俺と義妹、そして悪ノリする友人。
「はぁ……どうすっかな」
一日は何事もなく過ぎ去って、放課後になった。
平穏なのは良いことだが、いかんせん状況が状況である。このような時に何事もなければ、それは嵐の前の静けさ、というやつにしか思えなかった。そう思いながら、俺は下駄箱の中を覗き込んだ。すると、そこにはやはり――。
「誰だよ……!」
――面倒事が入っていた。
可愛らしい便箋に、ハートマークのシールが貼られている。
一見して即席のラブレター、という感じだろう。しかし自慢ではないが、俺は決してモテる方ではない。平々凡々で、このような経験はいままで一度もしたことがなかった。
だから、最初に思い浮かんだのは『罠』という可能性。
「差出人は、書いてないな。……で、放課後に『校舎裏に』ということか」
警戒心最大の状態でそれを睨み、俺は周囲に男子生徒がいないか確かめた。
あるいは、からかい癖のある間宮もあり得るだろう。様々な可能性をシミュレーションし、だがひとまず該当するものはなかった。
そうなってくると、次のパターンは――待ち伏せての嘘告白。
正直にいえば、これが一番可能性が高かった。
「んー……まぁ、涼香も少し遅れる、って連絡あったし」
笑い話の種にでもなればいいか。
そう思って、俺は小さくため息をつくのだった。
◆
そんなこんなで、やってきました校舎裏。
俺は日陰の目立たない場所で、スマホをいじりながら立ち尽くしていた。指定の時間はもうすぐ、しかし周囲に怪しい人影は見当たらない。
これは第三の可能性――完全放置パターン、か。
などと考えていると、聞き馴染みのある女の子の声がした。
「お、お待たせしました。……義兄さん」
「涼香……?」
その人物というのも、我が最愛の義妹である涼香。
彼女は緊張した面持ちで、何度か深呼吸をしてからこう言った。
「きてくださって私、とても嬉しいです!」
「お、おう……」
そして、胸に手を当てて。
ゆっくりと、一歩ずつこちらへ歩み寄りながら。
「私、義兄さんに伝えないといけないことが、あります!」
なにやら、意を決したように。
いつになく真剣な声色で、涼香はこう言うのだった。
「義兄さんは、私のこと……どう思っていますか?」
「え……?」
それは、思わぬ言葉で。
俺はつい何も返せず、沈黙を作ってしまった。すると、
「私は、義兄さんにとても感謝しています。それに――」
彼女は、潤んだ瞳で俺に告げるのだ。
「心から、義兄さんのことを愛しています」――と。
頬を赤らめ、今にも泣き出しそうな顔になりながら。
それは出会って初めて見る表情。
義妹の、ただ一人の女の子としての顔だった。
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