第9話 妖精との勝負⑥
――――妖精の少女視点――――
ナナクレナは森の中をひたすらに走っていた。
だが、それはナナクレナでありナナクレナではないナナクレナの話である。
そう、森を走っている少女はナナクレナではない。見た目こそナナクレナだが、中身は別の人物だった。
それこそ私、妖精の少女だ。私が得意とするのは変身魔法。つまり、私は今。ナナクレナに変身して逃走しているのだ。
本物のナナクレナがどこにいるのか不明だが、あの執事とメイドがいれば森は壊滅する。ならば、わざわざ身の危険を犯してまで森に来る必要性はない。それに、今から森に入っても何も出来ない。
ナナクレナの姿をしていれば、上手いこと嘘ついてあの化け物執事達を利用できるかもしれない。勝算はまだある。
私が通っている道は馬車転倒地点と
空中だと見つかりやすいから森の中を通り、ひたすら駆け抜ける。走りながら私はこれまでの劣勢理由を考えた。
そもそもナナクレナサイドに魔物がいることが想定外だった。魔物には私の命令も聞こえるし、石に触れていなくても私を直視する事ができる。しかも、とても強いときた。
「でもね、私の勝ちよ!」
「あら、こんにちはナナクレナさん」
どこからか、そんな声が聞こえてくる。
「え……」
驚くことに私の進む道の先には、一人の少女が立っていた。
血のように濃い赤色に染まったの長髪に、蒼く輝く瞳。そして、幼いながらも整った顔立ちの少女が一人、そこにはいた。そう、本物のナナクレナだ。
「な、なんであんたがここにいるの……」
「あら?私が二人います……。おかしな話ですね」
「茶番はよしなさい!どうしてここにいるの!?」
私がそう叫ぶと、ナナクレナは残虐に満ちた顔をしていた。
「簡単な話です。あなたが私を見失った後、私は森の外で待機していた二人に協力を仰ぎました。そして、二人に馬車を突撃させているうちに私は再び森に入ったのです」
「な、そんな……」
森の入り口にはC班が待機していたはずなのに……どうして。
「魔物にとって馬車は初めて見る生物のようなものです。最初は動揺して追いかけるのではないでしょうか?」
「なるほどね、その隙に森に入ったのね」
「そうです。それからはずっと泉のすぐそばにいました。理由は分かりませんが、あそこには魔物が近づかないようですので利用させていただきました」
「……泉に!?」
確かに泉の近くにいれば魔物に見つかる事はない。何故ならあそこは大森林の中でも神聖な領域なので、私が入ることを禁止していたからだ。でも、なんで魔物が近づかないって分かったの!?普通咄嗟にそんな作戦思いつかないでしょ。尋常じゃないない。
「『なんで魔物が泉に近づかないことを知っていたんだ』って顔をしていますね。理由は簡単ですよ。私が特別な存在だからです」
「何を、言っているの……」
私にはナナクレナの言っている意味が全く理解できなかった。
それもそのはず。妖精の少女が意味を理解できないのは当たり前だ。なぜなら、ナナクレナは前世(これまでの死に戻り)で妖精の森について王子から聞いていたから知っていたのだ。だから森についても熟知している。
「ロクラスト爺やは上手くやったようですね。ねえ妖精さん、気づきませんでしたか。馬車が転倒した位置で何か……」
「まさか……私が
馬車はわざと転倒したのだ。私が追い詰められたら馬車を目印に
「ええ、あなたが空中ではなく地上を通ることもわかっていました。私が同じ策を使って逃げたので、だいぶ印象に残っている事も」
……最初から仕組まれていたのか。私の思考を読んで、そして最後には一騎打ちになるように。なんて少女なの……
「ロクラストとシニアは武術に長けているので、あなたは思ったのでしょう『ナナクレナは森の外に隠れている。ロクラストとシニアに私を捕まえさせるだろう』と。……その時点で私の勝ちですよ。ですが、流石に私に変身していることには驚きました。でも、その驚愕も無意味だったみたいです」
「ど、どうして私がここを通るタイミングが分かったのよ」
いや、そんなこと考えれば分かる。この質問の目的は油断させることだ。勝ちを確信させて、油断した瞬間に不意打ちでナナクレナを倒すのよ!
「馬車が転倒した音が聞こえたら移動して待ち伏せすれば、!?」
……今だ!
ナナクレナが話している最中に攻撃を開始した。
強く地面を踏み込んで、出せる力全てを振り絞って走る。
ナナクレナの身体なので力が弱いが、それは相手も同じはず……
ナナクレナが私の動きに気づくがもう遅い。私の拳は貴方に届……
「まだ話は終わってませんよ」
「ガハッ」
私の拳がナナクレナに届く寸前、ナナクレナの鋭い蹴りがお腹に飛んでくる。その勢いで後ろに吹っ飛ばされた私をナナクレナは逃さず追いかけ、私が地面に叩き込まれた瞬間に捕らえる。
わずか数秒のことだったが、勝敗はついた。
「私が護身術を身につけてないとでも?」
地に這いつくばっている私を力強く踏み、残虐な笑みを浮かべそう呟いた。
私の負けだ。
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