第5話 妖精との勝負②



 「さぁ、じゃんじゃん攻めなさい!そして私のもとにナナクレナを連れてくるのよ!」


 王の木キングツリーと呼ばれる、妖精の森どこからでも見ることができ、妖精の森をどこまでも見下ろせる堂々と威厳を放ち聳え立つその木の頂上で、陽気な妖精の少女の声が響いた。

 

 陽気な声ではあるが、その妖精の少女は1000年以上の時を生きている。その心身が誕生から終始変わっていないので生まれたての幼女のように感じてしまうが、れっきとした大人だ。


 妖精の少女はこの森の管理をしており、強弱関係なく全ての魔物を支配している。


 歯向かおうとする者は誰一人としていない。それは、決して妖精の少女が強いからではない、この王の木キングツリーにある支配者の石ルーラーロッシュを彼女が手にしているからだ。


 支配者の石ルーラーロッシュは、この妖精の森を創った妖精の王が、この森の平和と秩序を維持する為に創り出した魔石た。持ち主に逆らうことができない絶対遵守を妖精の森の中でだけ強制する能力を有している。


 創られた当初は、悪道に走った魔物を管理する為の魔石だったが、あることがきっかけで妖精の王が失踪すると、この支配者の石ルーラーロッシュはこの妖精の少女に譲渡された。


 それからは、このように支配の為だけに悪用されているのだ。


 今現在、この森に現れた人間の幼女ナナクレナを捕らえる命令が彼女から下されている。魔物達が奮闘する中で、妖精の少女は王の木キングツリーから高みの見物をしている。いいご身分だ。


 しばらくすると、魔物達から人間の幼女を見失ったと連絡が来る。支配者の石ルーラーロッシュの能力の一つである支配者と支配される側の意思疎通の力で連絡が来たのだ。

 

 「……見失った?そんなはずないじゃない!どれだけの魔物が一斉捜索していると思っているの!」


 そう言って怒る妖精自身、開始早々にナナクレナを見失っていた。確かに王の木キングツリーからは下の様子を広く眺めることができる。しかし、開始5分ほど経って魔物とナナクレナが遭遇した後、彼女の行動が大きく変化したのだ。


 ナナクレナは、上からは死角で見ることのできない木の下のルートを通るようになった。


 ナナクレナが死角ルートを通る前は、私が王の木キングツリーから居場所を特定して、その情報を魔物達に伝達していたのだが、それが不可能となったので、彼女がの居場所を特定できなくなり、この広大な森の中から一人の少女を見つけるのが困難になった。


 「しょうがないわねぇ……」


 らちが明かないので、妖精は一度下降して散らばった魔物達を収集しようとした。だがその時、馬の鳴き声が森中に響き渡った。


 そして、馬車が一台猛スピードで道なき道を直進してきたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る