第6話 妖精との勝負③


 王の木キングツリーの頂点で、妖精の少女は突如現れた馬車について考えていた。


 馬車が現れたのは、ナナクレナがこの森に入った場所と同じ地点からだった。つまり、この馬車はナナクレナが乗車して待機させていた馬車ということになる。


 馬車は王の木キングツリーに向かっているのではなく、王の木キングツリーへの直線経路の斜め45°の位置を猛スピードで走っている。


 「……何が目的なの?」


 ナナクレナを見失ったのは、森の外に出たからだったのか、はたまたナナクレナは森のどこかに潜伏しているのか。もしそうなら森の外にいる援軍をどのように呼び寄せたのか、様々な疑問が浮かぶ。


 だが、その疑問を解決する前にあの馬車をどうにかしなければならない。


 ナナクレナは子供だ。結局大人頼るしか方法はない。

 私を目視する方法だって貴族様々の情報網を使ったのだろう。


 心の中でそう結論付けけたものの、妖精の少女は本当にナナクレナがそんな単純な人間なのか分からなかった。


 ナナクレナのあの目は、目的の為なら死さえ恐れていない眼だった。


 あの目を見たからこそ、ナナクレナという存在を全くの未知と認識してしまう。


 ナナクレナだって、死角になるように木々の下を通り逃げるようになってから、突如位置がバレなくなったので、私が王の木キングツリーにいることは分かっているだろう。


 そう考えるとあの馬車の動きは妙だ。もしかしたらとんでもない策に出ているのかもしれない。


 だが、ここではナナクレナはただの子供と仮定しておこう。武力のないナナクレナは必ず馬車の中にいる、そう考えるんだ。もし馬車に乗っていないのならその時に考えればいい。


 そうと決まれば魔物達に指示を出す必要がある。


 妖精の少女は王の木キングツリーから降りて、高さ10mくらいの地点まで降下する。


 支配者の石ルーラーロッシュは支配が基本的な能力でその他の能力はサブの力だ。その為、魔物との伝達は距離が離れていると出せない。


 正確に言えば、距離が離れていると大勢の魔物への一斉伝達ができない。だが、このような不測の事態では全員に指示を出さなければならないので、降下して地上との距離を縮める必要がある。


 『森の中の全魔物に告ぐ、馬車の止めに入るのよ!Aパ隊、B隊は馬車を囲むようにして退路を断って、C隊は引き続き入り口付近を捜索して!』


 A隊、B隊、C隊とは魔物を三グループに分けたチームのことである。場合によって臨機応変に対応するため、ナナクレナとの戦闘が始まった直後に作っておいたのだ。


 『A隊了解』


 『B隊了解』

 

 『C隊了解』


 応答が返ってくると、それぞれの隊が指示通りの行動に移った。


 地上10メートル地点に停滞しているで、あまり遠くまで見えないが、馬が駆けていく騒音から大体の位置は推測できる。


 しばらくすると、死角となっていた木々の中から馬車が一台道なき道を駆けていく。


 その背後を、馬車を追うようにして魔物の大群が迫ってくる。


 魔物達はなかなか馬に追いつかないが、馬車が進む先には私が指示出しした通り魔物の軍勢が馬車に向かって突っ込んできている。


 それを見てか、馬車は右に逸れようと急ブレーキするが、道が平らではなかったので、バランスを崩すして馬車は勢いよく倒れた。


 倒れた反動で砂埃が舞うと、目線が遮られるが、その頃にはすでに魔物の大群が馬車を囲んでいた。


 砂埃が段々とひいていくと、馬車の扉が勢いよく蹴っ飛ばされて扉が飛んでくると中から人が出てきた。


 馬車から出てきたのはナナクレナではなく、メイド服を着た若い女性だった。

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