第27話 最終話 母のメロディー
本当は何もかも投げ捨てて母の下に行きたかった。母は私に何度も言っていたプロの歌手になった以上、母さんは覚悟しているよ。お前もプロなら立派に唄っておくれ。母の遺言とも取れる言葉が頭から離れない。私はプロ。ファンの前で鳴き声の混じった歌を聴かせることは許されない。あの苦難があるから今の私が居る。
込み上げる涙を必死に堪え私は唄いきった。私の代わりに佐原先生や関係者がステージの奥で涙を流してくれた。
紅白歌合戦終り、佐原音楽事務所と先生とで、打ち上げを行う事に予定になっていたが、少し休ませてあげようという事なった。私は会場から専用車に乗りマンション帰った。
でも女性マネージャーの理沙が居る。二歳下だが良き気がきく子だ。普段は私を送り届けると帰るだが、今夜一緒に飲みあかしましょうと言う。
彼女なりの気遣いだ。それが嬉しかった、一人になると母を思い出し泣いてしまう。今夜思い切り飲みたい気分だ。マネージャーも心えていて、暫くすると沢山の料理が届いた。やがて二人共、酔い潰れて眠ってしまった。
明日は元旦、一般人なら正月休みに入るが、私のスケジュールはいっぱい詰まっている。母を悲しんでいる時間さえない。それが一流歌手の宿命。そしてやっと、やりくりして三日の休みが取れた。それを利用して母の葬儀を行う。既に佐原音楽事務所で夕張に行き葬儀の準備してあった。これも実力歌手なったから出来る事である。今では佐原音楽事務所は美咲の興行を一手に引き受けている。従業員の数も五倍に増えた。
私は千歳空港行きの飛行機の中で家族に誓った。
もう家族はみんな亡くなった。父さん母さん兄さん聴いている?
私は立派な歌手に なったと思う? これからも泣かないよ。代わりに私の歌声でファンを泣かせたい。 私はプロ、そうプロ歌手の矢羽美咲。
了
歌手 矢羽美咲 西山鷹志 @xacu1822
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