第14話 勝負曲 微笑むだけ
そこで恐れ多くも先生に提案を出した。古臭い昔の演歌は今では通用しないそれなら大衆はどんなものを求めているのか、私の考えはこうだ。ジャズのように激しくもありポップスのようにテンポ良く、ブルースのようにしっとりした曲ならどうかと提案を出した。
レッスン室の中央にピアノがあり、その片隅にテーブルと椅子が四脚置かれて居る。
先生はその椅子に腰を掛け、紅茶を啜りながら私の話を聞いていた。
私は先生に怒鳴られる事を覚悟していた。ところが予想に反して先生は。
「ほうそう思ったか、私も考えていた事だ。だがいつも要請してくるのは古い昔気質の曲ばかりでなぁ時代が変わるのなら、我々も変わらなければと思っていたところだよ」
「え! 本当ですか? 私はてっきり叱られる覚悟していました」
そう言って舌をペロリと出す自分がいる。まだアイドル時代の名残が残っていた。
「処で君は生活費どうしているんだね。貯金があるかも知れんが……」
「はい、先生の息子さん頑張ってと言ってくれましたが」
「それだけでは足りないだろう。今の住まいだって安くないだろう
「はいバイト代で殆ど消えます」
「どうだ。バイトはそのまま続けて私の所で、住み込みで働くか雑用だけど私も助かる」
「えっ宜しいですか? そうして頂けるなら本当に助かります」
全てが見抜かれている。しかし有り難い話だ。良かった優しい先生に出合えて。
翌日からアパートを引き払って先生所に引っ越して来た。
先生は新しい曲作りに乗り出した。若い私の意見を取り入れながらの曲作りだ。更に二ヶ月が経過、私はもうすぐ二十四歳を迎えようとしていた。そして出来上がった曲は作詞家と相談して(微笑むだけ)と決定した。当初予定した演歌とも少し違うが、昔で言う歌謡曲に近い。歌詞もいい私も気に入っていた。私はこの曲に賭ける。詩を理解ししっとりと唄った。先生はいいねぇ、これで勝負しようと言ってくたれ。
つづく
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