 私は恋をしたことがないので良くわかりません。私にとって恋とは結婚の前段階の状態で、グーちゃんの一件に巻き込むという罪悪感のあるものだったので。


 まあ、恋は置いておいて。このスキルというのはどうやら生まれつきほとんど決まっているようで、大体の人が持っていて二つくらい。そして新しく増えるのは一つが限度らしいということ。


 この辺りの確認はたった三年しかしていないので推測の面が高いのですが。


 あとは例外として、私のように産まれ変わるとスキルが変化したり増えるようです。これも私しか例がいないので要検証事項です。


 吸血鬼に変えてしまうと生前のスキルを一つ保持していて、後は吸血鬼のスキルに変わります。このことから私も真祖に変貌しただけだと思いますが、あまり実験をするつもりになれません。


 蘇生魔法を覚えたとはいえ、そんなものを使ってしまえば今以上に注目されてしまう。なにせSS魔法ですから。のんびりシャーロットちゃんを観察なんてできなくなります。だから却下です。


 フレッドを退室させてグーちゃんを叩き起こします。鼻提灯を作って寝ていたとしても、私の話し相手、じゃない。相談を受けてもらわないと困るのです。


『ふあああ。何?アマリリス』


「教えて、グーちゃん。シャーロットちゃんのスキルに、この三年間で変化はあった?」


『もちろんあったよ。僕に言われなくてもわかるだろう?』


 シャーロット・ロム・オードファン:「魔法師スキル:六」「治癒術師スキル:八」「魔力自然循環:七」「戦闘本能:七」「剣士の心得:五」「復讐者:十」


 なんとまあ、シャーロットちゃんてば六個もスキルを持っているのです。うーん、これは勇者。とはいえ、剣術関連のスキルである「剣士の心得:五」はスキルとしてはそこまで高くない数値です。


 スキルは一から十までの数字で表記されているので、フレッドのスキルがおかしいことはすぐわかります。そういう意味ではシャーロットちゃんの場合高水準のスキル群ですね。


 ただ「剣士の心得」はその上に「剣士の達人」というスキルもあるので、その上で五という数字はそこまで高くありません。王国の騎士団に入れる基準です。

 つまりシャーロットちゃんは剣士としての天賦の才能を持っているわけじゃないんです。むしろ三年程度でそこまで鍛え上げただけの力。


 それでもドラゴンを打倒したので何かしらのカラクリはあるのでしょうが。


 そして見逃せない最高ランクの「復讐者」のスキル。こんなスキルを持っている人は初めてで、その初めてが妹って。泣きたくなってきました。


「復讐って、グリモアを奪った者へ?」


『おそらくね。だからシャーロットは空回りの復讐心が燻ったまま生きているのさ』


「もう私が殺し尽くした後なのに。……やっぱり私とグリモアを失ったのが堪えたのかしら?」


『じゃない?僕から見ても君たちは仲睦まじい姉妹だった。その姉がいなくなって僕のことも見付けられなかったら、負の感情くらい抱くさ』


 実行犯たちも命令を出した元帝国のお偉いさんも帝国という国自体も。全部私が滅ぼしてしまったのでシャーロットちゃんはその復讐心を向けるべき相手が残っていません。


 このスキルのせいで胃や肌、毛の質が落ちないと良いんですけど。シャーロットちゃんには健康で居て欲しい。


 ということですぐにシャーロットちゃんたちが泊まっているホテルに手紙を出します。できうる限りのサービスをして、その上料金は全て私が持つことを書き記す。


 これでもポケットマネーは結構余っているので余裕です。全く痛くない出費ですね。美味しい物を食べるくらいにしかお金って使いませんので。


「うーん。この剣のスキルじゃ不安だなぁ。ちょっと一芝居しましょうか」


『また悪巧み?好きにしなよ』


「またでもないですし、人聞きが悪いことを言わないでください。これはシャーロットちゃんを想う姉心です」


『何でもいいよ。僕が何かをしなければ』


 その辺りはバッチシです。グーちゃんには何もさせません。下手に何かしてシャーロットちゃんに見付かったらマズイですから。


「あと、フィアさんはともかく、ジェシファーさんはちょっと警戒した方が良いかもしれませんね。彼女のことも調べましょうか」


『変なスキルと数字だったからね。うん、調べなよ』


 というわけでジェシファーさんの過去を調べます。本当に白のグリモアって調べ物に便利。調べたいと思った個人情報が更新される魔導書とか、確かに管理されて日の目を見ないように処置されますね。


 過去の経歴を調べて、人格に問題はないとわかったのでそのまま放置します。では色々と準備を始めますか。


 いつものように、暗躍開始です。

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