第2話 妖精とのご対面
王子との婚約が決まってから一日経ちました。
昨夜のパーティーの盛り上がりは一日経っても止むことはなく、昨夜の雰囲気がまだ残っている。
私は部屋で本を読んでいると、シニアが部屋に入ってきた。
「ナナクレナ様、準備が整いました。行きましょう」
「分かりました」
私はそう答えると、あらかじめまとめておいた荷物を持ってシニアと共に部屋をあとにした。
屋敷を出て入り口の門へと向かうと、馬車が私達を待っていました。
シニアと馬車に乗り、馬に乗った執事のロクラスト爺やが馬車を発進させる。
私たちが向かっているのは、ここから約2時間ほど経った場所にある田舎の大森林です。
別名妖精の森とも呼ばれており、妖精が住んでいると語り継がれている事からそう呼ばれている。
実際、妖精の森には妖精が一羽だけ住んでいます。
本来は、今から11年後に王子とその時の恋人が妖精の森に向かった際にその妖精と契約を結ぶのですが、これといって王子に必要な存在でもないので、私が契約を結ぶことにしました。何かと便利ですし。
本来辿るはずの運命を変えるのは、こちらとしてはあまりよろしくはありません。というのも、運命を変えれば変えるほど予想外の事態が起きやすくなるからです。
とはいえ、既に42回もの死に戻りを繰り返しているので、妖精と契約を結ぶ程度では問題ありません。
妖精の森に着くまでは馬車の中でシニアと雑談を交わしたり読書して過ごしました。
「一つ、訃報がございますナナクレナ様」
「なんでしょう?」
馬車に乗っている最中、執事のロクラスト爺やにも聞こえるようにある会話を始めました。
「ナナクレナ様とも親睦が深かったネクロマ・クロスフィールド様が昨日から行方不明のようです」
「そ、そんな!……無事なんですよね?」
わざとらしく感情を込めて言葉を返す。まるで今知ったかのように。
「いえ。難しいかもしれません。最近は物騒ですから」
シニアのその言葉にロクラスト爺やがぴくりと反応した。だが瞬時に動揺を抑えた。
(……妙ですね。ロクラスト爺は何に反応したのでしょうか?)
先程のシニアの言葉にこれと言って反応する部分はない。……いや、一つだけありました。『最近は物騒』というワードです。家族の中でこのワードは、貴族を狙った殺人鬼のことを指しています。
この殺人鬼については、私も全く分かりません。私はまだネクロマしか殺してませんので、私のことでもありませんし、見当もつきません。
(だとすると、ロクラスト爺は殺人鬼と何かしらの関係があるのでしょうか?)
私は湧き上がってきた疑惑を確かめるため、次なる手を打ちました。
「そんな!ということは、ネクロマ様は殺されてしまったのですか!?例の殺人鬼に!」
ここで殺人鬼の名前を出しますが、ロクラスト爺はまったくを反応を示しません。どうやら全くの見当違いだったようです。
疑惑が晴れた後は読書をして時間を潰していると、妖精の森にたどり着きました。
妖精の森は広大な森で、このユーモレスク王国で相当な知名度を誇っています。
馬車から降りて森に入ろうとすると、シニアが心配して安否を尋ねました。
「お一人で大丈夫ですか、お嬢様」
「問題ないですよ」
妖精の森は魔物が出没しますが、攻撃してくることはありません。妖精が森を管理しているので、妖精は魔物が人を攻撃しないように管理することができるのです。
その為、森の中にはいくつかの村があり、そこに住んでいる人も多いそうです。
シニアを馬車に待機させると、私は森の泉に向かいました。
太陽の光が木々の葉の隙間から差し込んできます。広大な森はまるで永遠に続くと思ってしまうほど大きく、そして神秘的です。
小鳥の囀り声。風に揺れる木々の音。悠々と育っていく植物たち。そのあらゆるが私を森に引き込ませて離しません。
雰囲気に浸りながらも森をしばらく進むと、透き通った透明な水が特徴的な泉にたどり着きました。
泉はあまり大きくありません。私の屋敷の庭程度でしょう。それに木々に囲まれているため、闇雲に探しても見つかりません。
この泉こそが妖精の住処なのです。ですが、妖精はある事をしないと人間には見ることができません。
そのある事とは、泉の底にある輝いた石に触れる事です。
知らなければ、まずまず泉の底まで行こうとは思いませんが、私は王子から話を聞いていたので知っていました。
王子は偶然石に触れたそうです。恋人が泉の底に落としてしまったペンダントを拾おうした所、石に触れ妖精が見えるようになったらしいです。
私はその小さな身体をできる限り使い、頑張って泉に手を伸ばしますが、水に触れることができませんでした。
王子に聞いていましたが、本当に水に触れることができないとは驚きです。
水に触れることができないので、当然濡れることもありません。
私は泉に飛び込むと、数メートル泉の底に向かって泳ぎます。水に濡れはしませんが、呼吸が出来るわけではないので、泉に入る前に満遍なく息を吸ってから入水しました。
そうして泳いでいると泉の底に着きました。迷惑なことに、泉の底には沢山の石が散っています。考えてみれば、泉の中なので当然です。ですが、これではどの石を取ればいいか分かりません。
そんな中、一つだけ周りとは違う異彩を放つ石を見つけました。周りの足が太陽の光に当てられ光っているのに対して、その石だけ自ら光っているように感じました。
息が苦しくなってきたので、私は迷うことなくその石を手に取りポケットにしまって地上に向かいました。
地上の戻り手のひらをみると、先程手に取った石が消えていました。ですが落としたはずありません。
「あなた、運がいいわよ!私と出会えたんだから!」
私が困惑していると、無邪気な子供の声が聞こえてきました。
声のする方を見ると、そこには腰に手をあて上機嫌な妖精が一人いました。掌に収まるくらい小さい、可愛らしい妖精が。
「よろしくねっ!」
妖精は楽しそうに笑い、目の横にピースを作った。
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