第4話 妖精との勝負


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 妖精との戦闘が始まっておよそ3分が経ちましたが、戦況は変わらず私の劣勢です。


 というのも、開始の合図が出た早々に魔物の大群が私を襲ってきたのです。妖精はこの森を管理しているので、好き勝手自分の意思で森の魔物を扱えます。その為、私は妖精が放った魔物の大群から逃げ回っているのです。


 道なき道を抜けて行く。だが、このまま直進していても森から出てしまうだけ。森から出てしまったらこの勝負は不利になる。ですが、私に魔物の大群を倒す力はありません。


 小さな身体で木々の中を突っ切ると目の前に四足歩行の魔物が数匹いました。


 ――まずい………


 直進する道を塞がれて、慌てて後ろを振り向きますが、すでに背後にも魔物が迫っており、四方が囲まれていました。


 逃げ道はもう残っていません。魔物達は段々と私に近づいてきて、その距離は1メートルもないでしょう。


 私は覚悟を決め、元々進んでいた直進の道を走り出しました。


 「ヴァォォ!!」


 私が走り出すと同時に魔物が大きな音を出し吠えて襲ってきます。


 私は助走をつけ跳ぶようにして魔物の背にジャンプします。ちょうど地面に足台になる大きな石が埋まっていたのでタイミングが掴みやすかったです。


 私がジャンプしている間も、魔物は走っています。そのことによってちょうど私が着地する地点に魔物の背中がある。

 

 魔物の背に飛びつき、そこで体勢を整えて再び前に向かって跳び出します。


 魔物は視野が狭いです。なので、私がその視野の範囲外に行ったことで、私にジャンプ台にされたその魔物は何が起きたか分からずに戸惑っている。


 私はそんなこと関係なくただひたすらに走り出しました。

 服はボロボロになり、身体のたいたるところが赤く滲んでいます。


 ですが、魔物が前から出現したことで確信しました。

 魔物の管理をしている妖精には私の位置が分かっている。


 妖精がどのような能力を持っているか見当がつかない以上、私の位置を知られないようにするのは不可能です。


 個人的な推測ですが、魔物が見たものを妖精も同様に見ることができるのではないだろうか。


 それか、妖精はそれと言った能力を持っている訳でなく、ただ私が見える位置にいるという可能性もあります。つまり、森全体を見渡せるくらい高い場所にいるということです。


 この森にはとても大きな太い木があります。高さにして500mくらいあると思われる大きな木です。


 確か、私が読んだ本には王の木キングツリーと記されていました。妖精の王が封じられているとかそうでないとか。


 そこに妖精がいるのなら私の場所を常に特定できていることに説明がつきます。


 「………はぁ、やるしかないですね」


 このまま何もしていなくても私は負けます。ならば、妖精は王の木キングツリーにいると仮定して行動しましょう。まだ死に戻りの序盤ですし、ここで失敗してもどうにかなりますから。


 そうこう考えていると勝利のビジョンが見えてきた。その為にも、今やるべきことは森からの脱出。このまま直進して森を抜けよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る