俺と義妹、どうした?






 ――涼香の様子が、おかしい。

 俺と目を合わせると、途端に狼狽えてどこかへ行ってしまうし。家族で朝食を摂っている時だって、一人だけやけに落ち着きがなかった。義理とはいえど、かれこれ数年間も兄妹をしているのだから、彼女の様子がおかしければ気付くというものだ。

 しかし、理由というのがイマイチ分からない。

 強いて言えば、俺のスマホを見た直後から異変が起きた、ということ。



「んー、いったいなんだってんだ?」



 ぎこちない空気のまま一緒に登校し、各々の教室へ向かいつつ。

 俺は歩きながら、自分のスマホをいじっていた。



「スマホを見てから、ってことは…………?」



 彼女はいったい、何を見たのだろうか。

 通常、最初に表示されるのはロック画面だ。そこにはいつか一緒に撮った、俺と涼香の仲睦まじいツーショットが映し出されている。だがこれは当然、涼香だって承知していることだった。

 そうなると、これより先に進んだ内容を見た、と考えるべきか。



「よ、有名人のお兄さん? 今日は珍しく難しい顔をしてるね」

「はいはい。俺はどうせ、有名人の兄貴ですよ。……あと、珍しくとは心外だな」



 などと考えていると、二年生の教室に到着した。

 するといの一番に声をかけてきたのは、一年生の頃からやけに突っかかってくる女子生徒。肩までの黒髪に、ニヤニヤとした締まりのない表情。

 お調子者という言葉が相応しい彼女の名前は、間宮志保。

 野球部のマネージャーをやっており、なんだかんだ世話を焼いてくる奴だった。



「なにか悩みごとかな? それなら、志保お姉さんに教えてごらんよ」

「教えないよ。それに、同い年だろうが」

「えー、塩対応かよー」



 俺はそんな間宮を適当にいなしつつ、自分の席に腰かける。

 そして、再度スマホと睨めっこを開始した。

 すると――。



「ん、どうしたの。そんな親の仇みたいに、自分のスマホを睨んでさ」

「ばーか。普通そうやって、他人のスマホを覗き込むか?」



 間宮は、まったくの無遠慮に俺のスマホ画面を覗き込んだ。

 本当にコイツは、野球部の時からそうだったけどデリカシーがない。仮にも女子なんだから、もう少し涼香みたいな恥じらいを覚えてほしいものだった。

 しかしながら、それを言って素直に従う相手でもない。



「で? で? どしたん? 話聞くよ?」

「何でもない。ただ、お前みたいな無神経女ばかりだと困るな、って思っただけ」

「おいおい、なんだよー! それが親友にいう言葉か!?」

「いつからお前と親友になったよ……」



 なので、適当に切り上げて。

 スマホを仕舞いこんで、俺は逃げるように廊下の方へと視線をやった。すると、そこを通り過ぎる涼香を見つけて、思わず首を傾げる。



「珍しいな。二年生の教室に、何の用だったんだ?」



 義妹がこちらの教室にくることは、滅多にない。

 なのでどうして涼香がここにいるのか、また謎が増えてしまった。でも、




「まぁ、いまは良いか……」




 俺はそう考えて、少しだけ睡眠を取り直すことにするのだった。









「ううぅぅぅ……やっぱり、怒ってるよね……!」




 ――一方その頃。

 涼香は義兄の教室から一年教室へ戻りつつ、ひどく狼狽えていた。

 その理由というのも、先ほど彼が教室で交わしていた言葉の通りである。




『お前みたいな無神経女ばかりだと困るな』




 彼はスマホを覗き込む女子をさして、そう言ったのだ。

 そのことに、涼香は思い切り動揺しているのである。なぜなら、




「み、見ちゃったからなぁ……」




 彼女は今朝、義兄のスマホ――ロック画面のその先を見てしまったのだ。

 そこにあった内容を思い出すだけで、顔から火が出るような感覚が涼香を襲う。しかし今は学校であるため、必死に表情を殺して早足に進み続けた。

 だが、こう思うのだ。




 ――『アレ』が義兄の本心なのだろうか、と。




 でも、確かめる勇気もなくて。

 涼香は悶々とした気持ちのまま、その日を過ごすのだった……。



 

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