俺と義妹、あと間宮。
「義兄さんは、どうなんですか……?」
「…………っ!?」
涼香の真っすぐな眼差しが、俺を捉えて離さない。
自分のことをどう思っているのか、と。そんなの決まっている。彼女は俺にとって大切な義妹であり、そしてかけがえのない存在だった。しかし、改まって訊かれると、それはどこか少し違うような気がしてしまう。
俺にとっての涼香。
そして、涼香にとっての俺。
彼女は俺のことを愛していると言ったが、それは――。
「義兄さん……?」
――それは、果たして家族としての意味なのか?
俺はそこに至って、少し考える。
ここで下手な回答をしては、涼香に対して失礼だ。
そう思って黙っていると、彼女は耐え切れなくなったのか身を寄せてくる。こちらをそっと抱きしめて、たしかな柔らかさと温もりを伝えてくる。
「どう、なんですか?」
そして潤んだ瞳で、上目遣いに再度問うのだ。
自分のことをどう思っているのか、と。
それを見て、俺はついに理性を失いかけて――。
「はい、ストーップ! 名演技だねぇ、涼香ちゃん!」
「へ?」
「は?」
彼女の肩を抱きしめようとした、その瞬間だった。
間宮がどこからか現れて、俺たちの間に割って入ったのは。半ば強引にこちらを引き剥がした悪友は、ニタニタと笑いながら義妹に話しかけた。
「あんなに遠慮がちだったのに、始まってみればずいぶん積極的だったね! たぶんゾーンに入ってたんだよ! もしかしたら、将来は大女優かも?」
「え、あ……はは、そうですね……」
対して涼香は、どこか乾いた笑いを浮かべる。
そんな彼女たちの姿に、どこか白けた視線を送る俺に気付いたらしい。間宮はゲラゲラと笑いながらこちらにやってきて、無遠慮に背中を叩いてきた。
そして言うのだ。
「妹ちゃんに迫られて、本気になっちゃった? 駄目だよお兄さん!!」
「間宮、お前なぁ……?」
その言葉で、俺は全身の力が抜けていくのを感じる。
がっくりとうな垂れて、しゃがみ込み、大きなため息をついた。恨みを込めた視線を送ると間宮は、それでも変わらない笑みを浮かべてこう口にする。
「でも、良い気持ちになれたでしょ?」――と。
……殴りてぇ、この笑顔。
俺は握った拳をどうにか引っ込めて、自分の顔に手を当てた。
気持ちを切り替える。そして、
「あいた!?」
「それで勘弁してやるんだから、感謝しろよ?」
ぺちん、と間宮の軽く頭を叩いてやった。
彼女は大袈裟にリアクションを取っていたが、そんなに強くやってない。だから俺はそう言って、何度目か分からないため息の後に、涼香に声をかけた。
「帰ろうぜ、涼香?」
「う、うん! 義兄さん!」
そうして、わざとらしい呻き声を発する悪友を放置して。
俺と義妹は家路に就いたのだった。
◆
「ぶー……なんだよぅ、あの兄妹は」
一人残された志保は、恨めしそうに二人の背中を見送っていた。
そして、一言こう口にするのだ。
「だって、兄妹でしょ……? だったら、結婚できないじゃん」――と。
それは、ちょっとしたすれ違い。
でもきっと大きな勘違い、その始まりだった。
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