俺と義妹、放課後。
「今日は一緒に帰れない、か……」
放課後になって、涼香はそう俺に言った。
いつもなら一緒になって、仲良く雑談をしながら家路に就く。しかし、彼女の様子はやはり今朝からおかしい。さっきだって終始視線を泳がせていたし、しどろもどろになっていた。
顔を赤らめている様子も、どこか違和感が強いのだ。
その表情がまた可愛いとか、言っている余裕は俺にはない。
「やっぱり、なにか見たんだな」
見られて困ることなんてなかったはず。
そう思いながら俺は、画像フォルダを何度もスクロールしていた。するとそこには、子供の頃から今に至るまで、機種変しても残し続けた義妹との思い出がある。
誕生日や入学式に、卒業式まで。
そこにあるのは微笑ましい、宝物のような時間だった。
「これを見て今さら恥ずかしい、ってことはないよな?」
なんだったら、これと同じような内容は彼女のスマホにも入っている。
だとしたらいったい、なんだというのだろう。俺は必死に考えつつ、家に向けての帰り道を歩いていた。すると、視界の端に誰かが映り込む。
その後姿を俺が見間違えるはずがない。
「……涼香?」
それは、間違いなく最愛の義妹だった。
彼女は家とはまったく関係のない方向へと、一人で歩いていく。その動きは緊張によるものなのか、やけにぎこちない。しかし、ここで追いかけるのも変な話だった。
何故なら涼香にだって、秘密にしたいことの一つや二つがあるだろう。
俺にだって、そういったことはあった。
「今日は、そっとしておくか……」
だから、あえて深入りしない。
俺は後ろ髪を引かれるような思いもありつつ、家路を急ぐのだった。せっかくだから、今日は義妹の好きなお菓子でも焼いてやろう。そう考えながら……。
◆
「こ、ここだよね……?」
そのころ涼香は、とある店舗の前に立って息を呑んでいた。
店の看板を何度も確認してから、何度も頷く。そして一歩を踏み出そうとして、しかしそのたびに委縮してしまっていた。
そんな彼女ではあったが、しばしの時間を置いた後に決心を固めたらしい。
「義兄さんのため、だもん!」
そして、彼のことを口に出して自身を奮い立たせた。
それがいったい、どのようなことなのか。おそらく義兄すら理解していないが、涼香にとっては重要なことのようだった。
彼女は大きく深呼吸をしてから、一歩を踏み出す。
店内へと足を踏み入れて――。
「ふええぇぇぇぇぇぇ!?」
――数分後、店内からはそんな悲鳴が聞こえるのだった。
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