第15話 特訓の日々

 レッスンの方は歌謡曲の道に進むという事で日々の特訓が続いている。ポップスから歌謡曲に変わっても問題なく歌うことができるようになった。これなら受け入れられるだろう。

 歌は下手だがド素人でもない。一応は歌の基礎を学んで来た。そのせいか先生には、これならもう下手とは言われないだろう。と太鼓判を押されたのだが芸能界は そう甘くはない。一度落ちた歌手は誰が拾ってくれるのだろうか。

 佐原先生は一曲私の為に書いてくれた。半年かけて作られた初めての演歌調の曲だ。


 しかしここからが問題だ。曲が出来てもすぐにレコーデングされる訳ではない。最初に所属した芸能プロダクションなら一曲出来あがれば、その特訓が始まりOKが出ればレコーデングされ売り込みにかかる。ここでは全て自分でやらなければならない。先生の紹介状を持って売込みしなければならない。


 私は個人でデモテープを持って音楽プロダクションを廻っても誰も応じてくれないだろう。こうなれば佐原先生の情に委ねるしかない。佐原先生は七十歳とこの世界では大御所と言われるだけあって数々のヒット曲を生み出したベテランの作曲家であるが、昨今は演歌もなかなか受け入れられないのが現状。果たして万が一、演歌調歌手として再デビューしたとして成功するのか不安は大きかった。


 先生も作曲家生命を掛けた戦いとなった。勿論美咲だって歌手生命を掛けた最後の戦い でもある。これで駄目なら母の所に帰る。落ちぶれた自分をさらけ出しても歯を喰い縛り生きて行くつもりだ。先生のレッスンのお蔭で歌唱力には自信が付いていた。もう下手くそと言わせ ない。私はプロ、もうアイドルではないが大人の歌を唄って人の心を掴んでやる。


つづく

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